第173話 新たなレシピは豪快に行こう
『ぶははは! こういったときに役に立つ魔法があんだぜぇー!!』
「な、なんだって〜!」
さすが妹者さん! 頼りになるぅ!
現在、良い子は床につくであろう時間帯に、猿蛇種の人造魔族相手に殺されまくって意識を失っていた僕は、なんとか窮地を脱して、今度は多勢に無勢なこの状況をどう乗り越えようか模索していた。
そんな中、妹者さんが勿体ぶった言い方で策があると言い出した。
宿主である僕が演技臭くなってしまうほど、喜びを体現してしまうのは致し方ないことである。
「もしかして【多重紅火魔法】?」
『おう! ただちっとばかし魔力が足りねぇーな』
げ。今使えないんじゃ意味なくない?
姉者さんの特性鉄鎖で敵から魔力を奪うこともできなくはないけど、どうやって敵を一時的に鉄鎖で縛るかだよね。相手はすばしっこいし、地面に潜られたら鉄鎖による捕縛なんて期待できない。
『なら私の魔力を使いますか?』
と、姉者さんが提案してきた。
『それが確実だが......』
「確実だけど?」
『この状況でしばらく姉者とキスしなきゃいけねぇーのは危ないだろ』
「ああ......」
そうだった。魔力供給はキスしないといけないのかぁ......。今更ながら、なんてクソ仕様なんだろう。
逆に姉者さんが妹者さんから魔力を貰うのであれば、姉者さんの鉄鎖に妹者さんを触れさせて、“魔力吸収”というかたちで奪えるんだけど、今回は姉者さんから妹者さんへだからなぁ......。
『だからあたしらがキスしてる間は、鈴木だけで対応しなくちゃなんねぇーのよ』
「それはまぁ、頑張るけど......」
『決まりですね。妹者、キスしましょ』
『ん』
ということで、僕は両手のひらを合わせるようにして密着させ、魔族姉妹のキスを見守ることになった。
『『ん......ちゅ....あ......んぅ』』
両手から聞こえる女性たちの甘い声と瑞々しい音。
『ウキャ!』
『ウキッ!!』
「うお?! 【固有錬成:力点昇華】!!」
四方八方で繰り広げられる戦闘。
僕の意識は敵に向かなければならないのに、どうしても魔族姉妹に行ってしまう。
さすがに自分の両手を女性として扱うことはできないけど、それでも二人は妙齢の女性、それも色のある声を出すものだから、自然と耳に届いて情欲を煽られてしまう。
例えるならイヤホンで、Hなシーンを音だけで楽しんでいる感じ。
股間がムズムズしてしまったのはここだけの秘密だ。
『ぷはッ!』
「終わったかな?!」
『も、すこし』
マジかよ......。
妹者さんは息継ぎのために、一旦口を離したのね。姉者さんは普段の凛々しい声を思わせないほど、蕩けきった声を漏らしていた。
童貞には刺激が強いよ......。
そうこうして二人の行為は終わり、僕は妹者さんに魔力が十分行き渡ったことを確認した。
「もういいよね?!」
『ハァハァ......鈴木、姉者とキスしても、あたしの心はお前に......ある』
「そういうのいいから!!」
状況わかってるのかな?!
僕の叱責で正気に戻ったように、妹者さんの思考が正常に戻った。
『鈴木、レシピは【紅焔魔法:閃焼刃】と【烈火魔法:導火紅柱】だ!』
「了解!」
続く言葉は、今から行使する魔法に無知な僕へのイメージの素だった。
次いでイメージに必要な情報を一通り伝えられた後、妹者さんの合図と共に発動する。
未だ姿を見せない剣の柄を握り締めるよう、胸の位置まで上げた両手に力を込めた。
そして妹者さんと息を合わせる――
「『【多重紅火魔法:閃焼紅蓮】!!』」
具現化したそれは、【閃焼刃】よりも熱を有していて、容易く僕の両腕を肘まで焦がすように焼き尽くした。
剣の柄を通して、腕に真っ赤な灼熱の根が張り巡らされ、内側から焦がしてくるほど熱い。
【閃焼紅蓮】――黒ずむまで赤に赤を重ね、炭にするまで熱を収縮し続けたような力を宿した両手剣だ。
「か、かっけぇ......」
『へへ。だろ? 最高にしびれるよなぁ』
『こら。呑気なこと言ってる場合じゃありませんよ。敵が来ます』
姉者さんの叱責を受けて、僕は注意を周りに居る敵へ向けた。
猿蛇種の人造魔族は、僕が手にしている炎の剣を目にして警戒の色を浮かべている。
たしかにこの剣に秘められた力は馬鹿にできない。
「で、これを使って奴らに斬りかかればいいんだね?!」
『ばっか! あんな数の相手にいちいちやってられっか!』
「え、じゃあどうすれば?」
『レシピを思い出せ! そして感じろッ! そんでもって捻り出せ!』
レシピ......【閃焼紅蓮】は【閃焼刃】と【導火紅柱】を複合した魔法だ。
それなら――!!
「こうすればいいんだね!!」
僕は両手で握っていた柄を百八十度回転させ、逆手に持つ。
妹者さんは正解と言わんばかりに、この後の行動を僕に任せてくれた。
だから僕は思いっきり地面に、灼熱を限界まで内包した両手剣を突き刺した。
何かの門を開ける鍵を意識して――
「ファイヤー!!」
『ファイヤー!!』
敵からしたら予想外の行動に、場は静寂の間と化したが、それもほんの一瞬に過ぎない。
なぜなら――予想だにしない
『ウギャ?!』
『ギャアァァァ!』
火柱に巻き込まれた人造魔族が火達磨と化す。
そしてその火柱は―――一本だけではない。
『ッ?!』
『ウギ――』
『アァァァアアア!』
『ウギャアァァァ!』
不特定多数の火柱が周囲に散らばっていた人造魔族たちを飲み込んでいく。
逃げた先にも火柱は生まれ、敵を呑み込み、炭になるまで身を焼く。
地面に潜ろうにもその地面から火が吹き出すんだ。退路を立たれた上に、混乱して互いにぶつかって足を引っ張り合う場面さえあった。
そんな有象無象になるまで恐怖という熱を焼き付ける火柱は、今も尚増え続けている。
まるで人造魔族たちを一匹も逃さないと言わんばかりに、次々と火柱が立っていく。
やがて立っている敵が居なくなり、地面から現れなくなったことを確認した後、僕は安堵の息を吐く。
「ふぅ。これで片付いたかな?」
『おーよ!』
『しかしすごい火力ですね』
姉者さんが感嘆の声を漏らした。
確かに周りを見ると、あっちこっち破壊しつくされて、所々火事も広がっていってる。
敵の襲撃で半壊した屋敷も、僕らの戦闘によってほぼ崩壊寸前だ。
「......。」
『これ、マズくね?』
『貴族の屋敷ですからね。マズイですよ』
僕はそんな二人に何も言わず、この場を後にすることにした。
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