119話:私のやりたいこと

 映画の後はいつも練習で借りているスタジオへ。撮影係として、写真部の福田くんも合流した。なっちゃんが個人的に頼んでくれたらしい。


「わざわざありがとう」


「良いよ。おれ、今日バイトもないから。ただ……映像は専門外だから、うまく撮れなかったらごめんね。一応練習はしてきたけど」


「良いよ良いよ適当で。撮れてれば全然」


 機材の準備をして、こなっちゃんのカウントを合図に曲に入る。一曲目は『あまなつ』

 私達のグループ名と同じタイトルのこの曲は、私達の代表曲でもある。甘夏のような爽やかさを意識した青春ソングだ。


 続いて二曲目は『恋情』

 恋をテーマにした曲。『誰がなんと言おうと、この恋は本物だ』そんな強いメッセージがこもっている。


 三曲目は『花火』

 なっちゃんと私のツインボーカルバージョン。一度も人前で披露したことのない特別バージョンだ。文化祭でもやるつもりはなかったが、メンバーの希望で急遽入れることになった。文化祭には未来さんにも来るが、このことはまだ話していない。私が歌っているのを聴いたらどんな顔をするだろうか。


 そして最後は『さようなら。またいつか』

 未来さんの代の送る会で披露した曲。卒業する先輩達へ向けた曲として作った歌詞だが、解散を控える今の私達には染みる。なっちゃんも歌いながら泣き始めてしまう。それでも声を震わせながら、詰まらせながらも、最後まで歌い切った。


「……福ちゃん、最後の曲だけもう一回撮り直していい?」


「おう。何テイクでも付き合うよ」


「ありがとう。みんなも、いい?」


「良いよ」


「私も泣き顔で残したくないから撮り直したい」


 涙声で言うのはこなっちゃん。改めて見ると、私以外みんな泣いている。演奏中はなんとか耐えたのに、みんなのそんな顔を見せられたら私も我慢できなくなってしまう。

 きららさんも貰い泣きしてしまい、しばらくみんなで涙を流してから、少し休憩して再開する。

 誰かが涙を流すたびに、何度も取り直してもらい、ようやく撮り終えたところで、なっちゃんが言った。「本番は笑顔で終わろうね」と。


「約束」


「一番最初に泣いた人がそれ言いますの?」


「うぐ……」


「本番泣かないようにね。リーダー」


 福田くんにもいじられ、笑い声がスタジオに響く。

 撮れた映像は、私が預かることになった。最後の曲だけ泣いてないバージョンに差し替えて編集し、後日メンバー全員に渡すつもりだ。


「この後どうするの?」


「一旦解散して、浴衣着てお嬢の家で線香花火。そのままお泊まり」


「撮影係居る?」


「あ、マジで? まだ付き合ってくれんの?」


「うん。八時くらいまでなら」


「全然充分だよ。あ、じゃあさ、アルバムとか作れたりする?」


「良いねそれ」


「うん。良いよ。データは好きに使って。おれはただ撮りたいだけだから。あ、おれ、財前さんの家わからんから迎えに来てくれると助かる」


「じゃ、駅前に集合しようか」


「では、わたくしは花火を用意して家でお待ちしております」


「うん」

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