第392話 メガネキャラが頭良いとは限らない
「まさかロトルさんがあそこまで闇落ちしていたなんて......」
『苗床さんのせいですよ』
『お前のせいだからな』
え、ええー。
現在、僕は帝国城の中で一番高い屋根の上に腰掛けて、星空の下、視界に広がる景色を眺めていた。
先程まで皇女さんと彼女の部屋に居たんだけど、今はここに来ている。
本当は公務が終わるまで部屋から出るな、と言われたが、近くに居たバートさんとオーディーさんの手助けを受けて、しばしの間、僕は自由時間を手に入れることができた。
にしても、こんな夜遅くまで働かないといけないなんて、皇族ってブラックなんだな。
そんな僕の首には彼女から取り付けられたチョーカーがある。彼女がまるで僕をペットか奴隷かのように扱い、所有者であることを示すための証みたいだ。
まぁ、これは魔法具でもなんでもないから簡単に取り外せるけど、勝手にそんなことしたらロトルさんに怒られそうだから止めた。
「これからどうしようかな」
『『マスター、私たちは帝国を観光したいと告げます』』
「いやいや。僕はまだ国家規模の指名手配犯だよ。迂闊なことはできないって」
『ドラちゃんの仮面があっから、そう簡単にバレねーだろ。逆に目立つかもしんねーが』
『あ、そう言えば、ドラちゃんを【固有錬成:摂理掌握】で形を変えることはできませんか?』
と、姉者さんがそんなことを僕に提案してきた。
【摂理掌握】は触れたものの形を自在に変えることができる。僕がバフォメルトとの戦いで負った傷も、そのスキルで無理矢理塞いだが、特に身体に異常も痛みも無かった。傷が治ったわけじゃないけどね。
その後、堕天使化した聖女さんにもスキルを使って、生活できるくらいには戻すことができたけど、彼女も僕と同様に、【摂理掌握】による痛みは無さそうだった。
つまり、【摂理掌握】による改造行為は、本当に見た目が変わるくらいで、痛みなど無いのである。
姉者さんの提案に、ドラちゃんが乗り気じゃない雰囲気で言った。
『お、オレは別にこのままでも......』
『正直、もっと目立たない格好になれば、今後の生活が少しだけ楽になると思うのですが』
『うっ』
「まぁまぁ。僕はこのドラちゃんの仮面が格好良くて気に入ってるし、別に変えなくてもいいじゃん」
『ご主人!!』
と、ドラちゃんからの歓喜に満ちた声。
まぁ、痛みが無いとは言え、自分の見た目を変えられるのは抵抗あるよな。
が、
『『でも仮面をしていないマスターの素顔を見てみたいです』』
インヨとヨウイが駄々をこねる。
そう言えば、二人と出会ったのは、既に僕がドラちゃんを身に着けてからだっけ。それ以降、僕は死んでなかったし、ドラちゃんが外れるような事態は起こらなかったから、ずっと仮面を着けている。
まぁでも、
「僕の顔が見たいの?」
『『はい!!』』
「わかった」
僕はそう返事をして、<パドランの仮面>を額より上の方へずらした。
『『『『?!?!』』』』
何故かインヨとヨウイだけではなく、魔族姉妹も驚いている。
そ、そんなに驚くことかな?
妹者さんが慌てた様子で聞いてきた。
『ちょ、おま、その仮面外せねぇーはずだろ』
「外してないよ? ずらしただけ」
『あれ、言ってなかったか?
