登城 離宮

キュルリと鳴る機械音と共にオワッタ~と黒く平たい物が、化粧ケースなどを乗せ現れ…床に広がる桜色の光からふたりの女と幼女が、戻って来た。


「誰だ…お前は?」バウスは、心の声を素直に出してしまい〈また貴方は、何時も思った事を口に出して貴族なら自重して下さいませ〉幻の妻に脳内攻撃を受け咳で誤魔化す。


バウスが、そう思う程。茜の扮装は、完璧だった。視線の先には、たおやかな巫女が、腰に幼女を貼り付け立って居た。


バウスは、ほーへー何と呟きしげしげと頭上から足元へと視線を動かし茜の胸元で目を止めた。慎ましやかだが、張りの有る胸を指し示し「何を詰め込んだ?知らなければ…うおっ」

同時に足先と腰に衝撃を受けよろめくバウスの視界に花桜の冷たい視線が、突き刺さる。


「本当…直ぐに食い付く。このセクハラ親父は」登城するからと頬を避け脇腹に軽く蹴りを入れた茜の腰に張り付くロゼは、いま1度バウスの足先を踏もうとし飛んで来たルセに抱き上げられる。


ジノも間に入って茜を小声で諌めながら注意をする。「茜…相手は、腐っても貴族だ。不敬罪で捕まるぞ」「横っ面を叩きたいけど、城に行くから我慢したの。誉めてよね。女の胸しか興味が、無いのかよ。このエロじじぃ」


休息を取りに来たシズ達が、小競り合いに驚き控えの間 入り口で、見知らぬ巫女の暴挙に驚いたシズが、伝奉所巫女として下の者をいさめる声を上げる。「何と…上位貴族に向かい。足蹴りなどとは、不敬な行い何処の者です」


「いやシズ様…わしが、悪いのです。若い娘に不躾な視線を向け…つい口を滑らし。制裁を受けたのは、当たり前の事です。お怒りを納めて下さい。それにこの者は、伝奉所の巫女では、無く茜の扮装ですじゃ」


茜…皆の視線の先には、濃い茶髪を緩やかに編み微笑む巫女が、立っていた。特徴の無い顔立ちに右小鼻の横に少し大きめな黒子。控えめな胸元。少し視線を外せば、女の印象は、小鼻の黒子しか思い出せない。化粧は、美しく装う事も有れば、隠す事も出来る。


「服はどこ?」茜の声に小競り合いに動きを止めていたコルテオが、慌てて巫女の衣装を差し出した。軽く羽織…花桜と身丈などを確認すると身幅が、狭く窮屈だった。「う〜ん。背中と脇が、キツイなぁ。かなり動きずらい…あっ…アリサちゃん。こっちこっち来て脱いで」


茜の暴挙に室内に居た皆が、驚くが、意図を察した花桜と開いた大扉の影にアリサを連れ込み巫女服を奪い取り…脱ぎ捨てていたジノの司祭服をおっさん臭いけど我慢してね…と着せ変える。とうちゃんの匂いが、すると故郷の父を思い出し笑うアリサ。


今度は、身幅が緩く丈が、短いが、これでと登城の準備を終えた。 胸元の蛍に呼び掛け~自室に戻った花桜が、様々な服を一抱え持ち込みクッションの山に置き広げる。アリサの希望を聞きまた、扉の影へ連れ込み着替えを終える。薄紫色7分袖のカットソーの上にベージュのストンとしたV襟袖無しワンピースを着た若い娘が、頬を染め見慣れぬ服に戸惑いながらどうですか?と聞けば皆が、頷き良く似合うと言う。仕上げに茜がブラシを出し髪を編み込み整えると日本の何処にでも居そうな少女が、立って居た。


休憩が終わりまた治療に向かうシズが、ロゼに近付き指輪の入った布袋を見せありがとうと柔らかい頬を撫で寝室に向かう。シズに誉められ感謝されたロゼは、嬉しくなり撫でられ頬を差しおばぁちゃまにありがとう言われたと準備中の皆に言って回り。良かったねぇと誉められ更にご機嫌になりルセの横に座る。


登城も迫り手早くルセに濃いめのドーランを塗り太眉に変え…ジノには、タレ目くまを描きお疲れ顔に、髪には洗えるヘアカラー白をコームで白髪風にパラパラ散らし初老に仕上げた。



