第10話・行商人ジノ

今日から行商人の仕事が始まる。

日の出前に目覚め出立の準備を始めたと言っても荷物は、昨夜の内に背負い袋に全て詰め終わり。日課になった朝いちのコーヒーを啜る。


テーブルに花桜が、朝食を置いてくれた。「朝早いから軽めにデニッシュひとつとカフェオレです。お握り弁当・持って行ってね」一緒に干し肉と乾燥スープ・干し果物と木の実を俺用に詰めてくれた食料袋も渡された。 


頭がふんわり温かい。蛍が最後の仕上げとばかりに生え始めた髪の毛に絡まっている。


持ち金が入った布袋(つり銭と旅費)と水筒を1号が、テーブルに置く。つり銭の銅貨は、重いので小分けにして銀貨2枚分を布袋に分け腰バックに入れ残りは、食料と背負い袋に詰める・旅費が入った布財布は、ベストの隠しポケットに納める。


これもと渡されたのは、革紐の付いた請負人タグ・表に俺の名前と最下位のレベルF・裏には登録先の王都隣の大都市バクアの登録印章が焼き印されている。


街への出入りは、どこも厳しく入行税も高い。だが請負人ギルドタグが、有ればどこでも出入り自由だ。登録料銀貨5枚は、高いが、必要経費だからと言われた。


「ちょいとズルしたけど本物だから安心して」巻髪にメガネ・スーツを着た那由多の足元で床ロボが、ピースしている。馴染みのある木片の手触りと大きさ。タグは木製で青のFランクから緑黄赤色と貢献度が上がり。魔獣討伐や戦で貢献した者や貴族は、金属のプレートになる。奪われた俺の存在が、手元に戻って来た。名前の横の凹みに魔素を流す。


那由他が経典(異世界もの小説)と言う書物では、異世界に召喚された者は、様々なトラブルに巻き込まれる。多くは欲深い貴族や商人に目を付けられ面倒事に巻き込まれ苦労する。


便利で豊かな商品を揃えている異世界の店舗・コンビニを、貴族や商人・王族などとは、無縁に自由にのんびり蛍の成長の為だけに使いたい。花桜の世界とこちらを繋いでいるのも蛍の神力。


まだ力の弱い蛍に合わせてコンビニの出店場所は、主に孤島の神殿跡だが、いずれは登録制にし店を運営させ神力の元になる魔素やゴミを回収させたいと考えている。


以前は焦るあまりこちらの状況が、判らぬまま辺鄙な所に出店させたが、出会うのが山賊・盗賊・獣ばかりで諦め掛けていた時に俺と出会い・俺を通してコンビニを出店する為の下準備をする。


魔法の無い世界から来た花桜は、火・風・雷・水・意外が思い付かないと言われ多種多様な魔法や魔方陣を使う魔導があると教えた。その中で少ないが、転移・転送の使い手がいる事も

雑談中に話していた。


転送があるならと那由多と蛍が、蜂型のWi-Fiスポットロボットを使い練習を繰り返しものを送れるようになったのが昨日。まだ安定するまでは、小さい物のやり取りで調節するそうだ。試しにコーヒーを注文したが、足元に現れ蹴り溢してしまった。


髪再生に疲れた蛍が、花桜の胸元に潜る。転送ポイントになる蜂型の薄い板を受け取り空いている穴に革紐を通してタグと首に下げる。これで毎日・目覚めにコーヒーが飲める。注文は帽子のマイクを通して銅貨3枚が、賃金から差し引かれる。


那由多にどれ位の分身を出せるかと聞いたが、無限にと言われてそれ以上は聞かない事にした。恐るべし異次元の神(那由多)。


巻髪にメガネ・スーツを着た那由多と行商契約の最終確認をする。貴族・王族などの権力者に近付かない。コンビニの存在は、秘密にする。ただし秘密を守れなければ、そこで俺は鉱山に飛ばされ奴隷に戻る。道中危険な時は、強制回収し俺の安全を保証すると言われた。


賃金は1日・銀貨1枚が、支払われ・10日置きに湯屋に戻り帽子などの装備のチェックと商品の仕入れに俺の休みを入れ次の目的地を探す相談をする。湯屋の2階に俺の部屋を作り戻った時は、そちらに泊まる。俺自身も行商人として力を付けると約束した。


花桜が手のひらに乗る動物や人型の簡単な縫いぐるみを入れた袋や見本にとシュシュなどを背負い袋に吊り下げ。

「行ってらっしゃい」と笑ってくれた。


薄明かるくなった空の下・街道脇の林奥に床ロボ達が、草刈りを頑張った予定地にコンビニを移動。


結界を抜けると回りは、背丈程の草と雑木が、続き足場が悪い。行く手を邪魔する蔦や小枝を鉈で切り落とし街道に出る。草むらから突然現れた俺に驚きちらりとこちらを見て視線を戻す旅人の流れに俺も混じり最初の村へと歩き出す。


キルナ大陸 眩しい朝陽の中・今日から行商人ジノの始まりだ。

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