92話:君のためのチョコレート

 バレンタインデーの二日前。去年と同じメンツに誉ちゃんを加えて、私の家でチョコレートを作ることに。


「この間はごめんね。お菓子で酔っ払っちゃうとか、そんな漫画みたいなこと本当にあるんだね」


 チョコレートを刻みながら、誉ちゃんが苦笑いする。私も驚いた。まさか自分がそれほどまでに酒に弱いとは。


「えっ。未来ちゃん先輩お菓子で酔っちゃうんすか? 何それ可愛い」


「けど、それだけ弱いと大変そうですね」


「うん……大変だった……。誉ちゃんは、お酒飲むの?」


「飲むよ。割と。日本酒とか好き」


「おぉ……日本酒……なんか、強いイメージある」


「洋酒よりは度数低いよ。日本酒に分類されるお酒は22度以下のものしかないんだって」


「22……」


 両親も普段からお酒を飲まないためその数字が低いのか高いのか分からないが、一般的な缶酎ハイや缶ビールが一桁だと聞くとかなり高いように思える。


「……私、そんなの飲んだら死んじゃう」


「死なない死なない。まぁ……未来ちゃんは絶対やめた方がいいと思うけど」


「飲まないよ」


「飲み会が増えてくると思うけど、飲ませられそうになったらきっぱり断るんだよ」


「大丈夫です」


「ユリエルなんか酒強そうだよね」


「ゆりちゃん、意外と食の好みおっさんだもんね」


「それ、関係ある?」


「ちるは絶対酒豪だよな」


「分かる」


「王子も絶対強い」


「分かる」


「王子?」


「ユリエルの恋人っす。王子って呼ばれてるんだけど、女の子です」


「へぇ……カッコいい感じの女の子ってこと?」


「めちゃくちゃイケメンっすよ」


「望くんの方がかっこいいもん」


「小春ちゃんの好きな人?」


「写真見ます?」


「ふふ。じゃあ、後で見せてもらおうかな」


 雑談をしながら、チョコレートを湯煎で溶かし、生クリームを加えて混ぜて、絞り袋に入れて絞り出し、一度冷蔵庫で冷やして固めてガナッシュを作る。今日作るのはトリュフチョコレートだ。


「今まではさ、ずっともらう側だったからなんか新鮮だなぁ。そもそも、こうやって女の子に混じってお菓子作ること自体が新鮮。楽しい」


「去年は?」


「去年はまだ彼女に自分のこと言ってなくて。男性から女性に渡すのは変かなって思ってたんだ」


「最近は逆チョコという言葉もあるし、そうでもないと思いますけど」と夏美ちゃん。小桜さんと小春ちゃんもうんうんと頷く。


「うん。考え方が古かったなぁって今では思うよ」


 雑談している間にタイマーが鳴る。冷蔵庫からガナッシュを取り出して、チョコレートでコーティングして、あとはパウダーをつけてまた冷やすだけ。

 ココア、抹茶、ココナッツ、カラフルなチョコスプレー。それぞれ二つずつ作って、再び冷蔵庫で冷やす。あとは固まれば完成だ。嬉々として誉ちゃんに彼氏の自慢をする小春ちゃんを見ながら、夏美ちゃんが呆れたように苦笑いする。


「夏美ちゃんは咲ちゃんと同じクラスなんだよね」


「あ、はい。いっつも先輩の話ばっかりしてますよ」


「……なんか、恥ずかしい……」


「あははっ。ラブラブっすねー」


 再びタイマーが鳴った。冷蔵庫を開ける。

 完成した色とりどりのトリュフチョコレート達を一粒一粒カップに入れて、箱に詰め、ラッピングペーパーでラッピングする。


「箱に入れると高級感ありますね」


「ね」


「未来ちゃん先輩、来年も一緒に作ろうね」


「うん」


「今日はありがとうございました」


 小桜さん達と別れ、賑やかだった部屋が静かになる。

 彼女が喜ぶ姿を想像しながら、冷蔵庫にチョコレートをしまう。バレンタインデーまであと二日。今から楽しみで仕方がない。

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