聖女になりたい暗黒騎士〜今日も今日とて治癒系スクロールを探し求めます。

第1話 プロローグ

正面から迫る火炎の波を、私は【暗黒騎士】の職業能力ジョブスキルを発動し、剣を持っていない左手で受ける。


暗黒ダークネス


丸い小盾程の大きさの穴が、手のひらから少し前方に展開される。今にも私に到達しそうな火炎の息吹は、その穴に吸い込まれていく。


「ゴアアアア!!」


咆哮を上げながら火炎の息吹を吐き続けるドラゴン。私は暗黒ダークネスをその場に固定化。これで、火炎を吸い続ける。


そして私は静かに……自分の影に身体が溶けるように沈ませる。


暗い暗い空間に私は浮く。水の中にいるような感じだ。


これも職業能力の一つ。影の散歩道シャドームーブ


『先ずは逃げられないように……』


体重を支えている二本足を斬ろう。



--ドラゴンという生き物は、長い年月を生きる生物だ。その本質は成長。長生きをする事によって、能力を高めていく。


そして、このドラゴンの名は老竜とギルドからは呼ばれる老齢種。最近になって近隣を荒らしている迷惑なドラゴンだった。


基本的に、ドラゴンという種族は長生きすればするほど賢くなる生物だ。だが、たまにこういった偏った成長をするドラゴンもいる。


今私が相手をしているコイツもそれに該当する。



今も火炎の息吹を吐き続けるドラゴン。その絶好のチャンスを逃さず、私は動きだす。


ドラゴンの足元の影から私は勢いよく飛び出しつつ、職業武技ジョブアーツを発動する。


「ペインスラッシュ」


両足にその武技を叩きつけ、私はドラゴンの正面に降り立つ。


「!!!??」


ペインスラッシュを叩きつけた瞬間にドラゴンは息吹を中断した。


そして、ドラゴンは苦悶?の表情を浮かべながらその長い首を地面に跨げた。そうして定位置に来た首を私はゆっくりとした動作で、確実に--断ち切る。


大断剣パワースラッシュ








 ―――ドサリ、と、証明部位受付カウンターに私は竜の牙をつめた袋を置いた。多少の重量があるせいか木材のカウンターは少し軋んだが、気にしない。


『はい、竜の牙』


金属製の兜の中で、呟いたその言葉は反響されて受付嬢に伝わる。

少しぶっきらぼうな言い方だが許して欲しい。コミュ障なのです。


「少々お待ちを…………はい、確認できました。間違いなく《老竜》の牙ですね」


受付嬢のその言葉に、固唾を飲んで見守っていた周りの冒険者達は声をあげた。


「これで遂に【黒騎士】も金剛級の仲間入りか……!」

「まあ、当然だな。寧ろ遅すぎたくらいだぜ」

「うちのギルドからも金剛級が出るとは鼻が高いぜ!」


好意的な言葉が聞こえてくるが、特に私は関わらない。……事務的な事以外、話せる気がしない。



『……これで昇格依頼は終わり?』

「あっ、はい! 昇格組織依頼ギルドオーダー《老竜》の討伐証明部位…老牙を受領しました! これで、レイラ様の冒険者等級が金剛級に昇格しました。おめでとうございます!」


『そう……ありが『うおおおおおっ!』


受付嬢の言葉を皮切りに、後ろの冒険者達と一部の受付嬢達が歓声を上げた。


……普通にびっくりした。心臓がバクバクする。

……今日はもうお家に帰ろう。流石に竜退治はちょっと疲れた。


兜の中で溜息を一つ。さて、偶には歩いて帰ろうか。


……なんて考えていたが、私に向かって殺到してくる冒険者達に気づいたので、私は慌てて影の中へ溶けるようにその身を隠した。



影の散歩道シャドウムーブ



……騎士系統にあるまじき能力だが、便利だから重宝してる。こういう時にも使えるしね。



そこは私だけが存在している暗闇の世界。人の影から影へ移り進み、殆ど定住している宿を目指す。音も光もない空間だが、冒険者ギルド方面の影がなんだか騒がしいのは、きっと私の気のせいじゃないのだろう。


……今夜の晩御飯は豪勢にいきますか。


「あっ」


依頼の報酬、貰うの忘れてた。

……まあいいか。明日もらいに行こう。


今度こそ、治癒系統のスクロールだと、いいなぁ。







「あれ? 黒騎士どこいった?」


一人の冒険者が黒騎士がいないことに気づき、周りの者もその声で周囲を見渡したが、目立つ黒金属の鎧は見当たらなかった。


「さっきまでそこに立ってたはずだが……」


「えーっ! せっかくドサクサに紛れて兜の中身が見れると思ったのに!」


落胆した声を出した女性冒険者に同意するのは同じく女性である冒険者だ。



性別不詳の黒騎士。



その正体は謎に包まれている。声から察することは兜のせいでできず、鎧のせいで体つきからも判別できない。ただただクールで強い冒険者としてこのギルドでは知られている。


最初こそはその不気味な風貌で噂を呼んだが、淡々とギルドの依頼をこなしていくその姿に騎士道に通じる何かを感じ、見た目のことも考慮され、ついたあだ名が《黒騎士》だ。


最も、そう呼ばれることを本人はあまり好んでいない。……本人の性格ゆえ、注意することもできないが。


その噂のせいか、性別不詳と言われてはいるが、大抵の人は男性と勘違いをしている。主に女性冒険者のせいなのだが。



……その話はまた後日。




※ 十二月十八日 過去編は合間に、本編を追加しているので良ければ呼んでください。

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