第11話
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その夜、誰も居なくなった八木邸の一室で政宗は完全武装で正座して机に置いてある筆を政宗は右手に持って硯に出した墨に筆先を馴染ませ白い紙に絵を描く。書き出したのは白い龍と白い蛇が雷の鳴り響く雲の中で牙を剥き出して戦う姿であった。そして再び筆先を墨に馴染ませ空いている所に一句を書く。
『龍と蛇の一騎討ちはもう無いと思われた、だがそれは再び嵐の如くあいまみえる事となる』
政宗は一句の下に自分の名を小筆で書き終え筆を置き、立ち上がって脇にあった鎖頭巾を被り羽織を着て腰に白龍刀を挿して一人、三条大橋へと向かう。
一方、新撰組の知らせで京都御苑の周りには京都見廻組、抜刀隊、陸軍の三個連隊が配置され、また京の人々を戦火から避ける為に強制避難が行われ街には人、一人の気配の無い無人となっていた。
時同じく場所は変わって江戸城の旧大奥では松平 容保と洋式の軍服を着こなし黒髪丸坊主のずっしりとした体格をした陸軍省幕臣の西郷 隆盛が椅子に座ってテーブル越しに面と向かって話し合いをしていた。
「一体何故、奴は御苑を襲うででごわすか?」
西郷の疑問に容保は答える。
「恐らく残党軍は今だこの御苑に帝がいると考えているのだろう」
西郷は容保の答えを聞いてため息を吐く。
「はぁーーーっ哀れじゃの。帝は徳川と共に江戸に居のに。幕府を倒し帝を中心とする新しい秩序の元で国外と渡り合える強い日本、それじゃまるで列強じゃけん」
西郷の言葉に容保は頷く。
「ええ、我々は幕英戦争の後に国外から様々な文化を取り入れ学んだ」
「そうじゃの、列強はただ悪戯に他国と関係を悪化させてしまう。だからこそ我々は龍馬ドンの一致団結して国作りを選んだ」
「ええ、その結果、我々は列強に頼らない強い日本を手に入れた」
西郷は目の前に置かれた萩焼を右手に取ってお茶を啜る。
「他国と渡り合える強い日本を手に入れたのに残党軍は何故、それでは満足しない?」
容保も目の前に置かれた萩焼を右手に取る。
「恐らく幕府が今だ実権を握っているのが気に食わないのでしょう」
そう言うと容保はお茶を啜る。
場所は戻って京都御苑、周りを囲む様に篝火が灯り御所に向かう道や門には砂袋が積み重なり、三八式野砲を配置した陸軍歩兵連隊や警官が変わりばんこで見張っていた。そして蛤御門には新選組と京都見廻組が守護に当っていた。
門の付近には近藤と只三郎が左右に床几に座り、その隣に歳三と今井が立っていた。組員達は装備をしているが、ただ一人沖田だけは鉢金はおろか鎖帷子もしていなかった。後ろにいた歳三は沖田に近づく。
「おい総司、いい加減に鉢金くらいしろ。いくらお前が組の中で二番目に強い剣豪だからと言って」
沖田は笑顔になって答える。
「ええ、分かっていますよトシさん。でも僕って足の速いが武器なんで鉢金とか鎖帷子って重いじゃないですか?だからあえてしないんです。僕の武器を殺さない為に」
歳三は沖田の言い分に少し納得した表情をする。
「うんーーーっ確かにお前の気持ちは分からなくもない。でも次からは小型の鉢金くらい絞めておけ、いいな総司」
「分かりましたトシさん」
「おい、任務中は副長と呼べ」
「ああ、すみません副長」
そう言うと沖田は前を向く。歳三はその場を離れて後ろで床几に座っている近藤の左隣に近づき彼に話し掛ける。
「なぁかっちゃん」
近藤は笑顔で歳三の方を向く。歳三の表情は少し困っていた。
「何だトシ?」
「あいつ、総司の事だ」
近藤は疑問に思った表情で前に居る総司の後ろ姿を見る。
「総司がどうした」
「あいつ、いっつも任務の時は鉢金はおろか装備をしないから注意してやったんだ」
近藤は少し興味深い表情をして右手で下顎を触る。
「ほほーーっそれでどうだった?」
