サキュバス、受肉の手伝いをする事になりました3

 しかし、促されるままに中に入っては見たが存外普通だな。ステレオタイプなマッドサイエンティストよろしくビーカーやら謎のカプセルやらがあるかと期待したがそんな物どこにもない。随分片付いているしいい匂いもする。アロマだろうか。


「あ、ピカ太さんロボピッチャありますよロボピッチャ」


「あぁマサルさんで出てきたやつ。実物見た事なかったんだが、小さいな」


「そりゃキッズ用のアイテムですから。でもちゃんとボール投げてくれるんですよこれ。後で借りて遊びましょうよ」


「図々しい奴だな……」


 こいつは平気で人の物を無断で使ったりするから質が悪い。この前も俺のステンレスグラスで酒飲んでやがったし。末っ子なのだろうか。


「生憎と壊れているんですよそれ。直せなくはないんですがね、手間を考えると。さ、お茶をどうぞ」


「ありがとうございます。このアホが勝手に言ってるだけなのでお構いなく」


「え? アホ? 誰々? 誰の事ですか?」


 メンドクサ! 無視しよ。


「ところで、本日は我が愛しの発明品、エメス八号を買い取っていただけると伺っておりますが」


「エメス八号……」


 そんなフリーゲームが昔あったな。意味は確か……


「この時代にゴーレム作ってるんですか? ヴィンテージですねぇ」


 そう、ゴーレムだ。しかし、もう少し言葉を選べクソムー子


「確かに酔狂ですねぇ。ただ、エメス八号は最先端です。電場応答性高分子とCNT筋線維。それに独自の技術で生成した戸室繊維……あ、戸室ってのは私の名前なんですが、ともかく複数の機構を緻密に組み合わせたアクチュエータでありまして、限りなく……というより人間そのものの機能を備えた完全なる疑似生命身体を完成させたのです! しかも! しかもですよ! エメス八号は子宮と卵子まで実装しているんです! 分かりますか!? 子供ができるって事なんですよ! これはねぇ! 生命に! 自然に勝利した証なんです! だってそうでしょう!? 人工物が遺伝子の揺り篭になるんですよ! なのにこれを生命に対する冒涜だとかなんとかほざく馬鹿者どもが実に多い! 踏み込んではならない神の領域!? 知りませんよそんなものは! いいですか!? 神などいない! 人間は自らの手によって歴史を築き技術を発展させてきたのです! それを顔も知らない神の名の下に停滞させるですって!? はぁ~~~~~~~愚か!? 実に怠惰! いや一種の慢心ですねこれは! 人類はこれ以上の英知がなくとも問題ないという傲り高ぶった低俗な特権意識ですよ! それを覆い隠すために神などといった得体のしれない存在を担ぎ上げ倫理なんていう鎖で自縛するんですよ! いいですか!? この技術が一般化し世に広まれば人は死を超越し無限の可能性を手に入れる事ができるんですよ!? それが何故分からないんだ奴らは! あったまきた! 今からテロだ! こんな事もあろうかと! 増やし続けた細菌類! これを日本の至る所にばらまき恐怖のどん底に陥れてやるのだ! そして人間は私の前に跪く! その時こそ新たな時代の幕開け! 戸室元年の始まりだ! さぁ! 貴方達も協力してくてるね!? グッドサイエンス! 共に征こう輝かしい未来へ!」


「嫌です」


「あ、そう。それは残念」


 なんだこいつ。話が通じる分逆に怖い。狂ってんのか正気なのか全然分からん。


「おじいちゃんはたまにこうなるから気にしないでねお兄ちゃん」


「ふーん」


 お前子供の前でもこんな調子なのか。これは教育上よくないな。マリには後で出入り禁止を伝えておこう。


「で、エメス八号なんですが、すぐにでも動けるように準備してあります。後はマリちゃんが取り憑くだけですよ」


「それはありがたいんですが、幾つか質問が」


「なんでしょうか」


「神は否定しているのに幽霊は否定しないんです?」


「そりゃあ目の前に現れちゃうとねぇ……私も当初は否定的だったんですが、実物を見せられた以上信じざるを得ないでしょう。しかし、これで霊魂が非科学的な事象ではないと判明したという事。ある事象には必ず要因がある。つまり理屈があって理論が成り立つんです。という事は幽霊も科学的な解明が可能というわけで、いやぁこれは面白いなぁと、また新たに究明すべき対象ができたなと喜んでいる次第でございます。いいですか? 世の中にある全ての現象、物質は数式で表す事ができるんですよ。不思議な事なんて何一つとしてない。超常現象なんていうのは未だに理屈が解明されていないだけなんです。それを馬鹿な人間が適当なオカルティズムに毒され浅ましい結論を糊付けしているだなんて許し難い! 貴方もそうは思いませんか!?」


「いえ、別に」


「そうですか。で、他にご質問は?」


「メンテナンスなんかは必要なんでしょうか?」


「あぁそんなものは必要ありません。我がエメス八号は代謝を行えます。怪我も自然治癒しますし免疫もあります。まぁそれ故限界値は低くなっていますが、その辺は安心してください。増強剤に加えて合金骨と内臓モーターをオプションとして設置する事が可能となっております。これによりトン単位の負荷にも耐えられるようになっておりますが、お付けいたしますか?」


「マリこれいる?」


「いらな~い」


「いらないそうです」


「そうですか」


「最後に。お伺いしたいのですが、お幾らなんです? そのエメス八号」


「はい。税込みで三億八千万円。二千万円はサービス割引させていただいております」


「おいムー子、マリ、帰るぞー」


 そんな金があったら出雲そばやに出資するわ。


「えー!? ちょ、待って! 待ってください! エメス八号買ってくださいよ! 絶対損させませんから! ね! あ、そうだ! オプションパーツ無料で付けます! これでどうでしょうか!?」


 食い下がる~~~なんだこいつ!? 


「三億八千万なんて金出せるか! 俺の年収いくらだと思ってんだ!? 二百五十万だぞ!? ふざっけんな奴隷社会日本!」


「プークスwwwピカ太さんワープアじゃないですかwww底辺乙wwww草しか生えませんわwwwwwちなみに私の今月の動画収入は五十三万ですwwww」


 よし。外出たらムー子を殺そう。


 硬い殺意を抱き「検討します」と一時退散。お暇後、ムー子に雪崩式ブレーンバスターをかまして帰宅の途に就く。しかし、約四億かぁ……

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