第4話

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翌日、新選組と京都見廻組はお互いに別々の地域を巡回する事となった。政宗率いる十一番隊はお茶ノ水を巡回していた。

江戸一番の言われる青物市場でバナナやパイナップル、アスパラガス、ジャガイモなどが売られている。

巡回を終えて今度は江戸城の外濠付近を巡回していた。政宗を先頭に他の組員達は二列になって後に続く。道中、政宗の足元に手毬が当たり、政宗は屈んで手毬を手に取ったと同時に左からまだ5歳くらいの女の子が政宗に駆け寄って来たので政宗は女の子の方を向く。

「君の手毬かい?」

政宗は女の子に手毬を差し出すと女の子は顔を縦に振ったので政宗は笑顔で女の子に手毬を手渡しする。

「はい、気をつけてお帰り」

「うん。お兄ちゃん、ありがとう」

政宗は女の子の頭を軽く撫でる。そして女の子は笑顔で政宗の元を去る。それを見ていた組員の一人が政宗が立ち上がったと同時に話し掛ける。

「政宗組長も変わりましたね。あの動乱の時代、組長の容赦なく倒幕派や不逞浪士を斬る姿から幕府の鬼、なんて京で恐れらてましたよね」

政宗は少し困った表情をする。

「俺だって元々は優しい人格なんだよ。まぁあの頃は父上、副長に俺が息子だと認めたくて必死になってたんだ。そりゃ昔の事を知っている人から見れば不思議に思われても仕方ないな」

