第416話 騎士になるための筆記試験?
「ああ、試験って異世界に来てもやらないといけないのか......」
現在、僕は王国騎士団の入団試験を受けに、とある場所に来ていた。
場所は普段、騎士団が使っている訓練場と隣接している屯所内にある大部屋で、そこに受験者と思しき者たちが、会場内の席に着いている。数は五十名程だろうか。聞けば、他の部屋にも受験者たちが居るとのこと。
さすが大国の入団試験。この部屋の雰囲気は、日本に居た頃、何かの機会で目にした大学の講義室みたいだ。ただ僕が居る席は比較的後ろの方なので、前の席の状況とか全然わからない。
皆、試験開始まで参考書のような本を開いたりして必死な感じだ。
『かか! あんま緊張すんなよ!』
「うぅ。でも僕、なんも勉強してないし、そもそも他の人に失礼だよね。なんせ騎士になるつもりなんて微塵も無いんだから」
『まぁまぁ。これも良い経験になると思いますよ』
魔族姉妹はなんか楽しそうにしてるし。僕はそんな二人とこそこそと話しながら、試験開始を待った。
すると僕の左隣に座っている青年から声を掛けられた。
「君、体調が優れないのか?」
イケメンだ。僕と同じく受験者なんだろう。ここに来てから、ずっと机に伏せていた僕を心配して声を掛けてくれたのかもしれない。
さすが、騎士を目指す者。その紳士さが眩しいよ。僕の罪悪感を刺激するから、できれば話しかけてこないでほしい。
「いえ、問題ありません。ちょっと緊張しちゃって」
「ああ、そうだよな。俺もかなり緊張してるよ。今年こそは、絶対に受かるつもりだ」
“今年こそは”。そう告げた彼は、もしかして去年も受けたのだろうか。どう返答したら良いものかと考えていたら、青年が苦笑しながら答える。
「え、えーっと」
「ああ、悪い。名乗るのがまだだったな。俺はメテウス。実は、王国騎士団の入団試験は今年で四回目なんだ」
青年はメテウスさんというらしい。歳は僕よりも上だ。二十代前半って感じ。基本、イケメンは嫌いだけど、なんかこの人は話していて不快にならない。
僕というパッとしない冴えない男にも、気さくに話しかけてきてくれたからだろうか。
「僕は鈴木と言います。入団試験は初でして」
「はは。それはたしかに人一倍緊張するな」
「メテウスさんは王都に住んでいる方ですか?」
「いや、エージャン村から来た」
し、知らないな、そんな名前の村。
「スズキは?」
「出身はジャパン村ですね。今はこの王都に住んでます(アーレスさんの家を借りて)」
「そうか。お互い、受かるといいな」
「はい」
と、メテウスさんと話がひと段落したところで、
「静粛に! これより入団試験を開始する!」
大声を出しながら、全身甲冑姿の男がこの部屋に入ってきて、それに続いて何名か他の騎士も入ってきた。王国騎士団の人たちだろう。
中には女性騎士も居るな。兜を纏っていない初老の騎士と、全身鎧姿のアーレスさん............だぁ?!
な、なんであの人が居るんだ。
『お、おい、あそこにアーレスが居んぞ。仕事はどーした』
『ま、まぁ、試験監督も仕事といえば仕事ですが』
アーレスさんは全身甲冑姿だが、やはり第一部隊副隊長ということもあって、その鎧のデザインは一際美しく、一級品ということがすぐにわかる。
彼女と兜越しに目が合った気がしたが、偶々だろうか。
そんなアーレスさんたちが入ってきたと同時に、受験者たちは一斉に立ち上がって敬礼をする。僕も慌てて真似をした。
その際、なんとなく初老の騎士を見ていると、その人の目が遠くの席に居る僕と合ってしまった。
いや、睨まれたという表現が正しい。
「ひ?!」
『んだぁ? あのババア、こっちを睨まなかったか?』
『ええ。少し殺気じみたものを感じましたね』
思わず変な声を出してしまった僕は、周囲の人にぺこりと会釈しながら、騎士の話を聞く。
「座ってくれてかまわない。私は本試験を監督するキャリバーだ。よろしく頼む。諸君、王国騎士団に志願してくれたこと感謝する」
試験監督さんは強面の中年騎士で、威厳たっぷりである。その人が隣に立つ人を示しながら言う。
「こちらにおわすお方は第三部隊を率いるエマ隊長だ。お隣には第一部隊のアーレス副隊長。今回、エマ隊長は最終試験である面接を担当される。アーレス副隊長は、その......アレだ。見学だ」
仕事しろよぉ......。なんだ、見学って。授業参観かよ。
試験監督に紹介された初老の女性騎士は、ぺこりと軽く頭を下げた。
アーレスさんは紹介されても頭を下げないで腕を組んでいる。
「では試験の流れから説明する」
