8話・ジノと初バーベキュー

昼寝から目覚めると蛍が、奴隷商人の息子にむしり取られ傷んだ頭皮の毛根再生(ナユタン説明あり)をすべくハゲ残っている髪に絡んでいた。



今日の神力を使い切った蛍は、ヨロヨロと幸桜の胸元に潜り込む。胸の鼓動と人肌に安心して甘えてるとナユタンが、教えてくれた。神も甘えるのか。


今夜は早めに外で焼き肉をしましょうと準備する幸桜を手伝い・コンビニ左横にまとめて置いてあるバーベキューコンロや折り畳みのイスを並べる。


ナユタンに指示され低いテーブルを置き海に向かいお畳み椅子・手前に焼き肉用のコンロ。


床ロボが、すみぃ〜と炭と着火材に先ほど鉈で砕いた木片を持って来る。


タブレットに映る動画を見ながら炭と木片を組み着火材料に火種を落とす。


肉や野菜を運んで来た幸桜が、魔法で火を点ける俺に驚きトレーをテーブルに置き もう一度火種が見たいと言うので手のひらを下に火を点ける。


「本物の魔法だぁ〜」


俺の魔法は、火種と手の平に滲む水だけ使い過ぎると目眩を起こす。


この世界には、目に見えない魔素が、あり俺の体内にもある。魔素で魔法と呼ばれる火種を出せる。


体内の魔素量が、多ければ、様々な魔法が使え・貴族や魔導師などと呼ばれる身分持ちになれるが、普通は俺の様に火種を出す位の生活魔法を使えるだけだ。


もし子供に魔法の素質が、みられれば幼い内に親から引き離され権力者に囲われる。などと話している内に炭も赤く燃え初めた。


さて焼きますかと幸桜が、網を置き薄い肉を乗せる。


肉は直ぐに香ばしい匂いをさせ久しぶりの肉の匂いに腹も鳴る。


薄い肉と濃いタレは、初めてだが、焼き上がった肉を皿に受け取りフォークに突き刺しタレを少し付け口に運ぶ。


タレと肉汁の旨味が、口の中に広がる。幸桜に進められ焼き上がった肉をレタスで包み頬張る。レタスのシャキシャキする食感と肉の旨味が、合わさり更に旨い。


1号がどうぞと差し出したガラスのジョッキに入った冷たいビールは、喉を伝い胃の府に冷たさと酒の熱さが、広がり自然と声が出る。


幸桜も旨いぃ〜と声を上げふたりでゲラゲラと笑い合った。


旨い肉が食え・声を上げ笑える俺は、ほんとうに自由になったんだと思ったら自然と涙が出た。


心配する幸桜に煙が、目に入ったとむせて見せた。


俺もトングを貰い各々肉を焼き・冷たいビールを飲む。


放浪中の食事を聞かれ捕まえた蛇の塩スープに野うさぎの丸焼き・小麦が有れば団子にしてスープに入れるか、水で溶き野草と塩を入れ薄く焼くと話せば、蛇は嫌だけど、うさぎは食べて見たいと言われた。


食べ残ったうさぎの骨を砕いて作ったスープも旨いから何時作ってみよう。


薪で料理をするとどうしても煤が付き鍋が、黒くなるけど・肉はどう調理するか幸桜に聞かれ血抜き後に捌いた兎は、水で濡らした大きい葉っぱで包み熱い灰の中で蒸し焼きにし切り分け塩を振りかけ食べる。


