第419話 いや、そんな話聞いてませんが
「なんとか二次試験もクリアしたねー」
『おう。もうこのまま最終面接まで行っちまうか』
『いいですね。騎士になるつもりはありませんが、面接のときに鈴木さんが全裸になれば、容易に不合格になります』
しねぇーよ。面接の場で全裸になって堪るか。
現在、僕は試験会場である訓練場の隅に座って、三次試験の開始を待っていた。
周りには僕と同じく順番待ちの他の志願者たちも居る。順番が来た人は、試験官である現役騎士とタイマンして、実力を見られるらしい。
試験会場は広いので、受験者はそれぞれ何組かに分けられて試験官と戦う模様。
『にしてもご主人、志願者ってのはあんなに弱いのか?』
と、メガネ姿になっている<パドランの仮面>の中から、ドラちゃんが僕にそう聞いてくる。
彼女が言っていることは、少し前までやっていた二次試験についてだ。
脱落者のほとんどは僕が倒してしまったのである。申し訳ないけど、僕の近くに立っていたのが悪い。それに相手も、倒せば高得点が入る僕を狙っていたんだ。僕にやられても仕方ないでしょ。
騎士たちのレベルは全くと言っていいほど高くはなかった。
中には強そうな人も居たけど、その人に闘いを挑むような立ち回りを、僕は取っていなかったので、自然と時間切れになって挑めなかったのである。
「まぁ、今までの敵と比べると劣るよね。普通に考えて」
『そら<
『この程度のレベルならば、現役騎士も余裕そうですね』
「たしかに。もしかしたら隊長レベルが僕の相手したりして」
『筆記試験の開始前に、ご主人を睨んできたババアのことか?』
「エマ隊長ね」
『あの女騎士が相手でも、今の鈴木さんなら負けないと思いますが』
『もちろん、あーしらのサポート無しでも、な?』
と、三人が口々に言う。
まぁ、<三想古代武具>が使えないとは言え、僕には【固有錬成】があるしなぁ。
でも、可能な限りスキルの使用は控えたいんだよね。試験の場なんて人目があるところで、初見殺しの【縮地失跡】とか【害転々】なんか使いたくないし。
「スズキ!」
僕がそんなことを考えていたら、後ろから誰かに声を掛けられた。振り返ると、そこには僕と同じく受験者であるメテウスさんが居た。
ここに居るということは、彼も二次試験を突破したようだ。
「メテウスさん、無事に二次試験を通過したようですね」
「なんとかな」
「僕に何か用があるんですか?」
「ああ。三次試験が始まる前に、少しだけ」
「?」
僕が首を傾げていると、メテウスさんが僕に手を差し出してきた。まるで握手を求めるかのような行為である。
急になんだろう、と思っていたら、彼は瞳に強い意思を宿して告げる。
「二次試験の時、君があの場で言ったことを、俺は忘れない」
僕が言ったこと......大勢の志願者の前で「かかってこいよ」とかイキったことを言った時の話だろうか。
騎士になりたい人が入団試験を受けた理由は様々だ。否定する気は無い。でも、だからこそ、僕を狙って近くに居た人たちは、やられる覚悟を持ってほしかった。
僕に大層な意思は無いけど、騎士を軽んじて見てるなら返り討ちになるだけだ。
「最初に話したよな? 俺は入団試験を受けるのは今年で四度目だって」
「ええ」
「だからか、最初の頃に比べて、『どうしたら受かるか』ばかり考えていた。二次試験の時も、誰を相手にしたらいいのかって、勝てる相手を探していたよ。......でもそれじゃあ駄目だったんだな」
メテウスさんは少し困り顔になって、そう語ってきた。
『この男、そう言えば、二次試験ではかなり奮闘してた記憶があります。鈴木さん程ではありませんでしたが』
『たしかに、あそこまで必死になって、他の受験者を次々と倒していくのは格好良かったわ。あ、鈴木の次にな』
へぇ。メテウスさん、そんなに頑張ってたんだ。
