90話:ペアリング

 冬休みが明け、クリスマスに作りに行ったペアリングが完成した。さっそく、左手の薬指にはめる。

 今私の顔はきっと、にやけているだろう。鏡を見なくても分かる。多分、彼女も同じ顔をする。これも、見なくても想像出来る。

「指輪届いたよ」と彼女に連絡を入れる。「部活終わったら取りに行く!」と、瞬時に返信が来た。はしゃいでいるのが伝わってきて、笑ってしまう。


「ふふ」


 朝から幸せな気分だ。そのまま、指輪をつけたまま学校へ行く。高校と違ってアクセサリーは禁止されていないからずっと付けていられる。嬉しい。


「おはようさん。朝から幸せそうやね」


 バイクで登校してきた桜ちゃんと、後ろに乗っていた和希さんに指輪を自慢する。


「あぁ、なるほど。プロポーズ成功したんか」


「プロポーズじゃないってばぁ! もー!」


 あれ。その話をしたのは確か、桜ちゃんではなくて鈴木さんだった気がする。

 すると桜ちゃんはニヤニヤしながら「うみちゃんから聞いた」と言った。おのれ鈴木さんめ……。

 ふと、二人の左手薬指にも指輪がはめられいることに気づいた。桜ちゃんは私の視線に気付くと、サッと手を後ろに隠したが、和希さんは逆に「気づいちゃった?」と嬉しそうに見せてきた。


「み、見せんでええよ……もー……」


「えー。じゃあ外してこれば良かったのに」


「……カズくんが付けていくなら付けていかなあかんやん。変な勘違いされたら嫌やし」


「じゃあ明日からは外そうか?」


 そう言って和希さんが指輪を外そうとすると、桜ちゃんはそれを止めて、むっとしながらふるふると首を振った。


「ふふ。ごめんごめん。外さないよ。つけておく」


「……けどほんまに、恥ずかしいからあんま見せびらかせんといてな」


「はいはい。見せびらかさないよ」


「おや。和希、おはよう」


「あ、麗人。おはよう。ねぇ見て見て。ペアリング〜」


「言ってる側から!」


「あ、ごめん。あはは〜」


 こんなに浮かれている和希さんは初めて見た。けど、気持ちは分かる。私も今、すごく浮かれている。早く咲ちゃんに会いたい。





 夕方。学校が終わって帰ると、家の前に彼女が居た。まだ五時前だ。


「今日は早かったんだね」


「サボっちゃった」


「あー。悪い子だ」


「えへへ。悪い子です。お仕置きしてくださーい」


「しません。もー……ずっと家の前で待ってたの? 寒くなかった?」


「寒かったよ。だから、温めて」


「もー……ほら、おいで。中入って」


 家の鍵を開けて、彼女を中に入れて暖房のリモコンをいじっていると、後ろから彼女が抱きついてきた。その手が頬に触れた瞬間、冷たくて思わず飛び跳ねてしまう。


「ひゃっ! 冷た!」


「えへへー」


「もー……こんなに冷えちゃって……」


 暖房をつけて彼女と向き直して、すっかり冷えた彼女の手を取り、温める。


「未来さんの手も冷たいね」


「私も帰ったばかりだから」


 するりと、彼女の指が絡む。彼女はそのまま私の手を自分の唇まで導いて、左手薬指に口付けた。私も同じように、彼女の左手薬指に口付ける。そして手を離し、引き出しから箱を取り出すと、彼女はベッドに腰掛けた。

 ひざまづき、彼女の左手薬指に指輪をはめる。彼女は薬指にはまった指輪を愛おしそうに撫でながら「学校にはつけていけないけど、休みの日はずっとつけておきますね」と嬉しそうに笑った。


「あとね、咲ちゃん。もう一つ渡したいものがあるんだ」


「ん。何?」


「……これ」


 渡したのはここの家の鍵。合鍵だ。


「うちの合鍵。……今日みたいに外で待たなくていいように」


「……これでいつでも夜這いに行けますね」


「そ、そういうこと言う人にはあげないよ!」


「冗談です冗談。夜這いに行くときは許可とりますから」


「もー……。あ、あとね、もう一つ報告があります」


「お? まだ何かあるの?」


「ふっふっふ……」


 以前彼女に、今年度中に自動車の免許を取るという話をした。先日、その宣言通り、自動車の免許を獲得した。見せると彼女は「おぉ」と拍手をする。


「今度、春休み入ったらドライブデートしようね」


「はい。楽しみにしてます」


「うん」


 と、言ったが、正直まだ運転には自信が無い。春休みに入るまでに練習しておかなければ。

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