第8話

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翌日、まだ陽が登っていない早朝の東京駅。この時間は既に列車は運行していないが、容保の命によって新撰組と京都見廻組を京へ向かわせる為に特別の急行列車のSLが止まっていた。

新撰組と京都見廻組の組員達が後部二列に繋がった貨物車に装備と武器などが積み込まれる中で新撰組を示す下をダンダラ模様に白く染め抜いた赤に真ん中に大きく金色で誠の字を染め抜いた隊旗と京都見廻組を示す白旗の下に黒く平行して染め抜いた二本の線と真ん中に大きく銀色で義の字を染め抜いた隊旗が丁寧に積み込まれる。

政宗達は組の羽織を着て前方の三列に繋がった客車に乗り込む。政宗は一番前の列車に乗り三列目の左席、窓際に白龍刀を抜いて左側に置いて座る。自分達以外、誰も居ない駅を眺めて心の中で呟く。

(あの頃はよく覚えている。近藤さん達が江戸を発ったあの日、近藤さん達は十五日掛けて京に着いた。でも今では三日有れば京に着く、まったく時代の流れは恐ろしいな)

政宗が目を閉じてニヤリと笑う。隣の席では近藤、歳三、只三郎、信郎が向かい合って座りお互いに笑い合っていた。

「いやーーーっ本当にあの頃の苦労が嘘のようですよ」

近藤が笑顔で歩いて京に向かった時代と今の変わりぶりを言う。

「本当だよ近藤君、私も京と江戸を行ったり来たりしたけど、お互いにかなり苦労したな」

只三郎も近藤の思いに同感し笑う。それを見ていた政宗は笑顔になる。その光景を妨げるように彩芽が政宗の前に立ち、政宗は不機嫌になる。

「何だよ彩芽」

政宗の問いに彩芽が答える。

「別に。お前の前に座っていいか」

政宗はそっぽを向いて答える。

「どうぞご勝手に」

彩芽は左右の腰に提げている愛刀を抜いて先に席に置いて静かに着ていた組の羽織の後ろをバサりとして窓際に座る。

政宗と彩芽はお互いに外の風景を観て一言も発さず黙っていたが、彩芽が政宗に話し掛ける。

「ねぇ政宗、あんた達って西本願寺を間借りするんでしょ」

「ああ、でもそれでも足りないな。だから最初に京都の屯所にしていた八木邸と前川邸を使う事になった」

「へぇーーーっ意外ね。正直、別の所を仮屯所にすると思った」

「色々、あってね。色々とね」

政宗がそう言うとSLが汽笛を鳴らして列車が動き出す。すると歳三が立ち上がって一番前の入り口に向かい見送る組員達に大声で命令する。

「お前ら、俺達が留守の間、試衛館を頼むぞ!」

見送る組員達が大声で返事する。

「はい、副長!お気を付けて!」

気合の入った組員達の姿に歳三は自然と笑顔になって手を振る。試衛館に残る組員達も列車が見えなくなるまで笑顔で手を振り続けた。

SLは夜の路線を猛スピードで走り抜け政宗は窓から景色を眺めながら自分の過去を振り返っていた。

(こんな形でまた京に行くなんて、運命って改めて分からないもんだな)

政宗は過去を振り返って行く内に悲しい過去を思い出す。

時は幕末の京都、近藤達の後を追う様にして新撰組に入った十六歳の政宗は歳三にべったりと付き添っていた。

ある日、八木邸の廊下で歳三は何処までも付いて来る政宗にイラ立ち一喝する。

「いい加減にしろ!いくらお前が俺の息子でも俺は絶っっっ対に認めないからな!」

歳三の態度に政宗は笑顔で返す。

「そんな事言っても無駄ですよ、俺はいつか父上の事を認めさせます。俺が息子である事を」

政宗の姿に歳三は呆れてしまう。

「はぁーーーーっ好きにしろ。後、どんな時でも俺の事は父上ではなく副長かトシと呼べ、いいな?」

政宗は笑顔で返事をする。

「はい!父上」

指摘を聞かない政宗の姿に歳三はムカッとし拳を見せる。

「だ・か・ら‼︎父上って呼・ぶ・なーーーーっ‼︎」

幕末の事は歳三は政宗を息子と認めず突き離していたが、政宗は諦めずあらゆる事に積極的に取り組んだ。

池田屋事件の際の捜索の分担の際に政宗は自ら近藤隊に参加した。

祇園祭の最中、近藤達はある店で作戦会議をしていた。爽やかな顔立ちをした総長の山南は地図を使って皆に説明をしていた。

「古高の話では鴨川に面した旅館や料亭で会合するそうですが、残念ながら店の名前までは聞きませんでした」

今度は歳三は捜索の手筈を皆に話す。

「そこで鴨川を境に西と東に分かれて一軒ずつ捜索する。近藤さんは西を東は俺が受け持つ」

近藤は歳三の案に納得して頷く。

「分かった、その代わり連れて行く組員は俺に選ばせてくれ」

近藤の願いに歳三は頷く。

「分かった。好きに選んでくれ」

近藤は周りを見て組員を指名する。

「まず沖田、それと永倉、藤堂、武田、最後に万太郎、君達は私と来てくれ」

すると政宗が手を挙げて主張する。

「すみません局長、俺を局長の隊に入れて下さい」

歳三は政宗に問う。

「何故、局長の隊に入りたい政宗?」

政宗は強い姿勢で答える。

「敵が何人居るか分からない状態で数の少ない局長の隊は危険です。一人でも多く居た方がマシでしょ?」

歳三は政宗の案を拒絶する。

「いいや、お前が入らなくても大丈夫だ。お前は俺の隊に入れ」

すると二人の会話を聞いていた山南が割って入る。

「いえ、政宗君の言っている事にも一理あります。敵の人数が分からない状態では数の少ない近藤さんの隊は危険です。近藤さん、政宗君をあんなの隊に入れて下さい」

山南の説得に納得した近藤は頷く。

「よし、分かった。政宗、君は私の隊に入りなさい」

政宗は喜ぶ。

「はい!分かりました」

歳三は政宗の案が通った事に舌打ちする。

「チッまあいい、じゃ残りは俺に付いて来い。それと山南さんはここに残って増援の隊を指揮してくれ」

歳三の命に山南は頷く。

「分かりました」

そして近藤は立ち上がり大声で一喝する。

「では皆!気を引き締めて、この京を不逞な輩から守るぞ!いいな!」

全員が大声で返事をする。

「おぉーーーーーーーーっ!」

そして政宗は池田屋事件でやめざまし活躍をした。

政宗は歳三を認めさせようと奮闘していた幕末を思い出していた。

(あの時は父親を認めようと必死だった。でも認めた後、どうしようかと迷った。けれど努力している内に山南さんに平助さん、それに源さんの死を目の当たりにしてから俺は決意した)

政宗は左目から涙を一滴流し、着ている羽織で拭う。

(愛する家族や国、そして人々を守る真の武士になると固く決意した。だからこそ俺が新撰組にいる理由でもある)

政宗は景色を眺めるのをやめて前を向き列車の揺れが眠気を誘い朝まで眠りに着く。

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