エルシオンとキルナ語

「このまま寝せて置きたいけど〜血の匂と体臭が酷い…ジノお風呂へお願い」起きて直ぐ青年の追加治療をさせようと近付かせたロゼが、くチャイと鼻を覆い逃げ出した。今は茜と朝シャンタイム中。


「栄養ゼリーと鉄分ジュースを少し飲んでもらって…ロゼが上がったら湯船無しの汚れ落とし後で傷の追加治療をよろしくです」程なく髪とタオルをソフトクリーム風に盛り上げご機嫌でフロアのドリンクコーナーに張り付きジュースを所望するロゼ。


闇が、拾って来た青年・エルシオンも顔色は悪いが、男ふたりに介助されての朝シャワーを終え長い髪の毛をタオルで巻き上げ。ロゼの隣で追加の治療を受ける。心臓の少し下に薄く傷跡が、残りもう少し上を刺されていたら死んでいたとジノが言う。後は倒れた時の打撲傷が、右膝と肩にあり痛むだろうが、数日で治ると治療経験が、あるルセが、花桜に渡された湿布を張り告げた。


それよりもガリガリに痩せているのに驚いたと言うジノの横でルセが、どこでも下働きは、1日1食・風呂も臭なったら真冬でも水浴び着替え。ここは別世界ですと朝食を買いにコンビニへ…ふと窓の外を見る。店内で朝食を選ぶルセを見付けガラス窓に突進して来るロシナンテ。


ご〜んと盛大な音を立て揺れる強化プラスチックガラスの窓。悲しげに嘶きガラスに鼻頭を押し付けルセを追い鼻水の筋を描くラバ。苦笑いしたジノが、会計を終えた海苔弁当などを乗せたトレーを1号に運んで貰いランドリーに置いてある荷物から藁を抱えコンビニから離れた芝生に置く。大人しく付いて来たロシナンテのタテガミを撫で藁を食べ始めたのを見てランドリー入り口へと戻る。


湯屋のフロアには、様々な匂いが、漂いジノの腹の虫が盛大に鳴く。エルシオンの前に、大きな皿が、置かれミニサンド・ポテトサラダ・プチパン ・唐揚げなどが、少しずつ取り分けられていた。フォークとお絞りを渡され流した血の分・沢山食べてと言われた。


暗い地下の寝る場所もろくに無い闇持ち達の控え室。冷たいスープと固いパン。明るい部屋で温かいスープを味わい。始めて見る様々な食べ物を少しずつ食べ満腹感とここは安全と判り張り詰めた感情が緩む。人を駄目にするクッションの座り心地と温かさ・見知らぬ者達の話し声に瞼が、自然と閉じ…た。


闇魔素持ちは、司祭と巫女の間に産まれた不義の子。笑う事を禁じられ感情を押し殺し恨むなら闇を持って産まれた己を恨めと言われ育って来た。

年老い看取った世話人の最後の言葉は、「明るい…陽の光の下で…生きたかった」遺体は地下墓地・隅の大穴に投棄された。久し振りに世話人の姿を見て思わず手を伸ばし声を上げ目覚めた。


「「なに?」」茜とロゼが、驚き顔を覗き込んで来る。何と言って良いのか戸惑っていると花桜から体調悪いなら布団で横に成る?と聞かれ平気ですと答え座り直した。まだ食事は、続いており隣のロゼが、フライドポテトと言う芋の細揚げを口に押し付けて来る。あ〜んと口を開ける茜の真似をすれば、芋を口に押し込まれた。塩味の芋はカリっと旨かった。


「では…食べながら現状報告&意見会初めますよ〜」きゅるりと床ロボが、現れ扉の向こう複雑な機械に囲まれている少年ナユがいた。


「初めましてエルシオン。ナユです・脇腹の傷はどうかな?闇が見付けなかったら出血死してたかも…運が良かったね。昨日は、何故薬問屋の裏に居たの?」


「巫女さまが、治療してくださり。ありがとうごじゃい…モグモグ…」容赦しないロゼの芋攻撃。ジノが口をパクパク芋待ちをする。芋入り紙容器を抱え新たなターゲットに向かうロゼ。

ほっとするエルシオン。


「昨晩は、リド様に地図を渡され薬問屋の裏で包みを受け取り戻れと言われました。受け渡す姿を見られない様に認識妨害の魔導を張り包みを受け取った時に突然刺され…一緒に居た者は?どこへ…」


「心臓を刺され即死だったわ…死体はあたしが、持ってる…出す?」盛大なブーイングを受け。判ったわよと拗ねる闇。刺された痛みを思い出し脇腹を擦るエルシオン。ナユが、現状報告を始める。


薬問屋と関連する貴族の周辺でも密偵が、次々と殺され行方不明に成っている。エルシオンの後ろにすり寄った闇が、後頭部に長い爪を突き刺し「何にも教えられてない。嘘は無い下っ端よ〜。でもこの子かなり優秀。光以外の魔素全部持ってる…でもぉ闇が、強くて残念ねぇ。人間界では、闇持ちは嫌われて…」うつむき体を縮めるエルシオンに闇は、更に止めを差した。「1度死んでるし〜ねぇ…あたしの眷属に成らない。闇時空間なら寿命も伸びるし」


