閑話 盗聴している場合じゃない闇組織の者たち

 「おお! ズッキーが強くなってる!」


 「すごいすごい! ズキズキが頭おかしいくらい強くなってるね!!」


 「......。」


 ここ、ジョリジョ共和国北方領土にある巨城内とある一室にて、<1st>と<2nd>はベッドの上でお行儀悪くお喋りしていた。


 この部屋は<1st>の寝室で、<2nd>を招いての談笑であった。


 また二人の他に、この場には<7th>も居た。<7th>の格好は相も変わらぬ修道服を纏っており、その見た目に反して、<1st>の世話係としても日々を過ごしていた。


 今もそうだ。ベッドの上でダラけている<1st>を他所に、箒を手にしてこの部屋を掃除している。


 当初こそ、「掃除致しますので、退いてください」と言ったものの、ボスは全然言うことを聞いてくれなかった。それどころか、<2nd>を呼んで、二人で楽しく“盗聴会”を楽しんでいる始末である。


 この“盗聴会”とは、言うまでもなく、鈴木の日常を盗聴して、それを<幻の牡牛ファントム・ブル>のアジトで密かに楽しむことだ。


 会員メンバーは二人。創立者兼会長の<1st>と副会長の<2nd>。


 おそらくもう会員メンバーは増えない。


 無論、<パドランの仮面>の異空間のように、鈴木の現状を視聴できる映像が宙に浮き出るわけでもないので、ただ現場の音のみを<1st>お手製の盗聴器で拾っての盗聴会だ。


 控えめに言って、頭がおかしいイベントである。


 「いやぁ。ズッキー、ジュマの【呪法】で苦しんでいる間に何かあったよねぇ」


 「何かって何?」


 「明らかに、以前のズッキーより強くなってるでしょ?」


 「うん」


 「絶対何かやってたよ。例えば......そうだなぁ。<ギュロスの指輪>を使って、とか」


 <1st>のその言葉に、<2nd>は無い髭を擦るようにして顎を撫でた。


 ちなみに<1st>は鬱陶しくても牡牛を模した仮面を被ったまま横になっている。<7th>もだ。が、<2nd>だけは仮面を外していた。


 「<ギュロスの指輪>かぁ。私も一回はめてみたかったなぁ」


 「やめておいた方がいいよ。あれは人が扱うには手に余る代物だ」


 「人じゃなくて龍ですけど」


 「そうだった(笑)」


 「ちょっと馬鹿にしてない?」


 「してないって。で、<ギュロスの指輪>はね、たぶんだけど、“有魂ソール”持ちだ」


 「え?!」


 <2nd>は驚きの声を上げた。


 それもそのはず、<三想古代武具>の中でも希少な部類に入る【夢想武具リー・アーマー】だというのに、その上、意思疎通が可能な“有魂ソール”持ちということが信じられないからだ。


