サキュバス、増えました2
ひとまずゴス美とやらに茶を出してやると「あ、どうもどうもとんでもないですありがとうございます」と三度頭を下げて丁寧な上面を見せた。中々できているが、いかんせん裸。デカい乳が弾け気色が悪い。指摘してやろうとも思ったが、個人の身体的特徴を悪く言うのは道徳的によろしくないので見て見ぬふりをする。
「で、ゴス美さんは、いったいぜんたいどうしていらっしゃったんですか?」
「そりゃあもう。さっさとピカ太さんの精気を搾り取っていただくようムー子に発破をかけに」
「なるほど。こちらとしてもこの狭い部屋でVチューバーと同棲なんてまったく不快適極まりないものですから、いたせるのであればさっさといたしてお帰り願いたいところでございます。ですが、そんなわけにもいかないので、できれば連れて帰っていただければありがたいなと」
「そんなわけにいかないとは、何か宗教的な理由が?」
「いえ。単純に性的な興奮を覚えないだけです」
「あぁなるほど。つまりムー子に魅力がないと」
「まぁ魅力はないですね」
「ちょっと酷くない!? だいたい……」
「ムー子」
「はい!」
怖。声色鋭すぎだろ。まるでナイフのようだ。さっきまでの営業用猫の皮ボイスとは打って変わってライオンの唸りが如く重い。さすが課長。威厳があるなぁ。
「私、常々あんたに女を磨けって言ってるよね? どうしてできないの? ちゃんとエステ行ってる? 美容室は? ネイルは? メイクは? ムダ毛の処理は? 香水は? 全部抜かりなかった? あったよね? 見れば分かる。あんたはずっと女をサボってきた。なにその恰好。スウェット? 髪も痛んでるし爪もボロボロ。おまけにノーメイクとか何考えてるの? よくそれで男の前に出れるね」
「う“う”う“う”……す”み“ま”せ“ん”……」
「すみませんじゃないのよすみませんじゃ。あんたはいつも手を抜いて失敗する。この前だってそう。無毛好きな男だってデータあげたのにアンダーヘアの処理を忘れて結局精気取れなかった事覚えてる? 覚えてるよね。どうして何度も失敗するの貴女は。なんなの? やる気ないの? もっと頑張ってよ。どうして頑張れないの? ねぇ。頑張れって言ってんの。できるよね? やれよ。やるんだよ! なんなんだよテメェ! いつまでも甘えてんじゃねぇぞコラ!?」
「あ、あ、あ、ご、ご、ごめんなさいぃぃぃぃぃぃ……」
「ごめんじゃねーんだよ! 謝って許されるのは学生までなんだよ! お前が下手したらみんな困るんだよ! 分かるか!?」
「わ“、わ”か“り”ま“す”ぅ“ぅ”ぅ“ぅ”ぅ“」
「分かってねーじゃねーか! 分かってねーから失敗するんだろうがよ! 挙句なんだテメーVチューバーってよぉ! クソキモオタクからの気持ち悪いコメントで悦に浸ってないで仕事しろよテメェはよぉ!」
「ひ“! は”あ“せ”」
ムー子め。涙と鼻水でまともに声を出せなくなっているな? ウケる。
しかし詰めすぎだろ。パワハラとかそういうレベルじゃないくらいに人格を否定している。これはムー子も恐れるわけだ。まぁ面白いからいいんだけど。しかしゴス美の乳よく揺れるなぁ。やっぱり気持ち悪い。
「ともかくさっさとヤッてしまいなさい。今、ここで」
「あ“い”」
勝手に布団を敷くな。あと顔拭け。体液で顔がぐちゃぐちゃだぞ。
「お“ね”か“い”て“す”。た“い”て“た”さ“い”」
「え、やだよ気持ち悪い」
「う"え"う"え"え"ぇ"ぇ"ぇ"ぇ"ん"」
くそうるさい! いい歳こいてこんなに泣くか普通。いかん。このままでは近所迷惑になりかねん。こうなったら……(キコキコーン!) スリ〜パ〜ホ〜ルド〜 (ポワンポワンプァ〜ン)
「落ちろ!」
「ぐえー」
落ちたな。
「ピカ太さん。ちょっとそれは酷いんじゃないですか?」
端で見ていたゴス美からの苦言に驚き「お前が言うな」と返す。なんという棚上げ。こいつ頭おかしいのか。
「私の叱責はあくまで愛の鞭。ムー子を思えばこその叱咤激励。しかし、貴方の行為は完全なる尊厳破壊。ムー子に対する敬意が感じられない。上司として、見過ごすわけにはいきません」
お前のパワハラも十分尊厳の侵害に該当するぞと言おうと思ったが止めておこう。この手のタイプは自分が一番正しいと思っている危険思想の持ち主。何を言っても馬耳東風。釈迦に説法。オールドタイプにニュータイプの電波なのだ。正論を言っても聞く耳持たぬだろう。
「ここはムー子に代わり、私自らお相手を務め数々の狼藉を悔いていただきます。お覚悟はよろしいですか?」
「面白い。やってみろ」
「その余裕……いつまで持ちますかね!」
うーん。乳が暴れている。気持ち悪い。しかしこのモーション見た事がある。なんだったか。KOFのK9999がこんな技使ってたような……
「見せてあげましょう!サキュバスの秘儀を!」
あ、思い出した。
「オープンユアハート!」
それから一か月後
「どーもー。淫乱系Vチューバー。ユーバス。咲でーす。はじめましての方も常連の方もよろしくでーす」
「どうも。相方のムマ・姫初です。本日もよろしくお願いいたします」
「もぉー硬い硬いムマちゃん。難くするのは男のアソコだけにしときゃなきゃー」
「あ?」
「すみません……」
ムー子と同じく帰れなくなったゴス美は俺の家に居候を決め込む事となり、スパチャの振り込みがますます増え、いよいよ法人化を真剣に考えなくてはならなくなった。なんというかまぁ、木乃伊取りが木乃伊となったわけだが、俺にとっては一難去ってまた一難という具合であり、いやはや七難八苦、弱り目に祟り目で、まったく腹立たしい事この上ないのだった。
「あ、ピカ太さん! 配信終わりました! 今晩は白子の天婦羅とマツタケがいいです」
「ムー子。白子はポン酢以外認めない」
「えー天婦羅の方が絶対美味しいですよぉ」
「は?」
「ごめんなさい……」
あぁ、めんどくさい。
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