第9話
-9-
政宗達を乗せた列車は夜通し走り続けた。二日目に列車は一時、静岡の浜松に止まって点検と補給し再び京に向けて走り出した。そして三日目の昼時、列車は京都駅に到着する。彩芽達と一部の新撰組の組員達は本屯所の西本願寺に向かう。一方の政宗を含めた近藤達は壬生村に向かう。
道中、水色の羽織を着て壬生村に向かう近藤達の姿に京の人達は驚いていた。
「ありゃ新撰組じゃねえか?」
「本当だ!江戸の新撰組が何で京に居るんだ?」
「嫌な事が無きゃええんやけど」
などと京の人々は新撰組が戻って来た事に悪い事が起こるのではないかと陰で噂される事となった。
壬生村に着いた近藤達は八木邸に入り入り口前で近藤が大声で邸主を呼ぶ。
「すみません!八木 源之丞は居りますか!」
しばらくすると邸の奥から中年の男が小走りで近藤達の前に現れる。
「はいはい、どちらさんでか・・・って、近藤はんじゃありまへんか⁉︎」
近藤達の接客に現れた男は笑顔になり、近藤も笑顔で男に挨拶をする。
「お久しぶりです源之丞さん」
「ほんまですよ、京には何かお仕事で」
「ええ、突然ですみませんが、実はしばらく京に滞在する事になりまして見廻組の屯所では連れて来た全員を泊める事が出来なくってそこで前みたいにまたお世話になっても」
源之丞は近藤の訳を聞き笑顔で答える。
「かいません、むしろ近藤はん達が戻って来た事でもうちらは嬉しんです。どうぞ遠慮なく使って下さい。迎えの前川はんにはうちが伝えておきますから」
近藤は笑顔で頭を下げて笑顔でお礼を言う。
「ありがとうございます」
今度は歳三が組員達に命令を出す。
「よし、お前らは持って来た荷物を夕暮れまでに全部、中に入れろいいな」
組員達は一斉に気合の入った返事をする。
「はい!」
組員達は大急ぎで持って来た荷物を八木邸に入れ始める。そんな最中に政宗は源之丞に話し掛ける。
「源之丞さん、すみませんが頼みがありまして」
「はい、何でも言って下さい」
場所は変わり八木邸と前川邸の目と鼻の先にある光縁寺。政宗は花束を持って近藤、歳三、総司、永倉、斎藤、島田を連れてある二つのお墓の前に立ち政宗がお墓に話し掛ける。二つのお墓は長い間、手入れされず汚れているが、お墓には山南 敬助と藤堂 平助と刻まれていた。
「山南さん、平助さん、お久しぶりです」
政宗を含めて全員が深々と一礼する。そして全員で丁寧に清掃しお花と線香を供えて全員、膝を曲げてしゃがみ目を閉じて手を合わせる。そして政宗は心で話し掛ける。
(すみません。私を含めて近藤さんや父上、沖田さん達は長い間、お二人を助けられなかった事をずっと引きずっていました。どう顔を合わせればいいのか分からなくて本当にすみませんでした)
山南 敬助と藤堂 平助は試衛館時代の近藤達の友人であった。二人は同じ北辰一刀流で近藤の器の大きさに惹かれて試衛館の食客となり、また政宗とも親しい関係であった。
ある日の試衛館で政宗は書物を持って正座して黙読している山南に背後から声を掛ける。
「あのーーっ山南さん、ちょっといいですか?」
山南は振り向き笑顔で問う。
「どうしたんですか?政宗君?」
政宗は開いている書物のページを山南に見せて問う。
「ここの尊王攘夷って何ですか?」
「尊王攘夷とは天皇を国の主人とさせ日本から外国を追い出そうとする考えの事です」
政宗は山南の説明に納得する。
「へぇーーーっそうなんだ、やっぱ山南さんは物知りですね」
政宗の褒め言葉に山南は照れる。
「いやぁーーーっ私は昔から学門に囲まれて育ちましたので」
すると政宗はある事を思い出し山南に問う。
「ねぇ山南さん、最近じゃこの尊王攘夷を掲げて何かと物騒になっていますよね」
山南は腕を組んで話す。
「確かに最近では水戸藩の過激な浪士が井伊 直弼を暗殺する事件がありました。でもこれは言い換えれば時代が大きく変わろうとしている」
