サキュバス、受肉の手伝いをする事になりました2

 で、連れてこられたがここである。


「超越バイオニクスラボ」


「なんだかサガフロンティアにありましたねこういう感じのダンジョン」


「あぁイベントが丸まるボツったところな。なんでもリマスター版では実装されるらしいが」


「あ、それ知ってます!、あと聞いた話ではヒューズが主人公になるらしいですよ!」


「へぇ!? あの裏解体真書でノベルが掲載された幻の八人目の主人公がついにプレイアブルに!?!」


「そうです! エミリア関連のイベントやサイレンスとの絡みとかが楽しみですね!」


「家でカレー作ってる課長にも教えてやろう!」


「SaGa Frontier Remastered ! バイナウ!」




 



 



「それで、ここの研究所とお前が食事を摂る事とにどういう関係性があるんだ?」


「詳しい話はここに住んでるおじいちゃんから聞いてほしいんだけど、なんか、人間の身体を造ってるんだって。私、それに取り憑けたらいいかなって」


「ふーん……え? お前人と話したの? というか話せるの?」


「うん。お兄ちゃんとだって話してるじゃん」


「言われてみればそうである」


 確かにそうだ。幽霊だって元は人間。対話ができないはずがない。街に蔓延る人達だってそうだ。ただちょっとコミュニケーションが怖いだけに違いない。心を開けば幽霊だろうが動物だろうが草だろうが気持ちは理解し合えるはずだ。あぁどうして俺はその事に気が付かなかったんだ。見よ。世界は美しい……


「ピカ太さん。人間の身体造ってるってちょっとヤバくないですか?」


「? なんだ? 脳はともかく、人体構造なんてとっくに解明されている。主成分は水分と蛋白質だし、言うほど難しくもないだろう。民間での研究材料としては割とオーソドックスだと思うが」


「そういう意味ではなく……ピカ太さんってたまに悪魔寄りな台詞吐きますよね」


「この世に悪があるとすれば、それは人の心だ」


「私はピカ太さんそのものが邪悪の化身な気がします」


「ディオか俺は」


 などと言っている間に玄関ブサーを押下。押したくなるけど押されたくはない筆頭の玄関ブザー。次点でファミレスのお呼び出しボタン。他人の不快感を尻目に愉悦に浸れるアイテムは尊い。


「はぁい! 今行きまぁす!」


 なんだ? 女の……声? マリはおじいさんと言っていたがどういうわけだろうか。家族か仕様人か?


「……」


「……」


「……」


「……」


「……来ないですね」


「……」


 ブザー押下(二回目)。


「今! 今行きますから! 待っててくださいねぇ!」



「……」


「……」


「……」


「……」




 ブザー押下(三度目)。



「今行くっつってんでしょ! せっかちだねぇあんたも!」



 ブザー押下(四度目)。


「ちょっと! しつこいよあんた! いい加減にしてよ! 訴えるよ!」



 ブザー押下(連打だドン!)



「うっっっっっっっさ! ちょ! ねぇちょ! うっさいんだけど! おっまホント…ホントいい加減にしとけよ!? 大概にせぇ大概に! お前これカメラで撮ってるからな!? 逃げれんからな!? 覚悟しとけよ!? ぜったい豚箱にぶち込んでやるからな!?」



「ピカ太さん、遊んでませんか?」


「まぁ少し……それにしても、これだけブチキレてるのに怒鳴るだけというのも妙な話。不自然極まりない。ここは罵倒を無視して中に入ってみよう」


「え? いいんですかそんな事して? 不法侵入ですよ?」


「大丈夫大丈夫。こんな怪し気なラボだ。きっと法に触れるような事やってるだろう。警察には言えんよ多分。よって躊躇う必要はない。ガンガンいこうぜ」


「発想がヤクザのそれですね……あれ?」


「なんだどうした」


「いえ、マリちゃんがいないなって」



 本当だ。どこ行ったんだあいつ……と思ったら、なんだ、ラボから透けて出てきたぞ。



「お待たせ。おじいちゃん呼んできたよ」


「え? 呼び鈴の意味とは?」


「すみませんね。あれはダミーで、ブザー押すと適当なアクションを返すよう設定しているんですよ。カメラで人物識別も可能だし、返答もディープラーニングを使って自然かつ豊富なバリエーションの実装に成功しました。凄いでしょ? アプリ出てるから買ってね。お値段なんと三百円。バイナウ」


 急に現れていきなりダイレクトマーケティングとはいい根性をしている。こいつがマリの言っていたおじちゃんで、この怪し気な研究所の責任者か。うさん臭さしかないが、一応挨拶だけはしっかりしておくか。


「どうもはじめまして。私、輝ピカ太と申しまして、そちらにいるマリの保護者代理を務めております」


「はいはい。マリちゃんから話は聞いています。まぁ、上がってください」



 うーむ。話は通じそうだが……



「……なんか思ったより普通の人ですね」



 ムー子。お前それ、滅茶苦茶失礼だぞ。まぁ、相手に聞こえぬよう耳打ちで伝える配慮は認めるが……




 ペロリンチョ




「……お前、なんで今耳舐めた?」




「いや、興奮するかなってぇぇえぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!」



 路上でのパイルドライバーは危険です。人外以外の相手で真似するのは絶対にやめましょう。



「お兄ちゃん。遊んでないで早く行こう」


「そうだな。すまん」


「ま゛っ゛て゛く゛た゛さ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛い゛」



「うっわムー子血まみれじゃんどうしたん? ほら、これで血を拭きな」


 ハンカチをポイ。


「あ゛ん゛た゛の゛せ゛い゛た゛け゛と゛あ゛り゛か゛と゛う゛こ゛さ゛い゛ま゛す゛ぅ゛ぅ゛ぅ゛ぅ゛ぅ゛ぅ゛ぅ゛ぅ゛」



 遊びはここまで。さっさと中に入ろう。俺も暇じゃないんだ。

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