そう言って、試験監督さんは入団試験について説明してくれた。
入団試験は全部で四つある。
まずは筆記試験。騎士として必要な知識を計るためだ。
次に実技試験が二つ。
一回目は受験者同士が一箇所に集まって、剣術と魔法で戦い合うらしい。これを乱闘試験と呼ぶようだ。この乱闘試験、魔法有りなんだ。じゃあ、僕でも大丈夫かも。
二回目は現役の王国騎士とのタイマン。こちらは一回目に比べて、【固有錬成】所持者はスキルを使用しても良いとのこと。
なんで一回目と二回目でスキルの使用許可が違うのか気になるけど、それも説明された。
「一回目の実技試験は、敵勢多数を想定しての乱闘だ。スキルを使用した戦いは実践向きだろうが、我々が評価しにくい。そのため、二回目の現役騎士との対戦で、個人の戦闘力を見極める」
とのこと。
無論、三次試験を受けるには、その前の一次試験である筆記試験と、二次試験である乱闘試験を受からないといけない。
ちなみに魔法具はもちろんこと、<三想古代武具>の使用は禁止されている。あくまでも本人の実力を計る試験だからか。
で、最後は面接試験で終わる。
正直、本気で騎士を目指していない僕はどの試験で落ちてもいいし、なんなら他の受験者のことを考えたら、ここに居るだけで迷惑極まりない。最終面接まで受かってたら、合格枠一人埋まっちゃうからね。
「それでは試験用紙を配る。こちらが合図をしたら始めてくれ」
ということで、さっそく筆記試験は始まった。
*****
「エマ!」
「来たよ......」
バンッ。筆記試験を終えてしばらくした後、受験者たちの解答用紙を採点していた試験官たちが居る空間に、一人の女騎士がやって来た。その姿を目にして、エマが深い溜め息を吐く。
問題騎士、アーレスのご入室だ。
兜越しでもわかるくらい鼻息を荒くしている様子である。
エマは採点こそしていないが、監督総責任者としてこの場に居て、アーレスが来ることを予想していた。
アーレスはビクッと肩を震わせる他の試験官たちを他所に、その足でズカズカとエマの前までやって来る。
「なんだい?」
「スズキという者の筆記試験の結果はどうだった?」
「ああ、それならここにあるよ」
と、エマは自身の机の上にある一枚の紙切れを渡した。
アーレスはそれを見て驚愕する。
「な?! 四十点だと?!」
「どうやら、あんたが見込んだ男は、おつむは悪いみたいだね」
と、エマは意地の悪い笑みを浮かべながら言う。
「くッ。これでは他の受験者の出来具合によっては落ちるぞ。何をやっている、あの馬鹿者め。私の補佐として騎士になると言ったではないか」
言ってない。
「にしても、あの若造がスズキとは......」
「? 何が言いたい」
「<屍龍殺し>」
その異名をエマが出した途端、この場に居る採点していた試験官たちの動きが止まる。
「え、エマ隊長、今なんと?」
「も、もしかしてスズキとは本当にあの噂の......」
「だが、そんな名前は他にそう居ないだろ......」
「だとしたら、帝国との戦争を止めたのはこの少年になりますね」
「それだけではないわ。少し前、傭兵になってから別の二つ名が広まっているのよ。たしか<
そう口々にざわつく部下たちに対し、エマは作業を続けることを命じた。
一方のアーレスは兜の中でドヤ顔を炸裂。人には見せられない恥ずかしい一面だが、エマはアーレスのドヤ顔を察してスルーした。
「この試験結果じゃ、私らの采配で合否を決められるよ」
「なら合格だな。二次試験へGOだ」
「NOさね」
「なぜだ?!」
アーレスはエマに問い詰めるが、エマは溜息を吐きながら応じる。
「元々、こんな怪しい人物を騎士団に入れるのは御免だったんだよ」
「帝国と王国の戦争勃発回避に尽力した男だぞ!」
「......この回答を見な」
エマはやれやれといった様子で、鈴木の解答用紙の一部を指した。
そこにはとある問題の内容と解答記入欄があった。
第一問.モンスターの襲撃で壊滅寸前の村があります。村人を避難誘導している貴方は、偶然にも目の前で村人がモンスターに襲われそうな場面を見つけました。どのような行動を取りますか?
そんな問題に対し、鈴木の解答は、
「“美少女なら全力で助け、違うなら避難誘導に集中する”......だと」
だった。
当然、その回答用紙には赤文字で大きく罰点が刻まれていた。
「こんな騎士がいて堪るかってんだ」
「......。」
アーレスはしばし何も言えなかった。
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