 が、<2nd>は次に疑問に思ったことを聞くことにした。


 「すご! あれ? そういえばボスも使ったことがあったよね、その指輪」


 「昔ね。でもワタシじゃ使いこなせなかった。当時から“有魂ソール”って確信は持ってたけど、ワタシの声には応じてくれなかった」


 「なに、嫌われてたの?」


 「はは。かもね。でもだから言えることがある。......<ギュロスの指輪>はズッキーを気に入っている。他者に存在がバレるほどに、世話を焼いているのが丸わかりだ」


 「ふーん? ズキズキって意外にモテるんだね」


 そう言いながら、<2nd>は近くにあったクッキーを手にして、口の中へ頬張った。


 それを見た<7th>が注意する。


 「あの、そこのベッド、さっき掃除したばかりなのですが」


 「細かいこと言わなーい。また掃除すればいいじゃん。<7th>が」


 「......。」


 「ひでででで! ほっへ! ほっへちひれじゃう!!」


 <7th>は<2nd>の柔らかな頬を無言で摘み上げた。その光景を他所に、<1st>はぼやく。


 「それにしても......ふふ。そうか。<ギュロスの指輪>はズッキーに肩入れするか......」


 「それが何か?」


 と、珍しくも<7th>が<1st>に聞いたことで、聞かれた本人は仮面の奥で目をパチクリとさせてしまった。


 が、それも束の間。<1st>はニヤけながら言う。


 「おや? ナナちゃんもズッキーのことが気になり始めたのかな〜」


 「かな〜」


 「飽きやすい我らのボスがご執心なので気になっただけです。それと、その呼び方はお辞めください」


 ツンとした様子でナナちゃんこと<7th>が応じた。<1st>は面白そうに、先程の問いに答える。


 「<ギュロスの指輪>の力を使うと、周囲の人から無差別に嫌悪されるって誓約があるんだ」


 「ああ、あんま意味無いやつね。私はズキズキにぞっこんだから、その効果が本当に有効なのかわからないよ」


 「ふふ、限定なのさ。<2nd>には効かないかもね。尤も、彼をよく知る者からすれば、その効果も意味を成さないが」


 「その誓約がどうかされたのですか?」


 「実はこの誓約、嘘なんじゃないかなって、ワタシは見ているんだ」


 「「?!」」


 <1st>は続けた。


 「ワタシは<ギュロスの指輪>を使っていた頃もあまり人と関わったこと無いから意識してなかったけど、ズッキーの現状で確信したよ」


 「どういうこと?」


 「聖国は教義があるから無闇に人を嫌うことは無いけど、その後、帝国や王国に居たズッキーは、大して周りの人から嫌われているようには感じられなかった」


 「では<ギュロスの指輪>の誓約とは何だったのでしょうか」


 「たぶんだけど、指輪の力を本当に使いこなせたら―――ギュロスに認められて初めて、誓約は成立するんじゃないかな」


 それももっと邪悪で、悪質な誓約に、と<1st>は続けて語った。


 そんな頃合いで、鈴木を盗聴していた黒い立方体の箱から、鈴木とは別の者の声が聞こえてきた。


 その声からして可憐な少女の者だと、この場に居る者たちは察した。


 否、<1st>だけは違った。


 『ああ、そっか............君だったのか』


 (この声、どこかで聞いたことあるな......)


 黒い立方体から聞こえてくる少女は、鈴木と少女の間で交わされる会話の中で、一つの答えに繋がっていった。


 少女は妖精で、今の鈴木に気配を察知されることなく近づいた実力者であることを加味して、<1st>は熟考する。


 『おかえり。


 (ティア......まさか!!)


 <1st>はベッドから跳ね上がった。


 ボスの急な行動に、<2nd>と<7th>が目を瞬かせる。


 されど<1st>は余裕の無い態度で行動を始めた。


 「まずい。ここで遭遇しちゃったか。たしかに少し離れた森に、。それにズッキーは以前、<王の剣>を手に入れていた」


 「ぼ、ボス? どうしたの?」


 「ちッ。仕方ない。


 「「?!」」


 <7th>はボスの聞き捨てならない言葉の真意を問い質そうとするが、それよりも早く、<1st>が【転移魔法】の準備に取り掛かった。


 「ちょ、ボス!!」


 「ナナちゃん、今からズッキーの所に行ってくる。彼をここに連れてくるから、一旦、客人として扱ってほしい。諸々準備しておいて」


 「え゛」


 「じゃ」


 「ま、待ってくださ――」


 <7th>が言い切る前に、<1st>は【転移魔法】で鈴木の下へ転移するのであった。


 「「......。」」


 残された二人は、沈黙する他なかった。


 やがて先に口を開いたのは、<2nd>であった。


 「ど、どうしちゃったんだろ、ボス」


 「さ、さぁ? とりあえず、主の命に従って、一応はスズキとやらを客人として扱うよう準備致します」


 「ナナちゃん偉いね......」


 その呼び方はお辞めください、そう決まり文句を言う<7th>であった。

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