たまに生の部分に当たるが、先を尖らした枝に差し焼き直したり・切り分け串に差し遠火で焼く。


灰や煤も薬と言われ食べて来たから今夜の焼き肉は、お貴族様の焼き肉だ。


請負人の時の普段の食事は、屋台で買うか酒場で呑みながら食う。


奴隷になってからは、野菜クズスープが、有れば良かったなど話し痩せた分どんどん食べて元に戻ろうと焼けた肉と野菜を皿に山盛りに盛られた。


白い飯とタレの染み込んだカルビ肉・薄塩味だけど牛骨を使ったスープも旨く。


腹いっぱいになる頃には、用意した肉が無くなりお代わりと1号に言う幸桜を押し留め。温かい焙じ茶を貰う。


流民暮らしを幸桜から聞かれ沈む夕日に染まる手元を眺めながら思い出す俺と爺さんの旅を。


俺は親の顔を知らない。


物心が着く頃には、爺さんとふたり流民達と仕事を探し流れ歩いていた。


爺さんが死んで随分たった後・再会した年上の流民に俺の親の事を聞いてもいつの間にか俺を懐に抱き旅をしていたと言われた。


覚えているのは、爺さんのゴツゴツした手と懐の温かさだ。


流民の俺達は、腹を満たす為に仕事を探し・村から村へと流れ歩く。


春の種蒔き・夏の草刈りに獣の解体・秋の収穫が、終われば手近な町で雪掻きや皮なめしなどの日雇い仕事で冬を越し・また流れ歩く。


領民や街民からは、蔑まれ邪険にされるが、街中の汚い雑事や収穫期の農家には、必要とされ村に居る間は、腹いっぱい飯が食えた。


爺さんは野良仕事の傍ら手持ちの僅かな道具で革装備の修繕や家具・木工品の修理をして金を稼ぎ俺を育ててくれた。


陽が海に沈み辺りに闇が迫る。コンビニの明かりが、店先を照らしている。


焼き網を外し炭を崩せば、細かい火の粉が、夜空に舞う。


赤い炭火を見ていると思い出す。


雪がちらつく頃・冬越えの町を目指し移動中の夜営地。寒さに震え僅かな焚き火を10人程で囲み暖をとる。冷たくなっている俺の手を取り。


「つべたいなぁ〜 じいじが、暖めような」と懐に俺を抱き子守り唄を歌う爺さんの匂いと温もり・燃える焚き火を今でも思い出す。


放浪生活は厳しく食べれる物を探し歩き・日銭を稼ぎ次の町や村に向かう。


麦の収穫時は、麦畑の隅に立てらた。屋根と板壁に囲まれた粗末な小屋で寝泊まり日の出前から星が見える宵闇まで刈り入れに脱穀と働く。


農家から渡される野菜と小麦粉を練った団子のスープだったけど腹いっぱいに食べられ幸せだった。


収穫が終わるとまた次の村へと移動・ 貯めた小銭で冬の服を買い街へ入り雪かきの日雇いや手仕事を続け春を待つ。


春になれば種まきなどの手伝いにまた村を渡り歩く。


何時も爺さんと歩き小さい頃は、股の空いたズボンを履かされていた。


流民を狙う人拐い避けだったのを後で知った。人拐いは高値で売れる娘を狙い襲う。流民は、それを恐れ女・娘も髪を切り男の成りで過ごす。


俺も幾度か見知らぬ男に出会ったが、爺さんに教えらた様に声を上げ股を見せれると男は立ち去った。


それが起きたのは、南の農村での収穫時の手伝いに出向き数日が過ぎた頃だった。


大人達は、畑仕事に忙しく働けない子供達をまとめ年かさの子供に預けて近くで遊ばせていた。


その日も農作業に邪魔な俺達チビは、年長の娘リリカに連れられ焚き付けになる乾いた小枝に松の実を探し集め遊んでいた。


奴らは気配を消しゆっくりと近付き・少し離れた子供が、小さい悲鳴を上げばたつくのを気にせずに汚れた布で口をふさぎ袋に詰める。俺はただ怯え男達を見つめ立ちすくだけだった。


「雌ガキがいた」


男達に囲まれ逃げ回るリリカが叫ぶ。


「ジノじいちゃんを・とうさんを呼んで」


必死に抵抗しながら叫ぶ少女の声に残った子供達は、泣き叫び大人達の方へと走り出す。


子供達の叫び声に農具を持ちこちらへ走り来る流民達に人拐い達は、様々な方向へ逃げ去り。


恐怖に固まった俺は、股割れズボンを引き上げ・ただただ泣くしか出来なかった。


騒ぎの中 俺を見つけた爺さんは、泣き続ける俺を抱き・恐い者はもう居ないと背中を擦り続けてくれた。


親達は自分の子供を探し声を枯らすが、俺より小さいふたりとリリカは、2度と戻る事は無かった。


あの瞳の綺麗なリリカは、どうしているのだろうか。そんな昔話をする内に夜も更け風も冷たくなって来た。


幸桜の撤収〜の声にロボ達が、後片付けを始める。俺もイスを畳み元に戻す手伝いをして飲み過ぎた〜と笑う幸桜とオヤスミを言い合い。


少しふらっく足で湯屋に戻り布団に潜り込む。遠くに聞こえる波の音を聞く内に眠ったらしい。


久しぶりに爺さんの夢を見た。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る