9話・ジノとフリマ練習

朝の身支度を終えコンビニでドリップコーヒーを買い、外の長四角のベンチテーブルに座る。硬い紙のカップから立ち昇る湯気と香り、少し苦いコーヒーの味を楽しむ。


海風が頬を撫でる遠くの方角に水飛沫が、上がり少し遅れて地響きが聞こえる。ここは沈んだ超大陸の山頂・神殿跡。


「おはようございます〜今日も晴天ですね。酔いざましにオニオンスープをどうぞ」花桜が朝食を乗せたトレーを俺の前に置いた。温かいスープ・野菜とハムを挟んだパンに、ヨーグルト・昨晩食べ飲み過ぎた胃には、ちょうど良い量だ。


半分透けてるナユたんが、前に座り「今日は販売の練習です。商売の経験はある?」俺が出来るのは、ダガーを振るう事と農作業だけだ。爺さんの横で修繕などは見ていたが、道具を使った事は無い。幼い頃に好奇心で仕事道具に触れ指先を切り大泣きしてからは、道具を隠されてしまった。


その代わりナイフの使い方と研ぎ・罠の掛け・捕まえた獣の解体に食べられる野草や木の実・毒キノコの見分け方など生きて行く為の術を叩き込まれた。


花桜の世界では、職業の差はあれど、こちら側の様な王族・貴族絶対主義は、無く仕事も自由に選べるらしい。

流民や奴隷は居ないが、戦争や災害などで国を離れた難民が、おり問題になっているらしい。どこの世界も立場が弱い者は、いるのだな。


那由多からの希望は、貴族などの権力者には、絶対関わらない。俺も関わりたくない。


行商はコンビニが、出店出来る場所探しとこちらの世界の情報収集で儲けは、材料の布代が、取れれば行き先などは俺に任せてくれると言われた。


練習しましょうと言う花桜の言葉に

ロボ達がざわつく。 皆それぞれに花桜・手作りの布財布を持ち待っていた。


花桜の指示で先ずは背負い袋より取り外した厚手の敷き布を広げる。俺の座る場所を決め・背負い袋の中より大小様々な袋を取り出し大間かな場所に置く。

向かって左側に虫除け香などの雑貨

前にシュシュの入った袋の口を広げ器にして3つ・後は布袋を広げる。


店前の大画面には、俺の帽子に仕込まれたカメラ視線には、花桜と小銭を差し出す床ロボ達が映り。花桜視線には、痩せた男が、緊張していた。


サンダルを履いている花桜の綺麗な足爪が、大きく映り「客の顔を見ないと〜ほら頭を上げて」戸惑う俺と照れる花桜が、映るとアキンドが、商売商売とちゃかす。


屈みシュシュを選ぶ花桜に銅貨を差し出しクダサイを叫ぶ床ロボ・虫除け香の効果を聞いてくるアキンドに囲まれドキドキしていると花桜が、馴れないとねと笑いシュシュを差し出し値段を聞いてくる銅貨5枚と言えば銀貨を出しお釣下さいと言う。 慌てて腰バッグの財布から銅貨を探す・その後も銅貨が多かったり少くなく渡されたりと変化を加え買い物する皆に翻弄されならが、広げた物は、全て売れた。


敷き布を畳み テーブルで売れた物の合計と硬貨を合わせるが、銅貨1枚が足りない 3回目を数え始めた時に床ロボが、そろりとテーブルに銅貨を1枚置いて店に逃げ込んだ。


「お疲れさま〜流れは掴めたかな。では商品回収してお金はこちらに」

隣のテーブルには、買った物が、ごちゃりと積まれ渡されていた紙のリストと数を合わせる。花桜が意地悪しちゃったと笑うので、布袋の山を見れば、袋は全てが裏返されシュシュを、腕にはめヒラヒラしている。シュシュを回収・全てを元に戻し背負い袋に詰めて休憩になる。


疲れた〜と呟けば、ナユタンがまだまだと意地悪笑う〜慣れたら商品を増やすそうだ。


その後もそれを繰り返し金や商品を盗む者に雨や強風など様々な条件に合わせて品物を出したり仕舞ったりを繰り返す。ナユタンと花桜が、行商人になり隣同士の揉め事も再現して楽しんでいた。


昼飯は焚き火で湯を沸かし固パンと干し肉に粉スープを啜る。


広げた敷き布に寝転び食後の休憩を取っていると帽子を脱いだ髪に蛍が、絡まり少しほわっとする。


まだまだ、まだらにハゲているので花桜が、柔らかい布で作った帽子の下に被るものくれた。


背負い袋に余裕があり追加に少し商品を増やすと相談していると洗濯ロボットの桃が大きな縫いぐるみを進めて来るが、大き過ぎると断るとしょんぼりする。花桜が、湯屋に飾っていいよと言えばいそいそと持って行った。


大きめの布をスカーフや首に巻くストール・物を包むのに便利な風呂敷包みを幾つか教えて貰い私服を一組包んで荷袋の底に詰める。


長い綿布(ガーゼ地)をホコリ避けや汗拭きにどうかと渡される。柔らかいそれを首に巻き使い心地を確かめ淡い色を10枚商品に追加する。


午後からは5つ売ったら店仕舞い。

商品を畳み荷袋に積めコンビニを1周したらまた荷を下ろし店を広げるを繰り返す。


途中夜営の練習も兼ね結界の外で石を拾い竈を作り火を焚き・湯を沸かしベーコンを炙り休憩する。


花桜がまた魔法で火種を落とす俺の手元を見て真似をするが、何も起きず悔しがるが、魔素の無い世界で生まれ育った者には、無理みたいだ。


腹を少し満たしたら また商売の練習を繰り返す。 花桜がいろんな客に扮し対応を教えてくれる。商売に難癖を付け金を払わない・わざと汚し金を返金させ商品も戻さない。


花桜がフリマ?で体験した迷惑客になり「これが1番嫌な客」 と言って屈んで綺麗に並べた商品を見ながら次から次へとかき混ぜぐちゃぐちゃに積み重ね無言で立ち去る。戻って来て握り込んだ手の中のシュシュを見せてくれた。


「これやられると本当にムカックのよね。どこでもやってとうとうフリマ出禁になったけど」「出禁?」「出入り禁止の略・フリマ主宰でチラシ回して入り口で止められてた。何より悔しいのは、盗んだ品をネットで転売された事」余程悔しかったのか今まで見た花桜と真逆の怖い顔をする。「客も色々いるから頑張って」


その後も練習を重ね 時間を計り最初の時間より手際よく出来るようになり

店を出してから終いまで自然と手を動かせる様になってきた。


桃が綺麗なシュシュが気に入ったのか返してくれず花桜が、桃に合わせて作ると布を手渡し選ばせていた。


その後桃は、那由多に裁縫スキルをダウンロードして貰い小物を大量に作り湯屋を飾り付けている。


慌ただしい2日は終わった。

明日からは旅の行商人としての生活が始まる。旅は慣れているが、客商売を考えると不安が、顔に出たらしい。


夕食後に花桜が素朴な顔にしましょと化粧を教えてくれた。眉を太く描き下げる・目尻も下げ頬紅で少し赤ら顔にする。鏡の向こうに人の良さげな男が、笑っていた。

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