クレメンテスの治療は、ゆっくり優しく

ロゼを抱く花桜とシズは、控えの間隅に移動したソファに座りエリシオンと老司祭達が、回りを囲みバウスを前に立たせる。花桜が、緊張を解くためか芝居じみた声を上げた。「おじさま〜か弱い私達を守って下さるぅ」女の神経は、か弱くないだろうと心で呟きバウスは、皆を守れる立ち位置を決める。


花桜が、抱いたロゼの口元に人差し指で、無言の仕草をするとロゼは、口元を両手で押さえ頷いた。日々の遊びの中で危険回避の練習の中に声を出さない…我慢をする練習もしていた。


司祭服を脱ぎ身軽になったジノが、扉に耳を当て隣室の気配を探り指を1本上げる。シミュレーション1…敵の存在が、確認された。茜とルセが、頷きジノと反対側に控える。鉈を持ったジノの頷きで、リド筆頭側使えコルテオは、盗聴防止を解除。隣室へノックと声を掛ける。


「コルテオです。クレメンテス様の治療に参りました。扉を開けて下さい」人の気配が、動き扉の隙間からコルテオ目掛け長剣が、差し出される。間一髪ルセが、コルテオの体を後ろに引き下げ。ジノが鉈の背で長剣を叩き落とし隣室へと雪崩れ込む。


長剣の持ち主は、手首の痛みに耐え双剣を構えジノに襲い掛かるが、脇をすり抜けたジノは、振り向き様に男の腰を鉈の背で強打する。床に倒れ込む男を恐怖が襲う。黒くて平たい者達が、口々にキケン 危険 排除…危ないと梱包用シールを男の顔にペタペタ貼り付け。男の呼吸を奪い太く長い結束バンドで手足を拘束する。


側女がショートソードを前に構えコルテオに向かって来るが、茜の華麗な横蹴りで吹き飛ぶ。扉が開け放たれた隣室からロゼと花桜から歓声と拍手が、贈られピースポーズを決める茜。いま1人襲い掛かる側女をルセが、容赦無く…茜直伝の柔術で、投げ飛ばし更に桜色の歓声が上がる。


部屋に居たアクバ派の者達は、捕まりテープやロープで固定され控の間に一塊に置かれる。顔に隙間なくシールを貼られ横たわる男は、呼吸が出来ず虫の息だった。「ありゃ…窒息するよ〜これ。張り付いて取れない〜鋏…頂戴…はさ…まっいいか」


床ロボに愛用のカット鋏を渡されムッとする茜だったが、器用に男の鼻の回りを切り取り呼吸を再開させる。チョイと悪い顔になった茜は、あの世へ行きかけた男の頭部中心の髪で鋏の試し切りをする。ザビエル型に髪を刈り取り嫌がらせを終え満足顔で…脱ぎ捨てたジノの司祭服の裾で汚れを拭き取り床ロボに愛用の鋏を返す。


強襲者が、制圧されたクレメンテスの部屋。床に頭を付け震えるクレメンテスの筆頭側仕えと側女ふたり。家族を人質に取られたとは…言え副大司祭を危機に陥れた罪は重い。コルテオは、廊下に控えるクレメンテス派の警護を呼び寄せる為に廊下側の扉に向かう。


強襲者に怯えた側女のひとりが、隙を見てコルテオの後ろから扉に向かい駆け出す。素早くジノが、羽交い締めにするが、口汚く騒ぎ抵抗する。床ロボにガムテープを口に貼り付けられもがく女。


控えの間の壁に投影された画面から闇が、女を連れて来いと呼ぶ。もがき暴れる女をジノとルセふたり掛かりで闇が、映る壁の前に立たせる。ゆっくり画面に波紋が、広がり闇の上半身が、浮き出て来る。女の顎を捕らえ長い爪を額に差し込み蛇眼で、女を支配し情報を得る。