「そうだなんですか、すみません俺、政宗組長を誤解していました」

政宗は笑顔になる。

「大丈夫だよ、別に俺は気にして無いよ」

ホッとする組員、すると思い出した様に屯所での事を話す。

「あぁそう言えば政宗組長、俺ら外に居たんですけど屯所の大広間で双方の局長と副長が大声で揉めているの聞いてまして」

政宗は歩きながら組員の話しに頷く。

「ああ、あれな。俺も聞いていたよ」

「一体何があったんですか?」

政宗は歩きながら腕を組んで組員の問いに答える

「俺も気になって終わった後に大広間から出て来た副長に聞いたよ」

時は戻ってお昼時の新撰組屯所の大広間。

近藤、歳三、只三郎、今井が胡座になって向かい合い江戸の地図を挟んで揉めていた。

「困るなぁ今井さん、勝手に江戸の巡回を割り当てられちゃ」

歳三の苦情に今井は嫌味を言う。

「それは悪かった。でもいつまで経っても我々が何処を担当していいか伝えない君達も悪いぞ」

歳三はイラッとするが、我慢して笑顔になる。

「それは申し訳なかった。では改めて京都見廻組の担当して貰う場所を言います」

今井も笑顔になって堂々と腕を組む。

「ああ、頼むよ」

歳三は折り畳んだ扇子を使って説明をする。

「えーーーっまず江戸城から中央区までは我々、新撰組が南部の港地区を京都見廻組にお願いします」

歳三の巡回の割り当てに今井が異議を唱える。

「ちょっと待ってくれ土方君、その割り当てでは我々、京都見廻組を蔑ろにしているぞ」

歳三は納得した表情で今井に問う。

「一体何処にご不満があるんですか今井さん?」

今井は不機嫌な表情で地図を使って指摘する。

「何故我々、京都見廻組は巡回する範囲が小さいんだ。これは明らかに我々を馬鹿にしているではないか!」

歳三は嘲笑う様に今井に説明する。

「これはですね、京都見廻組はあまり江戸にお詳しくない事を配慮しての事です。別に皆様を馬鹿になどしてませんよ」

歳三の態度に今井は立ち上がり激怒する。

「この農民風情が!幕府直轄の者に慣れてつけ上がりおって!」

歳三も立ち上がって激怒する。

「んだと!幕末の頃、俺達の事を散々馬鹿にしやがったくせに!」

近藤も立ち上がって歳三を止める。

「トシ!落ち着け!今井さん友の無礼を私に変わってお詫びします」

近藤は頭を下げてお詫びする。

そして只三郎が立ち上がり近藤に近づく。

「近藤君、君が頭を下げる必要は無いよ。ただ・・・」

一変して只三郎は冷徹な眼差しをする。

「君達はしょせんは農民、我々武士に従うのは通りだ。君達は我々見廻組に従っておれば良い、分かったな?」

只三郎の言葉に近藤は怒りを露わに頭を上げて只三郎に怒りをぶつける。

「ふざけるな!我々は貴方達の部下になった覚えは無い!武士だろうが農民だろうが関係ない、身分に固執する貴方は愚かに見えます!」

近藤の罵倒の言葉に只三郎は激怒する。

「何ーーーーーーっ!私が愚かだと?農民風情が!黙って武士である我々に従え近藤ーーーーーーっ‼︎」

「断わる‼︎貴方達に従うくらいなら死んだ方がマシだ!」

時は戻って政宗は歳三から聞いた大広間での揉め事を全て話す。

「それからはもう誰も止めれない程に大口論になったそうだ」

大広間での揉め事を聞いた組員は嫌な表情をる。

「そんな事が⁉︎でも何で新撰組と京都見廻組ってそんなに仲が悪いんですか?」

政宗は一時立ち止まって組員に問う。

「お前ってうちと見廻組の仲の悪さって知らないっけ?」

政宗の問いに組員は困った表情で答える。

「ええ、あんまり見廻組の組員と関わっていないので」

政宗は納得して説明する。

「そっか。実は京都見廻組とは池田屋事件と禁門の変のまでは仲が良かったんだ。でもその後、管轄の割り当ての問題や身分の違いなどで衝突する事になって、それが原因で今でもお互いに犬猿の仲なんだ」

政宗の説明に組員は関心を持つ。

「へぇーーーーっ俺が知らない間にそんな事になっていたんだ」

「ああ、でもうっすらと覚えているけど見廻組の中にもいい奴も居たのは確かだ。だからそれだけは忘れないでおけ」

政宗の願いに組員は頷く。

「はい、政宗組長」

政宗が組員に話しをしていると目の前から一人の黒髪で男性の様な髪型をした女性が駆け寄って来る。

「あのー、政宗さんですよね?」

政宗は立ち上がりながら女性に何者のなのか尋ねる。

「ああ、そうだが。君は?」

政宗に話し掛けた女性は笑顔で自己紹介する。

「私、見廻組四番隊組長を務めています浅河 華苗と申します。幕末の頃、西本願寺でお会いになっているはずでが」

政宗は一瞬、考え込む。

「浅河・・・あぁ、あの柳生新陰流の、覚えいるよ。で俺に何の用かな?」

「緊急の集合がありましてすぐに試衛館の裏の大庭に集合せよと。私は伝令で各地方を巡回している組員に会って伝えろと」

浅河の答えに政宗は納得した表情をする。

「なるほど、分かった。わざわざありがとうな」

「いいえ、ちょうど私非番だったんで。では私は他の組員にも知らせに行くのでそれでは」

浅河は軽く政宗達に手を振って政宗達が来た道を小走りで去って行く。

それを見送った政宗にさっきの組員が問う。

「政宗組長、もしかしてさっきの女が?」

政宗は笑顔で答える。

「ああ、あの女が俺の言っていた見廻組の居るいい女さ」

組員は小走りで去る浅河の背中を見て関心する。

「へぇーーーーっあの人が」

すると政宗は真剣な表情となって他の組員達に大声で命令する。

「よし、全員急いで試衛館に戻るぞ」

「おーーーーっ!」

組員全員が大声で返事をして政宗を先頭に駆け足で元来た道を二列になって戻る。場面は変わり試衛館前の大通り。政宗達は人混みを掻き分けながら試衛館へ到着し、みな館の裏の大庭に向かう。そこには他の組員や見廻組の組員、全員が集まりガヤガヤしていた。政宗達は大勢の後ろに回る。そして政宗は一人、人混みを掻き分け前に向かう。前にはと総司、永倉、斎藤、島田そして彩芽と伝令をしていた華苗がおり、政宗は斎藤と島田の間に入り何が起きたのか左側にいる島田に聞く。