「参るぞ」リドと現れたバウスは、ザ貴族と気合いの入った手の込んだ衣装と装飾で、現れ花桜の創作心を揺さぶった。「後でじっくり見せて貰う〜」浮き立つ花桜をジノが、程ほどになと声を掛けるが、聞こえているのやらとつぶやく。


+++++++


王宮奥に居を構える王妃と王太子。

それ以外の妃と成人前の子供達は、点在する離宮に別れ住まう。第5妃の息子 第6王子の手を取り茜が、化けている巫女の指示でロゼが、シズに学んだ魔素治療を慎重に進めているが、注いだ魔素が、染み出る様にわずかずつ減って行くのを止められず付き添う者達の表情はいずれも暗かった。


応急処置に城の魔導師達が、魔石を王子の体に沿わせ置き魔素の流出を極力押さえているが、病の原因が、今だに判らず毎日通わせている。伝奉所巫女の光魔導治療が、王子の命を繋いでいた。


昨年死んだ王子の姉 第7王女の症状と同じ病に城の者は、王族の子供だけに発症する奇病を疑う者も出ていた。王族の記録にも魔素枯渇で幾人か幼く亡くなっている症例もあり魔素研究所でも研究が、進められている。


「王様…」第5妃のサーリアは、幼い息子に付き添い。心身共に疲弊していたが、突然部屋に現れた王に人目もはばからずすがり付き…張り積めた心の糸を手放した。気を失ったサーリアを抱き止めた王は、走り寄る部屋付き達に妃の手当てを任せ治療を終えた幼い巫女に視線を向ける。


慣れぬ治療に疲れ同行した巫女に抱かれるロゼと未だ病が、癒えず浅い息を繰り返し意識も無く横たわる我が子を見つめ続ける 。


ふと視線を感じ横を見れば、いつの間に現れたのか。黒い服を着た性別不明な司祭が、王子の枕元に近付きその額へ長い爪を伸ばす。「ぶれい…なにを…だれ」王は声を上げ側近達を呼ぼうとするが、体は動かせず視線の端に飛び出し腰の長剣を取り落とし倒れ込む宮廷騎士達や側使え達のうめき声だけが、部屋に聞こえる。


先程執務室を訪れた。前魔導師協会副会長バウスが、見せた幻影(ナユ作の3本の動画)を認めざる得ない者が、横に立っていた。


長い爪を王子の小さな顔に這わし少し額に印を切り王に視線を向ける。

「闇と申します。王子の病は、呪詛と呪術でございますね。王には、水晶の加護があり弾かれた恨みは、このお小さい王子様に…これが呪術の元です」闇は、王子が片時も離さず抱き可愛がっていたクマの縫いぐるみを引き裂き小さなどす黒い布包みを取り出し冷たい手で王の手を取り手の平にそれを置いた。


拘束が解け震える指先で包みを広げ中を見れば、髪束と小枝が入っていた。それに気が付いたひとりの魔導師が、素早く王より包みを取り上げ床に崩れ倒れる。「あぁ〜っ…力も無いのに無理しないで頂戴ね。魔素切れ起こしてるからジノそっちに引っ張ってロゼに治療させて…ロゼちょっと〜指輪して こっちには、来ないでぇ」名を呼ばれ駆け寄るロゼより逃げ出す闇。


ロゼの回収に寄って来た茜が、床に落ちた呪物を見て声を上げる。「これ人の指〜指のミイラだよ。爪あるもん…気持ち悪ぅ〜バッチいからロゼは、見ちゃダメだよ」魔素切れで運ばれる男の後をばっちぃバッチィと歌い後を追うふたり。


「これ借りるわね。呪物に香油を掛けて…返品…」手近な香炉に呪物を乗せ何も無い空間から黒い小瓶を取り出し中身を注ぐ。鼻を突く匂いに香炉側に居た側使え達が、むせ離れる。パッチン指を鳴らした闇の指先に小さな火が、点り油を吸った呪物に落とす。音を立て業火が、広がり直ぐに呪物は、燃え付きた。


部屋の隅でクマの縫いぐるみを贈った王子の乳母が、糸の切れた操り人形の様に倒れる。「どうした…し…死んでいる…」倒れた乳母を助け起こそうと近寄った側使いの男が、悲鳴を上げる。


「呪詛を返したからねぇ。布の血と髪の毛は、彼女のものだけど指の持ち主が、居るから…まだ終わって無いわよ」死んだ乳母に近寄り死体から何かをつまみ上げ。口元に運び今一な味だわね。と闇は呟き王に微笑む。✴️

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