茜🌸後編 テナント床屋

フワッと浮遊感を感じた次の瞬間辺りは、コンクリート打ち放しの狭い部屋から何故か芝生の上に立ち・目の前には、大きく改装されたコンビニスズキの看板が見える。


駆け寄って来る花桜と見馴れない家電らしきロボットの群れに透けてるギリシャ風な装いのボンキュボンな美女もミエル。ここはどこ?


「茜ちゃん〜」茜を抱き締めキャキャする花桜をペリッと剥がし再度声をあげた。「ここはどこよ〜」茜の叫びに波音と海風が答える。


コンビニ裏のプレハブ小屋・仏壇の真新しい花桜の両親の位牌に線香を上げる茜。師匠の骨が、入ったペンダントに花桜が、線香を上げ大変だったねとつぶやく。


「うん…師匠死んじゃった。またひとりぼっちになって…」いままで堪えていた悲しみや不安が、溢れ出し嗚咽に代わり言葉が、続かなかった。花桜に抱きしめられ改めて師匠の死を受け止める茜だった。



「おじさんにお線香上げに来たはずが、う〜ん 現実と思えぬ絶景に異世界転移かぁ」泣いてスッキリした茜。コンビニの表に回り遠くから響く海底火山の噴火音と地平線に上がる噴煙を眺める。



湯の文字が、染め付けられた印半纏を羽織った深緑のロボットが、流暢な関西弁で、お疲れでしょうと

お掃除ロボに荷物を運ばせコンビニ隣ランドリー奥の湯屋へと案内された。


お昼を途中で済まして来たと伝えたら花桜が、コンビニからチーズケーキを購入・皿に移し変えどうぞとテーブルに置き・緑のロボットが、カフェサーバーからカフェオレを注いでくれた。


テレビコマーシャルで見かけた期間限定北海道産チーズを使ったチーズケーキは、ホンノリ甘く口の中でほろけた。異世界でコンビニ限定チーズケーキどこから突っ込んで良いのか困ってしまう。


7年振りに会う花桜は、コンビニの店長と言うより小物作家と言った方が、良い位・色とり取りの布小物を積み上げていた。


その横でナユタンが、小物を撮影しては、自身の動画の背景に組み込んで、バランスを見ては、次の作業をしている。


何に驚いていると言えば、〔にゃんにゃん音頭〕で有名なバーチャルアイドルが、少し透け感は、有るものの目の前で動いている。そっと手を伸ばせば、3D画像なので触れられなかったが、ナニかにゃ〜とナユタンが、反応する。まるでそこに居るかの様に イヤここに居て茜の反応を楽しんでいる。


「ナユタンは、有名だから知っているかな?本体は、スーパーコンピューター那由多の分身で他にも色々キャラが、いてスパコンのコスプーレヤーと思ってね」


花桜に同意を求められたナユタンは、くるりんと回って秘書スタイルの那由になり名刺を差し出し御相談事は、何でも承りますと言う。


「簡単に言えば、蛍がコンビニを自分の世界に転移させたくてスーパーコンピューター那由多が、全面協力・私は、雇われ店長と蛍の子守り役。茜ちゃんを転送させるのに力を使ってくたびれたみたい」


花桜が胸元を開くと淡い桜色の光が、すっぽりと谷間に埋まり花桜の呼吸に合わせてゆっくり点滅していた。茜はそっと寂しい自分の胸に手を置いた。


「蛍はこの島の神殿で産まれ異世界を渡れる神力でたまたま来た。コンビニが、好きになり・にゃーに協力を求めて楽しそうだからお助けしてる。コンビニには、店長が、必要で花桜も連れて来た」


何ともバッサリした説明である。色々聞きたい事はあるが、本人達も、詳しくは判ってイナイと言われ茜は、深く追及しない事にした。気持ちを切り替え自分の事を相談する。


「あれだけ家の中を探しても無かった遺言書が、師匠のシザーケースの二重蓋に入ってて…これ土地の登記簿かな」


秘書になった那由に広げて見せる。1号が書類を読み取ると手元に遺言書を広げて見る那由。


「本来・登記簿が、無ければ悪徳不動産は、土地の買い取りを出来ない筈…でも売買は、終わったから出ていけと…違法取引?ん〜臭うわね。調べてくる」ふっと那由が、消え足元で床ロボが、細い指でピースしていた。


今夜使うベッドを選び さっとシャワーで汗を流した後は、冷たい炭酸水を飲みながら休憩スペースの人間をダメにするソファに沈み込み・うとうとしていた。


待機していた床ロボが、茜の側にやって来る。タブレットや書類を抱えた那由が、現れ嬉々として叫ぶ。


「茜さん〜でる出る不正取引・違法建築・裏金に恐喝」那由が書類を見せる。1号が電送されたコピーを、テーブルに広げタブレットを開く。


「師匠さんが、用意した遺言書は、正式な物で即刻・手続きは、終えてますから土地建物の登記は、茜さんになり遠縁の方には、権利の失効を連絡・手間賃で納得頂きました。手間賃・手数料などの代金は、悪徳商事の裏金を使用。一連の地上げ行為と土地転がし名義詐称など多くの不正行為を謀った悪徳商事には、潰れて貰いましたぁ」


那由が、パチンと指を鳴らすと休憩所の壁に埋め込まれた大画面には、ライブニュースが、流れており悪徳商事の裏の取引や成り済まし詐欺などに合った被害者が、集団訴訟を起こし警察の操作が、入ったと報道されていた。


「取り壊された店舗は、お好きな設計で建て直しますので…勿論潤沢な予算は、悪徳商事の裏金を使い周辺の整備も行いますね。半年も有れば、帰れますよ」


那由が眼鏡の縁を押し上げニッコリ笑った。説明を受けた茜の答えは、意外なものだった。


「あたしもここに住みたい。ハサミと腕さえ有れば、どこでも開店出来るし。湯屋の隅を貸してくれない?」


「えっ…だって戻れるのに 資金もあるのに」「うん。でもこっちのほうが、楽しそうじゃん。花桜はどう?無理にとは言わないけど」


「わたしは、良いけど蛍は?」


花桜は、胸元を覗き込み聞けば、桜色の発光体は、ふよふよ茜に近付き額にぴとっと張り付き〈いいよ〜〉と言って床ロボに消えた。


程無くサポートロボ達が、集まり1号から順番に茜に挨拶をして最後にアキンドが、「よろしゅうお願い致します。お部屋は、2階に準備いたしましょう」


最後に那由が、タブレットに表示された雇用&テナント契約書を指し示し デジタルペンを渡された茜は、迷うことなくサインをしてよろしくと笑った。


折角準備したのにと店舗設計図を広げるナユタンに茜は、地域の為に使ってよと言い バーチャルアイドルの収益もあるナユタンは、地上げされた土地を安く買い叩き・茜が何時でも戻れる様に昔の風情を残した長屋型のアパートメントを再開発。


ついでに地区の老朽家屋も家主が、亡くなっても引き継げるよう耐久性と安全性を上げたリノベーションを施し住みやすい町に変える計画を考え始めていた。


後に茜の資産が、増え驚く事になるが、コンビニに居れば衣食住こと足りるとまた那由多に丸投げし資産運用は、AIに任せて安心と花桜と頷き合う。


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