「そうなのね。エリナは、もう来ない…ならば連れて来た幼児は、使えず副大司祭の治療は、絶望的と伝えて頂戴〜ジノ離していいわよ」AIナユが、画像編集したシズ達が、嘆き悲しむ姿を見せ記憶の上書きを終えガムテープを剥がすと女は、控えの間から逃げ出した。


「逃げたけど〜大丈夫?」花桜が、画面の闇に向かい聞くが、問題ないから

他の者達の記憶処理もすると床ロボが、持つタブレット越しにクレメンテス筆頭側使えから記憶の改竄を始める。闇が記憶操作の傍ら…捕らわれた者達の悪意・嫉妬などを美味しいと〜ツマミ食いをし声を上げる。


その横では、控えの間からシズ達が、寝室へ移動。ベッドに横たわるクレメンテスの回復治療を始める。シズは、スツールに座りクレメンテスの右手首を軽く握り魔素を注意深く送り込む。青白かったクレメンテスの肌色が、少し変わり始めた頃シズが、前のめりにベッドへ倒れ込む。老司祭達が、慌てるが、側で控えていた。エリシオンが、お姫様抱っこで準備していたソファにシズを運び。ルセの指導でロゼが、ゆっくり魔素を分け与える。


「ねぇ?これって右手首からひとり

だけしか出来無いの? 他の血管付近から流してもいいよね。手足…首筋に皮膚越しに皆で注いでも…魔素なら何でも良いならおじさまにでも出来ない」少し落ち着き目を覚ましたシズに甘いアイスティーを手渡し花桜が、治療の効率を進言する。


「まだお体が、大量の魔素を受け入れられませんが、経過を診ながら増やすのは、賛成です」ホットサンドのパングズを唇に付けた老司祭が、頷きながらクレメンテスの体調回復を模索する。


「飲まず食わずなら 栄養ゼリーをスプーンで少しづつ流し込んで…その後重湯から…んっ」クレメンテスの食事計画を考えながらホットサンドを作る花桜の司祭服の裾が、引っ張られる。


視線を下に向けると少し疲れた様子のロゼが、おばぁちゃまに沢山魔素をあげたから餡このパン下さいとおねだりする。「よっしゃ〜美味しいの作るよ。茜…終わった?」「うん終わった。リドさんが、来て全員地下の牢屋に送られた」一仕事終えた茜達が、控えの間に入って来て各々準備されている軽食や飲み物を手にひと休みを始める。


付き添って来た警護を廊下に控えさせリドが、控えの間に入室し直ぐにコーヒーの香りに気が付いたが、最初の治療が、無事終わりましたと報告するコルテオに頷き休憩するシズに労いの声を掛る。


治療を再開するシズ達と連れの若い巫女を伴い寝室に向かいクレメンテスの様子を見て先ずは、危機を回避出来たと安堵した。「シズ様…この者も治療にお使い下さい。下級巫女ですが、お役に立ちましょう」


「アリサと申します」ふっくらと健康そうな少女が、緊張で少し震えながらシズの前で膝を折り両手を胸元で交差し礼をする。地方の伝奉所より巫女見習いとして来たばかりのアリサだったが、ナユがトイレに仕掛けた魔素検知蜘蛛型ロボが、魔素の多さに反応。


田舎の何も判らない身分も低い少女が、突然呼び出されここに連れ込まれ治療を命じられ怯えていたが、優しく手を取り魔素を馴染ませ話し掛ける。シズに安堵し緊張を解き笑顔を向ける。「ゆっくりと魔素を流して…お体が弱っていらっしゃいます。何時もの治療より細くゆっくり指先から魔素を流してそう上手ですよ。では治療を始めましょう。右手首に…いま私に流した魔素を思いだしゆっくりと…そう細く〜」クレメンテスの治療が、始まるのを見届けたリドは、控えの間に戻りコルテオを呼び午後の登城の打ち合わせを始める。


