第2話 宿屋にて
※ いきなり過去編から始めたのは間違いだと思い、合間に普通の本編を入れていきます。ご迷惑おかけしてすいません。
無事に宿に帰った私は女将さんに挨拶だけして今や私のホームと化している部屋に戻る。
後手に扉の鍵を閉め、ベットに近づきながら影鎧を解除しダイブイン。
「ふぁ〜……つかれた」
うつ伏せに寝ながら私は枕にそう零す。
影鎧は見た目通りの防御力を持っており、しかも軽い。だけど、やっぱり息苦しさは感じるわけであり--解除した後の開放感が私は好きだった。
チラリと壁にかかっている時計を見る。まだ昼過ぎだった。あのドラゴンを倒してから報告まで含めても、二時間経っていない。まあ、私の職業能力が便利すぎるのもあるけど、なんだか暇を持て余してしまっている。
「……日課、やろうかな」
体勢をうつ伏せから座るように変える。そして徐に手を目の前にかざして暗闇ノ渦を発動。胸あたりの高さに現れた黒い穴に、私は手を突っ込んで目当てのものを探しだす。
「えーっと……あ、あったあった」
感覚でそれを発見し、ズルリと手を引き抜く。そして私の手が掴んでいるのは一冊の本。題名は『回復魔法のススメ〜治癒系職業に就いたアナタを応援』だ。
「……」
とりあえず無言でページをひらく。そこで最初に目に入るのはこんな文字だ。
『注意! 治癒系職業ではない人はこの本を持つだけ無駄なので必要な人に譲りましょう』
「……」
……毎度毎度イラつくが、どのページにもこの注意書きが最初に書かれているため、しょうがないのだ。もう私は慣れた。
注意書きを飛ばし、私は目当てのページに目を向ける。
「今日はこれに挑戦しようかな」
私が開いたページは下位回復魔法編の一ページ、リジェネ編だ。
「………ム…」
目を閉じ、座禅を組む。先ずはいつも通り魔力を感じるところから。そして次にその魔力を聖属性に変換するイメージ。次は発動させたい魔法を言葉に変える。
「リジェネ」
そして同時にその効果を発動させたい対象も決める。今は私一人しかいないから私に。けれど--
「--やっぱダメかー」
魔法が発現した証の燐光が出なかった時点で発動失敗である。ちなみに、回復魔法が発動した時の燐光はオレンジ色だ。その燐光の輝きは魔法の位で変わっていき、超位魔法になると色も輝きも派手らしい。私の周りには使える人はいないけど。
肩を落として私はもう一つの日課である魔法を発動させる。
「《ヒール》……うん、発動できる」
小さく私の体にオレンジの燐光が弾ける。少しだけ気分が良くなった気がする。怪我してたら少しは治るくらいの効果かな。
この一連の流れはいつも通り過ぎて、私はついため息を吐いてしまう。まあ、地道に続けていこう。スクロールで覚えるのもいいけど、こうやって修行したほうが、私頑張ってる感があっていいのだ。
と、いつものように自分を励ます。ただ、現実は厳しいのだけど。
この二つが私の日課である。回復魔法の習得と、唯一ひとつだけ覚えている
何故私がヒールしか覚えられなかったのかは、どれもこれも、私の適正職業の所為なのだ。
……光の回復魔法と、闇の暗黒騎士。
相反する二つの属性のせいで、私はなりたかった職業に就けず、真逆の職業になってしまった。普通の人は、どんな職業でもそれに納得し、今までの生活を変化させる。それが天職とばかりに思いながら。
……と、言っても努力次第では、適正職業をある程度はコントロールできるのが通説。
だからみんななりたい職業に目星をつけて行動をする。剣士系に就きたいのなら、剣を振る。戦士系なら体を頑丈に。魔法士系なら魔力関連を鍛える、など色々方法はある。
--そして、神官系なら神に祈りを捧げ、無益な殺傷はやめ、食事や自身の行動にも気を使う。
私は2年間努力した。8歳の頃に出会った聖女に憧れて、その生き様に感銘を受けて。
……そうして2年後、10歳の私が告げられた職業は
「何でこんな職業になったんだろうなー……」
『暗黒騎士』という神官系とは真反対の、闇属性の剣士系だったのだ。……さいあく。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます