第514話 内緒話は性格の悪さがよく出る件

 「という理由がありまして。アテラさん、ガイアンちゃんを雇ってくれませんか?」


 「よろしく頼むぞ!」


 「......。」


 現在、僕はアテラさんが居る部屋に訪れて、ガイアンちゃんのことをこの国の第三王女アテラ姫殿下に紹介していた。


 僕は顔パスで城に入れたけど、ガイアンちゃんは入念に調べられた末、無事にお邪魔することができた。


 スムーズに事が運んだのは、アテラさんが以前渡してくれた証書のおかげだろう。どうやら僕は彼女に全面的に信頼されているらしく、僕が何か城でやらかした場合はアテラさんが責任を負ってくれることになっていた。


 ほんと、この人良い人すぎ。


 ツインテール可愛いし、おっぱいでかいし。


 にしても今日も谷間が一段とすごいな。前より露出度が上がった? もうアテラさんの顔よりずっと谷間を見ている気が......。


 「ごっほん! スズキさん、人に頼み事をされるときは目を見て、されるべきではないかしら?」


 「あ、すみません、つい」


 『ここで変に言い訳しないのが鈴木さんの良い所ですよね』


 『姉者、ポジティブに捉えすぎ』


 僕の視線に気づいていたのか。


 隣に居るガイアンちゃんが僕にまるでゴミでも見るかのような視線を向けてきているので、とりあえず話の続きをしよう。


 「アテラさんは何かこう......護衛の人が欲しいとかありませんか?」


 「それは......欲しいといえば欲しいですわね。それこそ、以前お話した来たるべき時に備えて少しでも戦力を、と思いますわ」


 「では――」


 「しかし多少腕が立つ者を紹介されたからといって、おいそれと身近に置ける訳ではありませんわ。スズキさんのことは信頼していますが、それに加えて、スズキさんには数々の功績がございますもの」


 『たしかになー』


 『でないと城の出入りを好きにさせませんよね』


 『あ、じゃあこういうのはどーよ』


 と妹者さんがアテラさんに告げる。


 もちろん、この場に居て魔族姉妹の声が聞こえないのはガイアンちゃんだけなので、彼女は不思議そうに僕らのやり取りを見ていた。


 『ガイアンを使用人として雇うってのは?』


 「使用人......なるほど」


 『ああ、それなら実績など無くてもいけそうですね。それに世話役として近くに置いておけば、何かあった時にそれなり戦ってくれると思いますよ』


 「ガイアンはよくわからないが、使用人ってあれか? さっき廊下ですれ違った有象無象ども」


 有象無象とか言うな。お前もその一人になるかもしれないんだぞ。


 アテラさんはガイアンちゃんに質問する。


 「失礼ですが、作法は......あまり期待できそうにありませんわね。人に仕えることに対して抵抗感などありませんの?」


 「別に。金を貰えれば、どう使ってくれてもかまわない」


 「よ、傭兵の方はもう少しご自分を大切にされては?」


 若干引き気味の彼女だが、とりあえずこの城の使用人として雇われることになった。


 さっそくこの部屋の外で控えていたセバスチャンに頼んで、ガイアンちゃんの教育......の前に使用人専用の服とか、そもそも高潔な方に仕えるから清楚でいるために身を清めてくるとか、色々と準備が始まった。


 僕は用が済んだので、この部屋を後にしようとアテラさんに告げる。


 「では、僕はこれで」


 「え?!」


 だがアテラさんは僕の言葉に驚いた様子でこちらを見てきた。


 「?」


 「い、いえ、その......用件はそれだけですの?」


 「ええ」


 「左様ですか......」


 なぜか意気消沈していくアテラさん。アテラさんは何かもごもごと言ったり、落ち着きのない様子だった。


 何か僕に話したいことでもあるのかな?