ジノがコーヒーをマグカップに注ぎリドに差し出すと少し広角を緩め受け取る。花桜の進めで軽食が、置かれたテーブル席に座ると皆が、自然と集まり打ち合わせが、始まった。


第6王子の治療に登城する者と入れ替わりリドとルセとロゼにジノが、伝奉所の馬車に乗り。バウスが準備したクレリッチ家馬車には、花桜と茜が、同乗する。なんでぇ〜と文句を言う茜にジノが、警護の問題で、そうなると言われ抱いているロゼに頬すりをして我慢すると呟く。


リドが気遣いながらコンビニ娘達に話し掛けて来た。「娘達どちらか?巫女になって欲しいのだが…当初の予定では、シズ様の同行を考えていたが、このまま治療を続けてもらいたい。かと言ってロゼだけでは、入城は出来ないと思う。どちらかが、巫女に扮してくれぬか。衣装は、こちらで用意してある」


突然の申し出に某お笑い芸人の様に譲り合う。娘ふたり。「は〜い。不肖…茜。巫女に化けます」よっ…女の鏡と盛大に拍手する花桜に釣られロゼも笑顔で、小さな手をパチパチ打ち合わせる。


では衣装は、ここに届けると言いリドは、飲み上げたマグカップをテーブルに置き執務室へと戻って行った。腕が鳴るぅ〜と張り切る花桜にジノが、釘を刺す。「忍びの入城だぞ。目立ず印象に残らない扮装を頼む。くれぐれも女神のコスプレは、止めてくれよ」地味に化けるから大丈夫と言い早速ふたりとロゼは、胸元の蛍を起こし湯屋に戻る。


午後まで時間が、有るので各々休憩に入りジノとルセは、床ロボに湯屋の大型クッションなどを頼み部屋の隅で寝に入った。


+++++++


「う〜ん。黒髪はパス。コスプレ用は、派手だし前髪を付けて薄布で」コンビニバックヤードに私物を置いてる部屋でウィッグを探す花桜の後ろでは、ロゼに金髪のウィッグを付け遊ぶ茜。「茜…時間ないよ。あっこれかな…どう?ジノさんとお揃い」肩までの濃い茶色は、ジノの髪色と良く似ている。この国では、多い髪色。


「よし…ウィッグは、これで決まり。メイクはどうする。胸は詰める?」「う~ん。胸盛りたいけど、バウスのおっさんが、五月蝿いからパス。女と判るサイズでいいよ。メイクは、おとなしい陰キャラ…うぎゃぁ。なにぃ」


茜の右首筋を撫でる見慣れた長爪。

何も無い空間から闇が、顔を出す。「なっ…急に触るの禁止。ほらぁ鳥肌が、立ってる」「あら~ゴメンねぇ。巫女に化けると聞いたから。ロゼが何時も付けてる魔素吸収の指輪。魔素が貯まったのを矢印と逆に付けて収縮するから茜の太い…いやぁ睨まないでぇ。大人の指でも着けられるから。あんた達 魔素無いから~花桜も着けて行って」


闇の指示で魔素吸収の指輪をうさぴょんリュックから出すとかなりの数が、満タンに貯まっていた。「これシズさんに渡したらロゼが、近くに居なくても良くない。魔素の受け渡しも時短出来るよね?」


ピンポーン 来店音が、なりナユが、床ロボの上に現れる。「おぱっ♪そこまで気付かなかったよ。花桜…袋に10個入れてくれる。あと使った指輪を入れる袋も無地が、いいな。判り易くして」花桜が、指輪を入れた錦糸和柄と無地の袋を床ロボに渡すとまたねとナユと共に控えの間に転移した。


「さて化けますか」茜が髪毛をまとめメイク道具とロゼを抱き湯屋のフロアへと向かう。花桜が、下着ケースから数点のブラと補正下着に多めのブラパットを洗濯籠に詰め込み

後を追う。✴️

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