「口先ではしてくる様だったけどあいつの表情からはしてこないなってすぐ分かった。だからかっちゃんからも言ってやってくれ。装備をしない総司を見ると心配でしょうがねーんだ」
「んっふふふふふふ、それは仕方ないトシ」
「あぁーーー?何でだよ」
「あいつは見た目によらず意外と頑固な所がある。ほら池田屋後の時だって総司は折れた愛刀を修理してくれって鍛冶屋を困らせたじゃないか」
「ああ、そう言えばそうだったな。あれは本当に困った」
「まっ結局は刃先を変えてもらって何とか収まったな」
「確かに総司の頑固さは死ぬまで治らないな」
「でもそこがあいつのいい所でもある。自分の決めた事は決して曲げないっトシ、お前とそっくりだ」
「本当、総司は何処か俺に似ている」
二人は総司の沖田の後ろ姿を見ながら笑顔になる。
すると前から物過ぎ勢いで陸軍の伝令が走って積み重ねた砂袋を飛び越える。近藤と只三郎は真剣な表情になって立ち上がり伝令は二人の前に立ち止まって敬礼する。
「報告‼︎薩長親英派の軍が蛤御門に向けて進軍しています!」
只三郎が先に兵力を伝令から聞く。
「兵力は?」
「は!およそ一万だそうです」
伝令の情報を聞いた近藤が続けて伝令に敵の位置を聞く。
「奴らは今、何処を進軍している?」
「実は・・・」
伝令が答えよとした時に前に居た新撰組の組員、一人が叫ぶ。
「来たぞーーーーーっ‼︎薩長親英派残党軍だぁーーーーーっ‼︎」
近藤達が前を向き伝令も振り返ると無数の松明を灯して黒い西洋の軍服を着て隊列を組んで縦に尊王攘夷官軍と書かれた旗と錦の御旗を掲げてゆっくり進軍する。
今井は伝令の耳元に近付き小声で命令する。
「君は門を通って他の所に行って伝えろ」
「はい!分かりました」
伝令はすぐさま走って後ろの門に向かう。
歳三は大声で組員全員に命令する。
「全員‼︎小銃を構えろ!砲撃役は照準を調整しつつ砲弾を装填!合図があるまで待機だ!」
歳三の命令を聞いた組員達は迅速に三十年式小銃を手に取り前線に重ねた砂袋の前に片膝をついて残党軍に向けて発砲の構えをする。砲撃役は左右に配置された三八式野砲に一人は装填口を開いて砲弾を装填し一人は照準を調整し最後の一人は発射紐を両手で掴み待機する。
残党軍は新撰組と京都見廻組が見える距離の場所で進軍を止める。そして後ろから馬に乗って中年男性の指揮官が現れる。
「我は薩摩藩士、狭間 掬郎(はざま きくろう)!まかり通ぉーーーーーる!」
只三郎は大声で残党軍に対して警告する。
「薩長親英派に告ぐ!直ちに武装を解き大人しく投降しろ!さすれば手荒な真似はしない!」
「断る!真の官軍である我らが賊軍である貴様らから帝をお守りする!」
掬郎の態度に今度は近藤が大声で反論する。
「何が真の官軍だぁ!英国と手を結びこの日本を支配しようとした貴様らこそ賊軍、いや!国の裏切り者だ!今すぐ投降しろ!」
「全体っ構えーーーーーーーっ‼︎」
掬郎が命令すると残党軍の兵士が一斉に旧式の二十二年式村田連発銃を構える。中には米国のウィンチェスターM1895や英国のリー・メトフォードを持って構える兵士もちらほら居た。
歳三は残党軍の行動に苦笑いをする。
「あいつら、どうやら本気でやり合う気だ」
そう呟くと掬郎は攻撃命令を出す
「撃てぇーーーーーーーーーーーー‼︎」
残党軍の兵士達は一斉に引き金を引き小銃が火を拭く。そして門に向かって飛んで来る銃弾は積み重なった砂袋や門に命中する。それに組員全員は一瞬、驚くが、歳三がすぐさま大声で宥める。
「怯むな‼︎こっちも応戦だ!全体、残党軍を一掃せよ!攻撃開始ーーーーーーっ‼︎」
歳三の合図で組員達はすぐさま小銃を構え直し残党軍に向けて射撃する。そして砲撃役も三八式野砲で砲撃する。
新撰組と京都見廻組からの射撃と砲撃は残党軍に見事、命中し兵士達は反撃を驚きながら次々と倒れていく。かくして第二次禁門の変が始まった。
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