 すると魔族姉妹が挙って言う。


 『出たぞ、鈴木の時折見せる鈍感ムーブ』


 『いえ、時折というか、この男は普通に鈍感ですよ』


 ど、鈍感って......。


 が、二人にそう言われて気づいた。そうだ、僕は鈍感じゃない。いや、言われて気づいた時点で鈍感なんだろうけど。


 僕はアテラさんに苦笑しながら言った。


 「よろしければ少し僕とお話しませんか?」


 「っ!! は、はい!」


 アテラさんが太陽のような笑みを浮かべて応じてくれた。


 どうやら正解だったらしい。


 僕は......いや、僕と魔族姉妹、アテラさんは世間話を始めとして、色々なことを話題にして盛り上がっていった。



 *****



 「おかしいな。私は貴様を呼び出してから二時間も待たされたのだが、謝罪の言葉を一切聞いてないぞ」


 「ヘヴァイス殿下、この茶菓子美味いっす」


 「......。」


 現在、僕はアテラさんの部屋からヘヴァイス殿下が居る所へやってきた。相も変わらずこの部屋に置かれている物は少ないな。ちなみにこの場には僕ら以外誰も居ない。


 僕は少し前まで美少女と歓談していたのに、この第二王子ヘヴァイスがセバスチャンを差し向けたので、致し方なくアテラさんとのお茶を終わらせてやってきた。


 本当は別の日に対応しようと思って、セバスチャンには悪いけど、「行けたら行きます」と言ってたが、二時間くらい経ったらアテラさんから「さすがにこのままは......」と言われる始末に。


 まぁ、相手はこの国の第二王子だもんな。


 でも僕はこいつのことが嫌いだから、美少女とのお茶の時間を削ってまで会いたくない。


 ヘヴァイス殿下が溜め息混じりに言う。


 「はぁ。私は寛大だから許そうじゃないか、スズキ


 「“鈴木君”なんて気持ち悪い呼び方しなくていいですよ」


 「貴様......。ならば、こちらからも一つ願おうか。敬語は要らん。素のお前の口調でいい」


 「それは王子的にアウトでは?」


 あまり相手の口調を気にしないのは心の器の大きさが成せるものかもしれないけど、他の人に示しがつかなくない?