『聞いてませんよ......』
と、今更なことに驚く魔族姉妹たち。
白と黒の少女たちはというと、僕の顔を見て、少し残念そうに言う。
『『白馬の王子様を期待していた私たちに謝ってください』』
お前らが謝れよ。
『マスターらしい顔と言えば、マスターらしい顔ですね』
『冴えない男代表という感じで』
『わかってねぇーな、ガキども。パッとしないとこがいーんじゃねぇーか』
『まぁ、変に気を使わずに済む顔面偏差値で落ち着きますよね』
『ご、ご主人、オレは嫌いじゃねぇーぞ!』
あれれ、なんか涙が流れてきた。無性に死にたくなってきたんだけど。
『『マスターの顔だと眼鏡が似合いそうですね』』
と、どこから目線で言ってくるインヨとヨウイ。
すると、意外なことにドラちゃんがこれに便乗した。
『それはオレも思ったな』
『でしたら、<パドランの仮面>を眼鏡に変えてみてはどうでしょう?』
『うーん、ものは試しでやってみようかな......』
などと、あまり乗り気じゃない様子だが、さっきの抵抗はどこへ行ったのやら、ドラちゃんは僕に【摂理掌握】を所望してきた。僕は彼女たちに望まれるがまま、スキルを行使した。
スキルの効果を受けて、仮面の形が変わっていく最中、インヨとヨウイが感嘆の声を漏らした。
『『おおー! パドランがマスター好みのカタチに変わっていきます!』』
『うおい! 滅多なことを言うんじゃねぇ!!』
相変わらず馬鹿騒ぎが好きなようで。
やがて、<パドランの仮面>は鈍色でいかつい仮面から、色合いだけが同じの眼鏡に変身した。
......眼鏡と言ったら、あのバフォメルトを思い出してしまったせいか、銀縁眼鏡ではないが、それに近い細くて厚みがあまり無い眼鏡になってしまった。インテリ系って感じ。
「こんなところかな? どう?」
僕が感想を聞くと、皆はそれぞれ言った。
『『え、えっと、はい、似合っていると思います』』
『......まぁ、悪かねぇーな』
『ゼロに何をかけてもゼロということがわかった結果でした』
『ご、ご主人、オレはそこそこ気に入ったぜ!』
気を使ってくれた感想がいっちばん辛いの、学習した方がいいよ。
******
「おい、<屍龍殺し>」
「?」
皇女さんの部屋に戻ろうとしたら、廊下で後ろから誰かに声を掛けられた。
今の僕はロトルさんより入城証を持っているから、決して不審者扱いはされないのだが、僕の名前を呼んできた人物は確かな怒気を孕んでいた。
振り返ると、そこにはイケメンクソロン毛野郎ことムムンさんが居た。本日は皇帝さんの執事として活動していたのか、黒を基調とした執事服を着ている。
僕はぺこりと頭を軽く下げる。
「あ、どうも」
「なぜ貴様がここに居る。それになんだ、その眼鏡は」
「色々とありまして」
「殺したい気持ちで山々だが......まぁいい。貴様がここにいることを知っている者はごく僅かだ。大事にならないよう、迂闊な行動は控えろ」
「例えば?」
「不敬にも城の屋根の上に立つな」
「さーせん」
「ちッ」
おいおい、<
すると、ムムンさんは深く溜息を吐いてから、呆れた様子で告げる。
「今晩、陛下は殿下とご一緒にお食事になる。貴様も来い、とのことだ」
「......。」
パパさんともご対面かぁ。
まぁ、ここは皇帝さんのお城だし、挨拶も無しにお世話になるのは失礼だよな。
と、僕が考えていると、彼は僕が皇族と食事しても恥ずかしくないよう、身形だけでも整えるべく、僕を別室へと連れて行くのであった。
そしてその時は訪れ、僕は既に居るであろう皇帝さんと皇女さんが居る部屋へ向かい、部屋の前に立つ。
『ちょ、パパ! 何やってるの?!』
『なに、これから狩りをしようと思ってな』
『食事よ! 狩りじゃなくて食事! そんな物騒な物は捨てて!』
なにやら部屋の中が騒がしいな。皇帝さんと皇女さんのやり取りから、親子の仲の良さが感じられる。
そんなことを思いながら立っていると、扉の両隣に立っている使用人さんが、僕の代わりに扉を開けてくれた。
その時だ。
「キィェェェェエエエエ!!」
「え゛」
開けた視界の先で、皇帝さんが弓をこちらに構えている様を目にする。即座に放たれた矢は、僕の眉間を正確に射抜いた。
なんという、デジャブ。また帝国に喧嘩を売ろうかと迷いながら、僕はその場に倒れるのであった。
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