「駄目......ということでは無いと思いますが。騎士になってから頑張ればいいじゃないですか」
「はは。大勢の前で啖呵切っといてよく言う」
あ、あはは。
僕が苦笑していると、メテウスさんはどこか清々しい顔つきになってから言った。
「俺は騎士になるよ。それも立派な騎士になってみせる」
「頑張ってください。応援してます」
「なんだか他人事みたいに言うな。一緒に合格して、これからは同期としてやってくんだろ?」
いや、僕は騎士になるつもりは......。
まぁ、ここでそれを言うとややこしくなりそうだから止めておこう。
僕らの会話が一頻り終えたタイミングで、試験官がメテウスさんの名前を呼ぶ声が聞こえてきた。どうやら彼の三次試験が始まるようだ。
それからメテウスさんの試験は終わりを迎え、彼は控室へと向かう。一、二次試験と違い、三次試験はその場で結果を言い渡されるようだ。
メテウスさんの表情を遠目で見ていると、彼は歓喜に満ちた様子でガッツポーズをしていた。
『合格したみたいだな』
「ね。良かった」
『にしても鈴木さんの番が中々来ませんね』
姉者さんの言う通り、僕の番が全く来ない。
その後も他の志願者たちの三次試験は行われ、次々と試験会場から人が減っていく様を目にする。やがて志願者が僕一人になり、会場の隅にぽつりと残されることになった。
ま、マジか。一番最後か。日も沈み始めてきたし。
さすがに最後まで順番が来るとは思わなかった。僕は自身の名前を呼ばれる前に、試験官の下へ向かう。
そこにはエマさんの姿もあった。
実はこのおばさん騎士、途中から試験官たちの手が回らなくなったからか、臨時として試験官になっていた。遠目でこのおばさん騎士と受験者が戦っていた様子を見ていたが、やはり第三部隊隊長という肩書は伊達じゃなかった。
僕は試験監督の騎士とエマさんの下へ、肩のストレッチをしながら近寄ると、二人が僕を見て渋い顔をしていることに気づく。
なに? 僕の顔に何か付いてるの?
「僕の番ですよね。誰と戦えばいいのでしょうか?」
「実力的に言えば、こっちの大男より私さね」
「では、よろしくお願い――」
「が、あんたの相手は私でも測りきれないよ」
え、じゃあ誰と戦えばいいの?
そんな疑問を抱いていると、エマさんが眉間を指先で摘みながら言う。
「困ったねぇ。基本、三次試験は現役騎士の中でも、志願者のレベルから見て実力差がありそうな者を選んでいる」
『まぁ、他人の実力を測るから当然だわな』
『鈴木さんレベルだと、そのような騎士が見つからないってことですか』
「もしかしてアーレスさんとか?」
「いいや。あいつに任せられないよ。絶対に合格にするだろうし」
ああ、うん、そっすね。あの人ならやりかねない......。
「仕方ない。ここはやっぱり私が――」
とエマさんが言い欠けた、その時だ。
「ちょーっと待ったぁぁぁああ!!」
「「「っ?!」」」
どこからか、男の怒号のような声が会場内に響き渡った。声のする方を見やれば、そこには観客席で腕組をして仁王立ちする巨漢が居た。
周りにはルホスちゃんたちロリっ子どもが耳を押さえて蹲っていた。し、至近距離であの大声だもんなぁ......。てか、なぜかアーレスさんも居るし。
「がははははは!! ババア! どうやら坊主の相手に困っているようだな!!」
その巨漢は紺色の長髪で、前髪をヘアピンで止めているのが印象的だ。鍛え上げられた肉体こそが鋼の鎧と言わんばかりにムキムキである。
この国の騎士団総隊長タフティスさんだ。
そしてあのアーレスさんと同じ<
タフティスさんはズカズカと会場の方へ近づいて来ながら言う。
「仕方ねぇ! 俺が相手してやんよ!!」
不合格でいいんで、お家帰らせてください。
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