 そんな考えを察したのか、ヘヴァイス殿下が言う。


 「なに、少し羨ましく思っただけだ」


 「?」


 「姉上とアテラだ。二人は貴様のことを偉く気に入っているみたいだからな。......近しい歳同士、本音で語り合える関係を羨ましく思った、それだけだ」


 そう、虚空を見つめて語るヘヴァイス殿下の表情はどこか寂し気だ。彼も王族だ。常に考えを顔には出さまいと力んでいる生活を送っているのだろう。


 そう考えると、なんだかヘヴァイス殿下が可哀想に思えてきた。


 僕はこいつのこと嫌いだけど。


 「殿下は......友達が少ないのですね」


 『『ぶふッ』』


 「き、貴様は本当に口が減らないな」


 まぁ、でも相手がそれを望むのなら応えるのが僕だ。聞いた話、歳は僕と同じだから、タメ口で十分だろう。


 僕は足を組んで、いただいたお茶を啜りながらヘヴァイス殿下......いや、ヘヴァイスに問う。


 「で? 美少女との楽しい時間を奪ってまで僕を呼び出した理由は?」


 「私がその気になれば、アテラの婚約者候補に何の権力も無い貴様を推薦してやるぞ」


 「妹を出汁に使って僕を従わせようとするなんて卑怯だぞ! ありがとうございます!」


 『お礼言っているじゃないですか』


 「できればアウロさんも!」


 『長男を頼って姉妹丼の夢を叶えようとすんな』


 きっと僕に尻尾が生えていたら、全力で振ってヘヴァイスに忠誠を誓っていただろうな。


 ヘヴァイスは何が面白いのか、クスクスと笑いながら応じる。


 「貴様は本当に素直な奴だな」


 それから話はようやく本題に入った。


 「先の件、ハミーゲの処罰はどうするつもりだ?」


 「それがまだなんとも......」


 「王家の方から処罰を下してもいいんだぞ」


 「え、やってくれるの?」


 「ああ。平民の貴様に細かいことは言わんが、平たく言えば爵位の剥奪とワギーケ公爵家は一族処刑だろうな」


 おおう。王族の殺人未遂だから、それくらいやるのか。魔族姉妹も妥当だと判断しているみたいだし。個人的にはハミーゲに復讐したいとこだけど。


 まぁ、これは僕だけの問題じゃないから、アウロさんとアテラさんに相談してから決めよう。たぶんだけど、ヘヴァイスの言った通りの結果になるんだろうな。


 そのことについて、ヘヴァイスから許可は貰った。僕とヘヴァイスの関係性を二人に疑われると思うけど仕方ない。


 僕がそんなことを考えていると、ヘヴァイスが話題を変えてきた。


 「ハミーゲの件は以上でいいな?」


 「あ、うん、一応は」


 「で、貴様をここに呼んだ件だが......その前に確認させてくれ。スズキは陛下と例の“なんでも相談できる機会”は既に終えたか?」


 何を聞かれるかと思いきや、国王さんとのお茶会の約束についてか。僕はその時、国王さんに聞きたいことをなんでも聞けるらしい。素直に全部答えてくれるとは思ってないけど。


 僕は普通に答える。


 「まだだけど」


 「そうか。ならば予め言っておこう」


 「?」


 「陛下を......グラシンバ・ギーシャ・ズルムケ国王陛下には従うな」


 ......は?


 こいつは急に何を言い出すんだと思ったが、ヘヴァイスの目を見ると冗談ではなく真剣に言っていることがわかる。


 だから僕も真面目に聞くことにした。いきなり反逆罪だの謀反だのと問い質すつもりは無い。


 「理由を聞いても?」


 「陛下は


 「笑っていた?」


 「ボロン帝国が我が王国に宣戦布告した際、陛下はまるでそれを待ち望んでいたかのように笑っておられた」


 「それは......」


 「実際、王国軍は即座に編成されて、着々と戦争の準備に取り掛かっていた。帝国軍が攻めて来るとわかっていたからな。が、実際は違った。道半ばで強引に帝国軍の進行を食い止め、引き下がらせた者が現れた」


 ああ、なるほど。そういうことか。ヘヴァイスは僕の成果を知っているからこそ、こうして信頼して真剣に相談してきてるのか。


 僕が帝国軍を食い止めた張本人だから、最初から彼は僕を信じてくれていたんだ。ハミーゲを始めとしたこの王国に居る有力者を、そう簡単に信頼できないから。


 「戦争は無事に回避。それを知られた時の陛下はなんと仰ったと思う?」


 『話の感じからして、「戦争しなくて良かったね」じゃねぇーよな』


 「......さぁ」


 「“つまらん”......その一言だ。元々、戦争で他国を支配せずとも十分やっていける王国なのにな」


 なるほどねぇ。


 でも僕はその言葉を鵜呑みにするほど、この人をまだ信頼しきってない。


 たしかに今までの国王さんの行動で不可解な点はいくつかあったけど、そう簡単には決められない。


 「私はその時の陛下の顔を見てぞっとしたよ。......今すぐに決めろとは言わん。どのみち、貴様には陛下と話し合う機会がある。ただ私が今言ったことを頭の片隅に置いてくれ」


 「その上で陛下の真意を探れと?」


 「そこまでは望んではいない。まぁ、私は個人的にもスズキのことを好ましく思っているからな。味方になってくれると助かる」


 「......。」


 少し眉を顰めてそう言ったヘヴァイスは、会話は以上と言わんばかりに、この場をお開きにしようとした。


 僕はこの部屋を出る前に、ヘヴァイスに一つだけ聞くことにした。


 「もしさ」


 「?」


 「もしヘヴァイスの言う通り、本当に陛下が戦争を望んでいたらどうするの?」


 僕のその言葉に、ヘヴァイスは覚悟を決めたような顔つきで答える。


 「殺してでも止める。平和を捨ててまで争うなんて馬鹿げているだろう?」


 「......ああ、僕もそう思うよ」


 そうして僕はこの場を後にするのであった。

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