治療室再び・再会2組と老害

手元に置きたいと切望したが、闇持ちの為に手放し潜入先で死亡した息子が、生きて帰って来た。自室の準備が、終わりパウロを寝かせ・側使え達には、今夜の事は、口止めをする。が…ネズミは、何処にでも居る。パウロが、自室に運ばれるのを見た者が、ある人に密告をしていた。


「リド様…シズ様が、面会を求めて…夜も遅いと申し上げましたが、既に廊下に来られて…人目も有りますので、控えの間でお待ち頂いてますが?」

すぐ行くと返事を返し。灯りの無い室内に注ぐ月明かりの下・安らかな寝顔のパウロの様子を見て心に刺さっていたトゲが、無くなっているのを感じた。


「お待たせ致しました。どうされましたか?」元大聖巫女・高齢による魔素の減少でその地位を後進に譲り次の大司祭長・調印式後には、大伝奉所を退所。老いた者達が、住む里に向かうと言っていたシズ。


「夜分に失礼致します。パウロが、戻ったと聞きまして…もしかしてエルシオンも一緒かと思いお伺いしました」立ち上がり曲がった腰を折り挨拶をしながら本題を切り出すシズ。


その顔は、孫を心配する祖母の顔だった。シズは大司祭との間に生まれた娘を愛しみ伝奉所の血筋・親子関係を認めない慣例に逆らい度々注意を受けていたが、大聖巫女の地位と魔素量の多さを盾に娘を手元で育て上げた。


その娘とクレメンテスとの間に生まれたエルシオンも手元で育てたかったが、闇持ちと判明・引き離され娘は、魔素の多い子供を望む貴族に嫁がされた。エルシオンを密かに見守り退所時には、側使えとして引き取りたいと申請も出されており他の司祭達が、眉を潜めていた。


エルシオンの身を心配するシズに先程の事を伝えるか迷ったが、直接エルシオン本人と会わせる事にした。

「明日の夕刻の鐘が鳴る時刻・8番治療室におひとりでお出で下さい。ご相談が、有ります。そしてこれらの事は、他言無用に…お願いいたします」シズは、はいと頷き戻って行った。


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翌日夕刻の鐘が、鳴る。

沈むオレンジ色の陽が、差し込む・8番治療室の机に向かい最後の書類にサインを綴り終えたリドは、書類をまとめ側使えに手渡し、人払いをする。


戻った側使えは、内側から鍵を掛け扉の取っ手に盗聴防止の魔道具を取り付け作動させ・室内の灯りを着け窓側の遮蔽カーテンを引く。


治療室には、リドと側使えに早々に来て居るシズとローブをソファの背に掛け少し湿気っている塩煎餅をウマイ旨いとパリパリ食べている。バウス・クレリッチふたり目の男孫が、生まれたのを見届け。口うるさい父親にひ孫を抱かせ・ワシの義務は、終わったと財産・身分・役職全てを息子に押し付け5年前に出奔。学生時代恋仲に成った赤毛の薬師を探す旅に出ていた元魔導師協会副会長。


王都の屋敷に滞在中と聞き知識と経験豊かな自称元貴族の洞察力を頼りたいと願い使いを出しところ父親&息子達の小言から逃げる。口実に2つ返事で本人が、飛んで来た。


「初めて見る菓子だな?軽くて旨い…孫には、こちらの薄焼きクッキーが、良いな」上から催促を側使えに言っている。困っている側使えの代わりに菓子は有るだけです。などと軽口を叩いているとキュルリと小さな音が、部屋の隅で聞こえバウスが、シズを庇い前に立つ。


丸く黒い平たいものが、オチャ〜と茶器篭を乗せ現れ…続いて淡い桜色の光が、広がり待ちわびた者達が、やって来た。鉈鞘を腰に身に付けた警護人姿のジノが、前に進み挨拶をする。その後ろより司祭服を着た良く似た青年ふたりに手を引かれた。淡桜色の司祭服を着た幼女が、続き…ひとりが、戸惑いながらバウスに声を掛ける。


「クレリッチ様…何故ここに」「ルセか?何じゃい…その髪色は?…そうか見付けたか」茜と似せる為に赤茶色の髪に染めていたルセと手を繋ぐロゼを見て良かったなぁとルセに近寄り両手で肩を掴みバウスは、喜びを表す。


