第5話
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戦闘が始まってから既に日付が変わり東の空が徐々に明るくなって来た頃には戦闘はようやく終わりを迎えた。
戦闘後の吉原には静けさと大通りや他の店には多くの不逞浪士ややられた組員の屍が転がり、また至るとろに血が飛び散っていた。
新撰組と京都見廻組の組員達は長時間に及ぶ激しい戦闘で既に体力の限界で政宗ですら、息切れをしながらその場で片膝を地面に着いて白龍刀を杖代わりで地面に刺して体を支えていた。
そして額と頭に付けていた鉢金付きの鎖頭巾を脱ぎ、着ていた水色のダンダラ羽織で流れ出る汗を右腕で拭いだ。
組員達の着ている羽織には不逞浪士を斬った際に飛び散った血がついており新撰組の羽織には水色の所に着いた血が黒くなっており、一方の見廻組の羽織は白い為に着いた血が赤黒く目立っている。
歳三が右横から政宗にそっと近づき、落ち着いた口調で話し掛ける。
「政宗、大丈夫か」
政宗は息切れをしながらも歳三の方を向き答える。
「はい、大丈夫です。でも体がもう立てません」
歳三は少し安堵し、左手で政宗の右腕を掴み立ち上がらせる。そして少し不機嫌な表情をする。
「しかし、いったい何処から情報が漏れたんだ」
政宗は脱いで片手で持っている鎖頭巾を白龍刀の柄に掛ける。
「内部に不逞浪士と内通していた奴がいる、もしくは俺達が来る事を予んで他の店に潜伏させて置いたのかも知れません」
「確かに敵地のど真ん中で密会すると考えれば近い内に嗅ぎ付けられる事は予測出来るなら」
政宗は鉢金付きの鎖頭巾を被り顎の下で縄を結び、地面に刺した白龍刀を右手で抜く。その直後に後ろから近藤が静かに二人に近づき話し掛ける。
「トシ、政宗、そろそろ応援の警察隊が来る。我々はここを離れよう」
トシはうなずく。
「そうだな。で、戦果は」
近藤は腕を組み戦果を言う。
「今、島田に調べているからもうそろそろだろう」
一方、島田は大通りに並べられた死体と捕縛した不逞浪士の数を数えていた。
「これでよしだな、おや?」
捕縛した不逞浪士の中に金髪の外国人男性が居る事に気付いた島田が近付き問い掛ける。
「お前、何処の国の者だ?」
男性は視線を外して島田の問いに黙り込む。
そこで島田は振り向き後ろで死体の数を数えている二人の組員を呼ぶ。
「おーーーーい、そこの二人」
二人の組員は作業をやめて島田の元に小走りで向かう。
「はい、何でしょうか島田組長?」
島田は目の前の外国人を親指で指して指示する。
「こいつを隅々まで調べてくれ」
島田の指示に組員二人は頷く。
「はい、分かりました」
二人の組員は外国人を隅々まで調べる。その間に外国人は何も抵抗しなかった。
組員の一人が懐から丁寧に畳折られた二枚の紙を発見し、島田を呼ぶ。
「島田組長!こんなのが出てきました!」
島田は駆け寄り組員から紙を受け取り開き中身を見て驚く。
「お前達、もういい。そいつはいいから俺はこれを局長達に報告して来る」
そう言うと島田は吉原の入り口方面へ走って向かう。そして十字路で政宗と居る近藤と歳三に声を掛けながら近付く。
「局長ーーーーーーっ!副長――――――ーーーーーっ!」
島田の声に政宗達は天下蝶の方を向く。
近藤は腕を組んで島田に戦果報告を問う。
「島田、戦果は?」
島田は息を整えて報告する。
「はい、調べだとこちらは双方の組員を合わせて九人が戦闘で死亡、十二人が負傷したが大した傷ではありません。一方の不逞浪士は三百人中、百七十九人が死亡、残りは深傷を負った者が居るが、全員を捕縛しました」
近藤は島田の戦果を聞いて笑顔になる。
「そっか。でもまあ、こっちの被害は軽微で多くの不逞浪士を捕縛出来なら大勝利だな」
「はい、それと不逞浪士の中に外国人が居てそいつを隅々まで調べたらこんな物が出てきまして」
島田は二枚の紙を近藤に出すと、それを歳三が取り上げて開く。
その中に政宗、近藤、歳三が驚く。
「これって・・・フランス大使館の見取り図‼︎」
政宗は島田を聞く。
「その外人は何が言っていませんでしたか?」
島田は首を横に振る。
「何にも、黙ったままだ。でも明日には警察と話し合ってその男をうちで取り調べるつもりだ。構いませんよね局長?」
島田の問いに近藤と歳三は頷く。
「ああ、勿論だ。奴が何を知っているのかが知りたい」
歳三は笑顔になる。
「よし、お前も明日、手伝え。どんな手を使ってでも吐かせるぞ」
島田は頷く。
「はい、副長」
近藤達話していると永倉が後ろから近藤に駆け寄る。
「局長、全員揃いました。それと応援の警官隊も到着しました」
近藤は永倉の報告に頷く。
「分かった、それじゃ吉原を離れるとするか。いつまで居たらトシが女遊びに行ってしまう」
笑顔で歳三を見ながら言う近藤に歳三は不機嫌な表情で反論する。
「行かねえよ。てか、まるで俺が仕事関係無しに女遊びしているみてじゃねえか」
政宗が笑顔になって話す。
「だって父上、何回か仕事を抜け出して吉原に来てたじゃないですか。言い訳しても無駄ですよ」
歳三はそっぽ向き困った表情と口調で話す。
「いや・・・その時はたまたま、休憩時間だったから・・・ちょっと・・だけだよ」
政宗を含めて近藤と永倉が笑う。その光景に歳三は慌てながら話しを終わらせようとする。
「ああ、それよりかっちゃん、こんな話しやめてさっさと行こうぜ」
近藤は笑顔で返事する。
「ああ、そうだな。行くとするか」
近藤が永倉の来た方へ歩き始めるとその後ろを歳三、永倉、政宗が後に続く。
政宗は戻る最中であの時と同じ心臓の鼓動が速くなり再び不可解な気持ちが突然、訪れた。
(まただ、この何とも言えない不満足と言うかうずうず感は。本当に何なんだ?)
政宗は心の中で自問自答していると永倉が背後の不穏な動きを感じ振り向き政宗に問う。
「政宗、もしかしてお前が寺で言っていた事が起きているのか?」
政宗は永倉の問いに静かに頷く。
「はい、そう何です」
「なぁ寺での事を局長達に話すか?」
政宗はヒョコッと顔を覗かせ歳三の背中を見て首を横に振る。
「いいえ、父上達の事を心配掛けるたくないので」
「そっか、分かった」
永倉はそう言うと前を向き政宗もビシッとして皆と共に試衛館へと向かう
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