光と黒猫と闇
「ねぇ…その子の魔素奪いたいなら協力するけど」振り返るとそこには、恐怖が居た。
光りの巫女として産まれ何時かは中央に呼ばれ最高位の聖光巫女になり贅沢な生活をしたい。女は心に野心を持ち生きてきた。
しかし現実は、北東の貧しい村ドーズの伝奉所住まい。仕える司祭も欲深い肥えた老人と老いた元・光の巫女に見習い司祭とは、名ばかりの下働きの少年がひとり。
今日も薄汚く貧しい村人を癒し喜捨を貰う。豆と野菜を貰い喜ぶ下働きにうんざりする。その背に背負われている赤子にもうんざりした。
先日門前に捨てられていた赤子は、引き取り手も無く司祭見習いのルセに渡された。預けられた赤子の、名前をどうすべきか、安いワインで酔っていた司祭に問えば、飲んでいたワインの色を名前に付けた。…ロゼ
貧しい生活にうんざりし、何時か上級巫女に成り贅沢が、したいと切望する日々の中。老巫女の死の間際その肉体から離れる光魔素に思わず手を伸ばすと魔素は、ゆらりと指先からエリナの体に入った。
偶然エリナは、他人の魔素を奪うスキルを身に付けた。老婆の魔素を吸収し力が増えたのを確信したエリナは、次の獲物を見つけた。成長と共に光の力を表すロゼ。その聖なる力に気付き奪い取る機会を狙っていた。
その機会は、直ぐ訪れた。「すいませんが、少し見ていてください」老婆が死に子守り手の無くなった。ルセが申し訳なさそうにロゼを連れて来た。
子守りなど真っ平と突き放して来たが、好機が来たと笑顔で、ロゼを預かった。ルセと司祭が、出掛けたのを幸いにロゼの力を奪おうとするが、魔素量の差が、有り過ぎて出来なかった。
あの力が、あれば王都にも行ける。喜捨もクズ野菜などでなく金貨が、貰え昔見た絹の祭礼服が着れる。エリナの欲望は、広がって行く。幾度か機会は、あったがロゼの魔素量は、大きく奪う事が、出来なかった。
それでも何回目かの好機が、訪れた。「では夕暮れまでには、帰りますので」司祭に付いて農地の祝福に向かうルセ。今度こそはと、作り笑顔でロゼを預かる。
さて今度こそはと、ひとり遊びをするロゼに近付き手を伸ばすと後方から声が、聞こえた。「ねぇ…その子の魔素奪いたいなら協力するけど」振り返るとそこには、恐怖が居た。
「その子の聖なる力が…欲しいけど…今のあんたでは、無理ねぇ。あたしが、手伝ってあげる」恐怖はエリナに近付き囁く。「あたしはその子には、触れないけど、あなたは触れられる。力を貸すから、その魔素奪ちゃえ」
花を集め遊んでいるロゼの背後から忍び寄り首筋に触れる。闇がエリナの肩に手を置くと魔素が、流れ込んで来る。手を離すとロゼが、くったりと倒れる。魔素切れを起こしやがて死ぬ。ここで死なれては、疑いが自分に掛かるとまずい・エリナは、咄嗟に闇にロゼを渡した。
抜け殻となったロゼを受け取った闇は、ポイと闇空間にロゼを放り込む。間もなく死ぬ子供。死体は何かに使えばいい。
闇の本当の狙いは、エリナの中にある強欲な野心この女は、この後も自分の欲望のままに他者を踏みにじり生きて行くだろう。好物は大きく育てて絶望へと落としてからご馳走になるタイプなのとほくそ笑む闇は、またねと消えた。
エリナは、直ぐに泥で体を汚しふたりの帰りを待った。帰宅したルセに泥だらけの姿でロゼが、流民に拐われ追いかけたが、見失ったと涙ながらに説明をする。夕暮れの中・ロゼを呼び。飛び出すルセの背に司祭のもう遅い諦めなさい。よくある事だ。…やっと厄介者が、消えたと呟き伝奉所へ戻る。
闇の協力でロゼから光の魔素を奪い取った。エリナは、光の巫女として名を上げ・再び帰り咲きたいと願う司祭と共に中央へと出て行った。
ドーズの村は、冷害と領地を巡る貴族の争いに盗賊被害と言うトリプル災害で、最後の村人が、出ていく時にルセも村を離れた。身寄りが、無くロゼを妹の様に思っていた。ルセは諦め切れずに、拐われたロゼを探す旅へと出て行く。
闇に取り込まれ深淵に落ちたロゼ。
音も無く時も動かない漆黒の中・ロゼの意識は、闇に溶け広がる。外界では10年の時が、過ぎ去ろうとする。
…また誰かが、呼んでいる《だぁれ?…は、ここだよ》どこへいった。泣いてないか。《寂しいよ。ここに来て…ここにいるよ》
優しい手を求め、温かい温もりを求め見えない手を伸ばすが、何も掴めず・また闇に沈み始める。とすっ…無い筈のおでこになにが、突き刺さる。
無い指で触れると桜色の光の玉が、こんにちはと、呼び掛けて来きた。あたちは…蛍…あなたは、だあれ?なぜ泣いているの《あたしは?…ひかり? あたしは…ろ…ぜ》
闇の中にぽっりと光が、灯りロゼの姿が、薄ぼんやりと現れる。エリナに奪われた筈の光の魔素が、戻ってロゼの記憶が蘇る。今度は、ハッキリ聞こえる。ルセの声が…〈ロゼ何処に行った。泣いていないか…お腹を空かせていないか…帰っておいで ロゼ…〉〈ここだよ。寂しいよ…ルセ…抱っこして〉闇の中で手を伸ばすが、ルセには届かない。
ここには、誰も居ない。小さく丸まって泣く事しか出来無い。お腹すいた…
また蛍が、額にぶっかる。今度は少し痛い。いたぁいと言ったらゴメンねと声が聞こえる。〈お腹空いたの?〉
うん…パン食べたい。蛍?また居なくなったの。またルセが、呼んでいる。ロゼは、ここだよ。寂しいよ…
キュル…なんだろう?
帰った蛍が、現れ一緒に丸く平たく黒いものが、ゴハン〜と甘くて美味しいパンを運んで来た。お水もある。
蛍が、また消えて寂しく丸まっていたら手に何かが、触れる。黒い子猫が、ロゼの指先を舐めていた。にゃんにゃんと呼ぶと子猫は、するりとロゼの側に寄り喉を鳴らし甘えてくる。
黒いのが、またごはん〜と甘いパンとミルクを持って来た。子猫にも少しあげた。何度か蛍と平たい黒いものが、現れては、消えてその度にうさぎの縫いぐるみに温かい膝掛けなどを置いていく。
今日は、プリン〜どら焼き〜と何度目かの甘いものとお茶を置いて行った。帰りに隅に置いたとりさんのおまるの中とゴミを集めて…バイバイと消えた。
〈もう〜返して〜暗いよ〜怖いよ〜もう帰るぅう〜〉
誰かが、遠くで叫んでいる。また蛍が、来た…今度のお付きは、ルセ…
ロゼは、ルセの足に飛び付き泣いた。
うれしくて…ただ嬉しくて…。
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