大声でルセに話し掛ける。バウスに茜とロゼは危険を感じ、少し離れるが、直ぐに捕まりロゼは、見知らぬ大人に頭をグリグリ撫で回されべそ顔になる。


茜が、ふたりを引き離し各々席に付くが、この衝撃的な出会いでロゼは、しばらくバウスを敵認定し避けられ続ける。『あなたは、加減と言うものを学ぶべきです』可愛がり過ぎ泣かせた孫を抱き上げ・あやす妻の説教が、聞こえて来た。


視線の隅に再び淡い桜色が、広がり自作の淡桜色の司祭服を着た花桜とルセ達と同じ灰色の司祭服姿のエルシオンが、カートを押し現れる。今夜皆が着ている司祭服擬きは、花桜と桃が、頑張り仕上げた力作である。


ポットから漂うコーヒーの香りとほろ苦さ・旨味を思い出し生唾を飲む自分に驚くリドは、再びあれを飲みたいと側使えを呼び付ける。


横に座ったバウスは、さっさと花桜が、押すカートに近付き山盛りに置かれた丸いドーナツの甘い香りに目を輝かせドーナツを取り上げひと齧り。驚く花桜を側使えと勘違い。貴族目線で命令をする。「旨い!!この色が、違うのは味も、違うのか?ならワシは全種類を所望する。シズ様は、どれに致しますか?」


後方に座るシズを振り返れば、カートの飲み物を準備する青年を見つめ静かに歓喜の声を上げた。コーヒーのポットに手を掛ける。エルシオンの動きが、止まり近付いて来る高齢の女性を見つめる。


「シ…ズ様…」「エルシオンよくぞ。生きていてくれて…良かった…」シズは、戸惑うエルシオンの2の腕にすがり孫息子の頬をシワだらけの両手で包み喜びの涙を流す。闇持ちと判り辛い時に時折近付いては、優しい言葉と菓子をくれた。元大聖巫女のシズ。自分と彼女の関係を言葉に出しては、いけない。それはここでは禁句。


自分にすがり喜ぶ老女を見て今まで言えなかった言葉が、自然と出て来る。「おばあ様…」ふたりは、互いを呼び合い強く抱き締めあっていた。「なんと祖母と孫だったのか?成る程よく似ている」


ケーキ皿にミニドーナツを盛り数歩前のテーブルに皿を置き戻れば、ドーナツ待ちの列が、出来ていた。ロゼと茜にリドの側使えが、皿を2枚持ちその後にジノも居た。他の軽食を出したい花桜は、トングを任せたと茜に手渡し車内販売の様な説明を始める。


「ドーナツにサンドイッチ・唐揚げと芋揚げ〜飲み物は紅茶・緑茶・コーヒーは、いかがでしょうか〜ぁ。エル大丈夫?…」少し赤い目をしたエルシオンが、カートに戻り大丈夫ですと答え飲み物を注ぐ。


花桜の采配で、向かい合い3人座れるソファには、〈リド・バウス・ルセ組〉と〈ジノ・シズ・エルシオン〉が、座り1度ルセと座ったロゼは、横に座るバウスを威嚇し逃げた。泣かれるより良いと只今〜茜と放牧中。広い治療室をあれこれ見て楽しんでいる。


花桜と側使えが、それぞれソファの横に座り自己紹介が、始まった。その後は、昨日の動画3本を見て貰いエリナとバウスの所業に恐れおののくシズを彼らが、居れば大丈夫です。と抱き締めるエルシオンがいた。


来店音が、流れ・壁にナユタンが、映り挨拶をする。「そろそろ本題を進めてよいかにゃ?こちらの希望は、これから起こす大伝奉所内騒動の静観と後方支援・ロゼ封印地ドーズへの道程の警備を国王に要請すべく。王城に登城し病の第6王子の治療に向かう巫女にリド様が、同行するなら城側も警戒を緩めると思うにゃ。偵察用蜘蛛と探索ネズミを忍ばせれば、後は何時でも潜入出来きるにゃん。協力して貰えるかにゃ〜ぁ?」