政宗は首を傾げる。
「時代が変わる?それってどう言う事ですか?」
「今まで幕府は鎖国をして来たが、黒船の来航でそれが崩れた今、大きな時代の変化の荒波が押し寄せている。近いうちに幕府と日本は大きな選択を狭まれると私は予想するよ」
「そんな事になったら幕府と日本は大丈夫でしょうか?」
山南は前を向き政宗の問いに答える。
「さぁそこまでは私でも分からないね」
二人が会話していると道場の奥から沖田に匹敵する美青年、藤堂 平助が駆け足で現る。
「山南さん、政宗君、此処に居ましたか。早く来て下さい、お二人がなかなか来ないからトシさん、カンカンになってますよ」
藤堂の言葉で政宗はハッとする。
「あ!いっけなーーーい、休憩の後にトシさんと稽古するんだった」
山南は開いていた書物を閉じて立ち上がる。
「では戻りますか、あんまり待たせるとトシさんは怖いですから」
そして政宗は山南、藤堂と共に道場へ向かう。その道中で政宗は藤堂に話し掛ける。
「ねぇ藤堂さん、稽古の後に山南さんと一緒に学門を習いませんか?」
藤堂は笑顔で政宗の誘い頷く。
「いいよ、でも習う時は俺が君の先生だからね」
政宗は藤堂の発言に首を傾げる。
「え?どう言う事ですかそれ?」
政宗の後ろに居た山南が話す。
「実は藤堂君は剣術だけじゃなくて学門も学んでいてね、君よりも長く学門を勉強している」
政宗は山南の話しに驚く。
「ええ⁉︎藤堂さんって学門も習っていたんですか?」
藤堂は右手で後頭部を触り少し照れる。
「前に居た北辰一刀流千葉道場で伊藤先生と言う人から学門を習っていたんだ」
政宗は少しイラッとする。
「ちぇっ藤堂さんって剣の腕が凄く強いからてっきり学門を習わずに剣一本だけだと思ったのに」
藤堂は苦笑いをしながら左手を垂直にして政宗に謝る。
「ごめん、ごめん。隠していたわけじゃないんだ」
道場に着くと歳三が無言で怒りの表情で道場の中央に立っていた。
政宗は恐る恐る歳三に近付いて謝罪する。
「すみませんトシさん、ちょっと山南さんと一緒に学門を習っていましてそれで約束を忘れてしまって」
政宗の理由に歳三は口を開く。
「約束を破る事は俺がもっとも嫌いな事だ、罰として俺がよしと言うまで素振りだ」
歳三からの罰に政宗は悲しくなる。
「えーーーーっ!そんなーーーっ!」
するとそれを政宗の後ろから見ていた山南と藤堂が歳三に近付いて政宗を庇う。
「あのーーーっトシさん、それはあんまりですよ。政宗君は決してわざと約束を忘れたわけではないので」
「そうですよ。俺だって伊藤先生と一緒に学門を学んでいたら集中し過ぎて約束を忘れた事もありましたから」
歳三の後ろで正座していた近藤が立ち上がって歳三に近付く。
「トシ、許してやれ。政宗君だって悪意があって約束を破った訳じゃないから」
三人からの説得で歳三は渋々、政宗を許す。
「分かったよ。ただし政宗、次やったら今度は許さないからないいな?」
政宗は許された事に喜ぶ。
「はい!ありがとうございます」
政宗は過去を思い出しお墓の前で手を合わせる。そして政宗達は立ち上がり、去ろうとする。
すると政宗の背後に山南と藤堂が笑顔で現れ政宗に向かって無言で『元気でよかった』と言う。
誰か居る事を感じた政宗は振り向くが、誰も居らず急に振り向いた政宗に隣に居た永倉が問う。
「どうした政宗君、急に振り向いたりして?」
「いえ、何でもありません。ただ・・・」
「ただ、何だ?」
政宗は笑顔になって答える。
「二人に会えて今まで抱えていた気持ちが無くなってとてもスッキリして」
永倉は左腕を政宗の肩に掛けて笑顔になる。
「俺もだよ。俺だけじゃなくてここに居る皆もだよ」
永倉は政宗にそう答えると一緒になって先へと行った近藤達を駆け足で追う。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます