第5話
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彦斎の捜索は夜通し続いたが、彼の足取りを掴む事は出来なかった。彦斎の襲撃は北町警察署の一部を屯所にしている京都見廻組にも知られ、翌日の早朝に試衛館の大広間で両者の局長と副長が緊急の会議をしていた。
右側に近藤と歳三、左側には只三郎と信郎が胡座で座り向かい黙っていた。そして只三郎がため息をついて近藤に話す。
「勇君、なぜ我々に応援を寄越さなかった」
近藤は只三郎に向かって深々と頭を下げて訳を話す。
「申し訳ありません、只三郎様。あの時は彦斎を捕らえる事が最優先と判断しあえて応援を出さなかったのです」
「勇君、もしかして手柄が欲しくてあえて我々を呼ばなかったんじゃないのかね」
只三郎の指摘に近藤の右隣り居る歳三が強く反論する。
「それは違います。呼ぶ暇が無かったのです。もし応援を呼ぶ事に時間を割いてしまえば奴を逃してしまうと局長が判断したからです」
会話を只三郎の左隣で聞いていた信郎が三人の会話に入る。
「佐々木さん、近藤さんの判断は正しいですよ。土方君、別に我々は君達が何故、呼ばなかったのかそんな事はどうでもいいのだ。もし我々も君達と同じ立場だったらそうしているかもしれない。だから近藤さん、頭を上げて下さい」
「はい」
近藤が返事をするとゆっくりと頭を上げる。そして信郎は只三郎に向かって今後を持ちかける。
「佐々木さん、今は新撰組の行動を追及している場合ではありません。今専念すべきは彦斎の事です」
只三郎は信郎の指摘に納得する。
「そうだな。すまない勇くん」
只三郎は近藤に軽く頭を下げて謝罪する。近藤は只三郎の姿に少し困惑する。
「いいえ、いいんですよ只三郎様。わざわざ頭を下げなくてもそのお言葉で十分ですよ」
近藤は笑顔で只三郎に言うと只三郎も顔を上げると笑顔になっていた。そして近藤は歳三の方を向く。
「ありがとうトシ、俺の弁護してくれて」
近藤の感謝の言葉に歳三は少し照れ臭くなる。
「いいだよかっちゃん、俺らは友達だろ」
「そうだな」
近藤はそう言うと前を向き真剣な表情をする。
「では今後について始めましょう」
一方、政宗は待機服に着替えて道場の中央で一人で何時間も木刀を持って素振りをしていた。
(くそ、俺とした事が。あの時、彦斎が生きていた事が信じられず奴を追う事が出来なかった。自分が情けない)
素振りをしながら心で語っていると政宗と同じ格好をした彩芽が道場に入り腕を組んで政宗の背後の壁にもたれて笑顔で声を掛ける。
「ねぇ政宗、あんた彦斎を取り逃がしたそうね」
政宗は素振りを続けながら話す。
「それがどうした」
「情けないと思ってね。私だっら迷わず奴を追っていたわ」
政宗は素振りをやめて木刀を下ろして彩芽の方を振り向く。
「あん時は彦斎が生きていた事が信じらなくて動けなかったんだ。いくらお前でも俺と同じだったと思うぞ」
「んふふふっご心配なく。あんたと違って私はそんなヘマはしないから」
政宗はそうかと言う表情で軽く頷き、そしてある事を彩芽に問う。
「で、お前がそんな格好しているって事は俺と一本勝負したいって事だな」
「ええ、いいかしら」
政宗は前を向き小走りで奥に向かい壁に掛かっている打刀と小太刀の木刀を両手に取り再び彩芽の方に振り向き戻り、丁度良い距離から彩芽に木刀を軽く投げる。飛んで来る木刀を彩芽は両手で上手く取り、そして柄の所を持って180度回して刃先を前して中央に向かう。
政宗は木刀を構えて中央で膝だけ曲げて座り彩芽も構えたまま膝だけ曲げて座りお互いに軽く一礼し一緒に立ち上がる。政宗は鋭い目付きで木刀をしっかりと握り、彩芽は殺気に満ちた目付きで両足を縦に開いて左手の小太刀を下、右手の打刀を上にして構えて木刀をしっかりと握る。そしてそのままお互いに微動にせず何十秒か経った時に政宗の汗が床に滴り落ちた時が合図の様に政宗と彩芽は物凄い勢いで間合いを詰めて斬り掛かる。
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