ナユタンが、また意味も無くクネクネし始めたので、床ロボの投影スイッチに手を伸ばす花桜の手を離れシャーシャーするナユタンが、消えパソコンデスク前に座るナユに変わる。リドが手元のリストをバウスに手渡し話を始める。


「昨晩貰った。この反対派リストに味方と思っていた。貴族と司祭の名が、載っていた。予想より多くのアクバ派が、潜んでいると思います。慎重に動きたいところですが、大水晶の輝きが、落ち・いよいよ大司祭様のお隠れが、近いようです。後を引き継ぐクレメンテス様の病の原因が、魔素不足と判り。早急に魔素治療を施したいのですが、エリナ達の視線もあり…迂闊に動けば、暗殺の危険もあり…どうしたものか?」


「どこも一枚岩で無いものだ。さてどうする?ワシは協力するぞ。報酬は…そうだなぁ…知らない旨い酒を所望する」「お城には、私が参ります。協力させてくださいませ。リド様もよろしいですか?」エルシオンの手を握るシズの手は、微かに震えていたが、揺るぎない決心が、瞳に浮かんでいた。


「明日の城への治療には、私もシズ様とご一緒に向かいましょう」側使えが、治療担当の入れ替えを伝えに向かおうとするのをバウスが止める。


「担当の者を確認・こちらの準備を済ませ。出発直前に入れ替われば、奴等も直ぐには、動けまい。明日は、わしも同行しょう。腐っても元魔導師協会副会長・少しは顔も利く。そちらからは誰が、参る」


ルセがそっと手を上げた。残りは相談してからと花桜が言う。広い王城何人でも良いぞとバウスが、冗談を言い塩唐揚げとフライドポテトを食べ旨さに驚き酒が、欲しい〜酒は無いのかとリドの側使いを困らせていた。


全員一致で面倒くさい爺ぃ認定となりジノが、そっとルセに以前貴族を知っているが、面倒くさいと言っていた。御仁か?と聞かれ何度も頷き悪い人では、無いけどぉ〜自分で厄介事を起こし自分で解決する方です。と苦笑いをしていた。


「クレメンテス様が、治療回復したと判れば、次は命を狙われ…迂闊に治療も出来ず…何か手立ては?」魔素切れで命が、危ない副司祭の回復。

それを隠し通す手段に皆が、悩む中・闇が、白い壁に映りハイはいと手を上げている。ナユが、はい闇君と指を差せば、結界を張れる魔導道具・出べ子にエルシオンが、はめている闇魔素だけを吸収する指輪を入れ闇結界を張ってくれと花桜に頼む。


「出べ子の結界を小さく…そうねぇ。そのテーブルの端に掛かる…そこで」花桜がポシェトから出べ子を取り出しエルシオンの闇魔素を貯めた指輪を出ベ子の上に空いた細い穴に入れる。スイッチをひと溝ずらし起動させる。直径2メートルの闇結界が、張られ。黒霧が現れ何時もの闇が、優雅に一礼した。


「や…ちょっと待ったぁ〜茜!!。ロゼに指輪嵌めてぇ〜」大人の話し合いに退屈していたロゼが、何時もの調子で闇に近付き結界に入り込む。闇の外観が、チリ付き始める。素早くジノが、ロゼを回収〜茜が小さな指に光魔素吸収の指輪をはめる。もうひとつ嵌めてと懇願する闇。指先を丸めロゼを見て今の魔素量を確認。


「おォーけ…さてと。魔素を阻害する指輪だと気付かれるから腕輪・足輪・首輪?」皿を退かしたテーブルに闇の手のひらから宝飾が、降り注ぎ何時もの山を作る。ゴトッ…お馴染みのどす黒赤い奴も現れるが、茜を魅了する前にロゼに捕まり。床に置かれ小さな手のひらで叩かれ…それでも帰りたく無いと震えていると幼女の容赦無い踏み踏み攻撃で床へとめり込み。最後は闇のねじ込み踏み付けで、悲鳴を上げ消えた。


「今のはなんじゃい?」元魔導師協会副会頭・魔石・魔導道具。大好きバウスが、キラキラ視線を向けるが、ロゼの威嚇に上げた腰を下ろす。茜を守った達成感で鼻息が、荒いロゼは 茜に報告と甘えに走り戻りる。