ふるふると横に顔を振りエルシオンは、声を振り絞る。「嫌です。闇なんて消えて仕舞えば、良いのに…闇持ちだから嫌われ蔑まれ…」「そんなに嫌わないでよ〜あんたの闇に反応した。探索ネズミに呼ばれてあそこに行ったのよ〜呼ばれて無かったら血を流し死んで今頃は、何処に捨てられてる筈よ」でもと口ごもるエルシオンは、ナユに尋ねる。「伝奉所に帰れますか?わたしは、この後どうすれば…」


「死んだ事にして…第1発見者のジノ・中身を写し終わった報告書の包み。リド様に届けて…意地汚く手間賃せびって施設内部を調査これも置いて来てくれる。場所はトイレがいいかな。茜はジノの変装よろしく」

はいよ〜と手を上げる茜。


「エルシオンを死んだと思わせるのか?」床ロボが、差し出した丸まった蜘蛛型自走監視カメラの起動ボタンを確認。手のひらで転がし動きを確める。


「その方が、いいと思う。エル…僕らに協力して欲しい。ここに居れば身を隠せ美味しいものも味わえるよ。大伝奉所に巣食う悪を一緒に倒してくれ」戸惑いながら頷くエルシオンにそれぞれが、自己紹介をして軽く経緯を話すナユ。「続きの報告始めるよ。先ずはお手元の資料を見て」


隠しカメラや蜂型ドローン・闇の探索ネズミで集めた大伝奉所関連の要人・貴族の情報をまとめた日本語の資料から花桜が、急死した者の名を読み上げる。


識字能力の無いジノとルセ。どちらも簡単な自分の名前と薬草名を読み書き出来る位で複雑な誓約書などは、口頭で聞いていた。死んだ貴族のリストを見て茜が、不審な点を言う。


「またひとり死んで…これ嫡子が、いたのに養子が、跡取りになってる。胡散臭いねぇ」抱いていたロゼもねぇ〜と首を傾げる。超可愛いとほっぺにチュッチュッされ笑うロゼ。


包みの文書コピーも各々に渡されるが、判らんと即ギブアップする皆の中エルシオンが、貴族の名を呟く。「エル?君?キルナ文字が読める」「はい…年祝いまでは、貴族の子供として教育されてました。闇持ちでしたので今は、リド様の元で雑事をしております」


10才の年祝いの日・闇持ちと判明したエルシオンの生活は、一変した。暖かい服やおもちゃなどの私物は、全て取り上げられ与えられたのは、薄い司祭服数枚と桶に入った身支度用品と下着だけ温かい湯も無く冷たい僅かな水で身を清める日々。


空腹に耐え兼ね世話人に訴えた。

『わたしも皆と一緒に…食事をしたい。風呂にも…汚い地下は、嫌です』応えは、鞭打ちと独房。食事も抜かれ死んだ子供もいた。それでもエルシオンは、抵抗を続け背中には、無数の傷痕が残る。だが…何時しか訴える事も諦め他の闇持ちと変わらない無表情な下働きとしての日々が、過ぎていた。


「コピーしたメモ書き・一部判らない文字もあって」読み上げるエルシオンの協力でメモは、薬問屋が、次のターゲットにと狙う貴族や商人のリストと判った。ナユは、早速各所に蜂ドローン・探索ネズミなどを張り込ませた。


「大伝奉所の討ち入りには、後ろ楯は、必要でしょ。貴族に頼む?」「そりゃあ〜国の頭を押さえる。この国なら国王?」一時期・暴走族に居た茜は、拳を握り突き上げた。


「王様?集まった情報だと…まだ第6王子の毒も抜けてないし貴族にも毒病の人多そう。王に接見して後ろ楯を求める?伝奉所内にも協力者欲しいねぇ。闇〜毒抜きの石とか持ってる?」

ナユの言葉に闇は、笑顔でフロアテーブルに何時もの宝飾品の山を作り中から濃い紫の石をはめた指輪などを選び並べる。これもと細い銀の腕輪に灰色の石が、並ぶ物も数本・取り出し闇魔素を吸収するわ。とエルシオンに渡す。


食後の運動だぁ〜とロゼを連れ店舗前に遊びに行く茜。外からロゼを見付け喜び鳴くロシナンテの声が、微かにフロアにも聞こえる。


花桜が、裁縫をしながら読み上げる。

日本語の資料にキルナ語を書き込むエルシオンの横ルセもノートとシャープペンを持ち知っている文字を書き出し・エルシオンが、書いている文字も書き写し…日本語も書いている。

コンビニの商品名を覚えたいと花桜に聞いた最初の日本文字は、好物のシーチキンお握りとプリンだった。

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