「島田さん、何があったんですか?」

「いや、俺にも分かんねな。でも全員を集めたって事は相当重要な事なんだろうな」

政宗は右側の斎藤に聞く。

「あの斎藤さん、いったい何が?」

斎藤は真面目な表情で政宗の質問に答える。

「俺に聞いても無駄だ何も知らん。それに他の奴に聞いても答えは同じだ」

政宗は斎藤は答えを聞いて苦笑いする。

「ですよね」

そうしていると右から近藤と歳三、只三郎、今井が歩きながら現れそれを見た組員全員が一斉に真剣な表情をする。近藤らが組員全員の前に立ち止まって話を始める。

「みな集まったな?」

近藤の言葉に組員全員が返事をする。

「はい」

「では全員を集めた説明する。ついさっき吉原から来たと言う女性が我々に攘夷倒幕派の一団が夜に密会をすると言う情報を伝えた。そこで真相を確かめる為に監察方を吉原に派遣したら話は本当で首謀者は鳥取脱藩士の新野 苑歳、奴は根っからの過激な攘夷倒幕派だ」

近藤の説明に右側に居た歳三が割って入り話をする。

「しかも奴の元には同じ考えを持つ不逞浪士集まり、その数はおよそ三百だとか」

歳三の発した数字の大きさに組員全員がざわつき出すが、歳三は大声で喝を入れる。

「うろたえるな。例え四百だろうが五百だろうが数が大きければいいてもんじゃない。大事なのは己の剣の腕だ」

歳三の言葉に組員全員が落ち着きを取り戻し今度は近藤の側に立っていた只三郎が今後の説明をする。

「よって今後は全員、試衛館に待機し夕暮れになったら吉原へ向け出動する。細かい分担は今井が説明する。じゃあ今井、頼む」

只三郎は顔を左に向け左側にいた黒髪で若者だが少し顎に黒髭を生やし西洋の髪型をした今井が分担を書き留めた紙を開いて説明を始める。

「はい局長。では吉原の天下蝶への突入は新選組からは一番隊、三番隊、十一番隊がそして見廻組からは三番隊と四番隊が担当。後方支援は新選組は二番隊と六番隊、見廻組からは私と局長が指揮する一番隊と二番隊が担当します」

今井が説明していると土方が意を唱える。

「ちょっと待ってくれ今井さん」

「何ですか土方さん」

「突入の班に俺と近藤を入れてくれ。後、五組も突入に参加するから後方支援の組は大通りの警備に回した方がいい。三百となると他の店に潜んでいる可能性がある」

「分かりました。では近藤局長と土方副長はそれぞれ二番隊と六番隊に加わって下さい」

近藤と歳三はうなずき近藤は再び前を向く。

「では全員、夕暮れまで刀と装備を手入れしておくようにでは一時、解散」

近藤の解散の号令と共に集まった組員が解散する。すると彩芽がニヤニヤしながら政宗に近づき彼の前に立つ。

「ようやく私達、見廻組の実力を江戸に広める機会が来たわね。あんたと一緒に突入を担当するのは気に食わないけど私の足でまといにはならないでね」

彩芽が政宗に嫌味を言うが、政宗は真剣な表情で話す。

「喜ぶのはいいが、そんな事を言う暇があるなら自分の刀と装備の手入れしておけ」

政宗の言葉に彩芽は一瞬にして不機嫌な表情をする。

「あっそう、あんたに言われなくてもすぐやるわよ。じゃあまた後で」

彩芽は政宗の前から去る。それを見ていた総司達が政宗に近づく。そして総司が政宗に話し掛ける。

「よく堪えたね。いつもだったら殺伐とするのに」

政宗は当たり前だとような表情で総司に答える。

「重要な時に争っている暇はないでしょう」

総司は納得した表情で軽くうなづく。

「それもそうだな」

その後、政宗は真面目な表情で今後の事を総司達に話し出す。

「それじゃ皆さん、急いで寮に戻りましょう。出動まで刀と装備を手入れしておかないと」

政宗がそう言うと総司達はうなづき足並みを揃えて寮へ向かう。

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