全ての視線が、集まる宝飾の山からゴツい足輪を取り出すが、ジノの隷属の腕輪みたいだ。に…即却下。何度も見ている花桜も人指し指で山を崩し何点か引き出し〜戻しを繰り返す。水晶を削り出した足輪を体格が、似ている側仕えが、試着効果を確かめ少しだけ魔素量を誤魔化す水晶の足輪に決まった。


「これもどうぞ。そうねぇ〜茜?大吟醸鬼封じの価格は、幾らだった?1万5千…10本欲しいから金貨2枚でいいわよ。それと闇魔素だけを吸収する腕輪セット。パウロに要らない?」テーブルにコッリと細い白金色の腕輪が、5本置かれた。側仕えが、素早く何かの為に準備していた小さい皮袋をリドに手渡しリドは副司祭長・治療分とこれからの前金だとテーブルに置く。


闇がジノに確認させた皮袋には、白銀硬貨 (1000万)5枚が、入っていた。驚くジノに花桜と茜が、近寄り1枚を見せて貰う。オルージェ王国の鷹と獅子の紋章が、レリーフされた。金貨より3割り増しの大きさで重い白銀硬貨。ナユのコンビニチャージ5000万〜太っ腹ぁの声が、壁から聞こえて来る。


元は闇が、出したタダの足輪と腕輪。多過ぎる対価と1枚だけ受け取り・残りが、入った袋をリドの前に戻すふたり。「これこれ娘達?…貴族が喜捨した金を簡単に返すものでは無い」軽く嗜めるバウスに茜が、薄い胸を張り平民ですから貴族の常識は、存じませんと言った。


「やはり娘だったか?喉仏もヒゲも無いが、胸も無く。声も少し高い。男か女か迷っておったが、可哀想に残念な胸だが、なに…悲観する事は無い。世の中には、薄い胸を好む男もおる」カチンと勘に触るバウスの言葉を買った茜が、反論する。「おっさん・あんたには、好かれたくは、無いから安心して…セクハラじじぃ」

腐っても貴族なバウスに喧嘩を売り始めた茜をジノが、顔色を変え押し留める。「クレリッチ様その様な言葉は、初めてお会いする。若い女性に対して掛けて良い言葉では、ありません」シズがバウスを嗜める。〈貴方は、良く考えてから相手の立場に立ち発言すべきです。思った事をそのまま口に出し何度揉め事になりました?〉また妻の冷たい視線と幻聴が、聞こえて来る。


「ロゼの魔素量の確認とクレメンテス様の治療も早急にお願いしたいのですが、明日の朝からで良いでしょうか?リストに載っている。反対派の側使えも外し…」元大聖巫女は、リドの側使えを呼びリドと明日からの行動を相談する。


連絡用にと通話機能が、組み込まれた腕輪を床ロボが、リドに手渡し一緒に持って来た。タブレットを通し簡単な機能のボタン操作をナユが、教え解散となった。闇が宝飾の山を回収・帰る時にバウスが、手持ちの白金貨(1億)を取り出し少し置い行けとひと騒ぎ合ったものの。扱いに慣れている。ルセの帰りましょうの声に皆は、頷き・老害爺を無視コンビニに戻って行った。


後に残っていた床ロボ達が、てきぱきとカートや茶器などを片付け。昨日置いて行ったストレッチを畳み淡い桜色の円陣に消える…寸前にバウスが、ストレッチに飛び乗り共に姿を消す。


慌てたリドが、腕輪の通信ボタンを押しナユを呼び出すと今送り返すからと言葉が、終わらぬ内に床ロボ3台が、細い腕で捕らえた体育座りのバウスを乗せ戻って来た。3台が内側に傾きバウスを床に落とすと返品〜と帰って行った。


妻と良く似た冷たい視線を浴びながら興奮したバウスは、ワシは異世界の扉を潜ったと感動に震えている。リドの腕輪の向こうから茜の2度と来んなぁ〜クソ親父の叫び声をバックに花桜の明日は、よろしくお願い致します。ごめんあそばせと…通信が、切れる。

どっと疲れたリドとシズは、休みましょうと側使えにバウスを預け治療室を後にした。




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