第494話 新婚さんの新居は曰く付き
「ここなんてどうだい? 喘ぎ声が大きくても、近くに他の家が無いから好きなだけ喘げるよ」
「部屋数が少ない。却下だ」
『アーレスって本当にすげーよな。セクハラまで無効化しちまうなんてよ』
「【固有錬成】じゃないからね......」
現在、僕はアーレスさんと新しい家を探しに、不動産屋へ訪れていた。
店主が相当なセクハラ好きで、初対面の客でも普通にぐいぐい言ってくる。正直、僕としては親近感を抱いてしまいそうで怖い。アルバイトさせてくれないかな。
ちなみに主な物件の希望はアーレスさんだが、僕も偶に口を挟むので、あれやこれやと話し合って条件を絞っていった。
アーレスさんが腕を組みながら言う。
「やはりこれ以上条件は減らせられないな」
店主がぼりぼりと頭を掻く。
「うーん。やっぱりこの条件だとかなり値が張るよ。中央都市から少し離れているところばかりになるし、そこら辺の家より良い造りになっちゃうからねぇ」
「かまわん。ここなんか周りに住宅が無いから、
「でもここ白銀貨十枚って......高すぎません?」
「むぅ、たしかにそうだが......私とザコ少年君の収入があれば望めない額ではないぞ」
僕、言い忘れてたんですけど、<パドランの仮面>の中に全財産入ったままで、そこから取り出せなくなっちゃったから無一文なんすよ......。
さすがに店主の前でそんなこと言ったら、今後の取引すら怪しいから言わないけど。
とりあえず、アーレスさんが一番気になっている物件なので、さっそくその場へ向かうことになった。
『おおー! かなりでっけぇーな! もう屋敷じゃん!』
「すご......」
「だろう? 中庭もそうだけど、中央にある噴水も風情があると思わないかい?」
「ふむ。悪くないな」
アーレスさん、口ではこう言ってるけど、鼻息荒いのは自覚しているだろうか。相当気に入っているようだな。
やってきた場所は、もはや屋敷だ。その屋敷は王都から少し離れた丘の上にあった。
店主の話によると、この屋敷は地方貴族の別荘だったらしい。資金的な面で管理することが難しくなったとかで、先月売り払われたとかなんとか。
特に周りには柵が無く、どこまでこの家の所有地なのかは詳しく聞かないとわからないけど、非常に開放感のある屋敷である。
さっき店主が言っていた中央の噴水も富豪の家かってくらい贅沢な代物だけど、玄関まで続く石造りの道や芝はちゃんと手入れがされていて綺麗だ。
さっそく中に入ることにする。
店主が持っていた荷物からスリッパを取り出し、僕らの前に置く。
「スリッパをどうぞ」
「ああ。礼を言う」
「ってあれ? 旦那さんは既にスリッパを?」
自前のっす。アーレスさんが僕に靴すら履かせずに連れ出したので。
僕は笑顔で誤魔化しつつ、スリッパからスリッパへと履物を替える。
家の中は一言で表すと、大貴族の屋敷くらい広かった。ロティアさん......帝国貴族で辺境伯の爵位を持つマーギンス邸を思わせる規模だ。
玄関の真ん前には何か像でも置いていたのか、物々しい台がある。その両脇には螺旋階段が二つあり、上の階に繋がるようだ。
ただ少し窓の数が少ないのか、入ってすぐ思ったのは、日中の今でも全体的に薄暗い点だろう。
アーレスさんが頷く。
「ふむ。エマの屋敷ほど大きくはないが、人を招くことはできそうだな」
「え、エマさんって金持ちなんですか?」
「公爵家だ」
マジすか......。
店主が部屋の中を一通り僕らに紹介する。
「まずは一階から見て回ろうか。ここがファミリールームだ。結構、声が響くかから、夫婦の営みはここでしない方がいい」
「おおー! 広い! ドッジボールできそう!」
『小学生か』
「これなら多少人が増えても落ち着いて過ごせそうだな」
“多少人が増えても”。なんて恐ろしいことを言う人なんだろう。過剰反応するつもりはないけど、従者が増えそうで怖いよ。
ファミリールームは大きめのリビングみたいなところだ。家具は一切無いから広々とした空間だけど、暖炉とかあっていいね。
「ここがキッチンルーム。そこの石窯は実際に火を着けることもできるが、魔鉱石にも対応している。ここでエッチなことするなら、安全面を考えて魔鉱石を使用することをお勧めするよ」
「ひっろ。中央の台で食材を刻んだり、盛付けができそうですね。この取手は手押しポンプのあれかな? その場で水を組めるとか最高じゃないですか」
「よくわからないが、これからザコ少年君が毎日料理を作ってくれるならいいかもしれんな」
『しれっとプロポーズすんな』
いや、本当に広いキッチンだな。中央の長方形の台に、壁際にある複数のコンロ、石窯、水もすぐに用意できて溜めておけるのは魅力的だ。
「ここがバスルーム。広くていいだろう? ただ湯を沸かすときは仕様的に魔鉱石のみになっちゃうけど。あと風邪ひくから、あまりここでエッチしない方が良い。前の住人の体験談だ」
「素晴らしい。風呂は広ければ広いほど良いぞ」
「ああ、そういえば、アーレスさんの家、僕が来る前から浴室だけは綺麗にしてありましたね」
「一言余計だ。仕事終わりの風呂が一番身に沁みるからな」
『やっぱ独身女の言うことはちげ――』
「......。」
『な、なんでもねぇーよ。睨むなって』
バスルームも広い。僕は一人で入るから広さとかあんま興味無いけど、足を伸ばして入るどころか、全身浸かって浮かぶこともできる広さだ。
「続いて寝室。と言っても、ベッドも無いからセッ○スのイメージは湧きにくいと思うけど。あ、防音、防振対策はしっかりしてるよ」
『ほぉー。バルコニーか、あれは』
「眠れないときは外に出て夜空を見るのもいいかもね」
「星を見ても面白くはないが、この部屋はあまり広すぎないから落ち着いた雰囲気だな」
と、次々にこの屋敷のことを紹介され、それが終わったときは既に日が沈み始めていた。
もちろん、店主による紹介は必ずセクハラが付き纏っていたけど、僕らは全て無視した。
「ここ良いですねー」
「ああ。悪くないな」
「それはなにより。額が額だから即決するのはお勧めしないよ。ゆっくり考えてくれ」
店主、良い人だなぁ。セクハラしつこかったけど。
僕らはもう少し考えると告げてから、店主と別れた。
昼食も取らずに内見していたからか、僕らは揃ってお腹が減ってしまった。
「帰る前に、どこか店に入るか」
「その、今手持ちが無くて......」
「かまわん。ザコ少年君は私が養ってやる」
『お前のちょいちょい養ってやるアピールはなんなん』
し、知らないけど、お言葉に甘えよう。
アーレスさんみたいな美女に養ってもらえるとか最高だよな。もしかしたら僕の理想の生活かもしれない。まだまだ異世界ライフは楽しみたいけど、美女と仲睦まじく暮らすのは幸せに違いない。
......まぁ、その理想を叶えるためにも、僕は魔族姉妹の叶えたいことに協力しないと。
特にどこの店に入りたいとかは無かったので、適当な店に入ろうとする。アーレスさんが顎でくいっと店を指し示した。
「そこの酒場なんてどうだ?」
「いいですね。そこにしましょう」
美女と二人で酒を飲みながら晩ご飯を食べる。妹者さんも居るけど、雰囲気は完全に男女のそれなんじゃなかろうか。控えめに言って最高。
そんなふうに考えていた時期が僕にもありました......。
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