第2章「吉原大乱戦」第1話

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時間が経ち夕暮れ時、寮や道場では新選組と見廻組の組員達は任務に備えて自分の刀や装備を手入れしたり、または握り飯を食べて胃袋を満たして気力を付けていた。

そして日が沈みかけた時間に大庭には松明が灯り新撰組と見廻組の組員は鎖帷子と鎖籠手を付けてその上から着込半襦袢と羽織を着て、腰に刀を提げ頭には鉢金または鉢金付きの鎖頭巾を被り太腿に紺の江戸脚絆を着け藁草履を履いて駆け足で大庭に再び集合する。

そして近藤らも装備して組員の前に立ち大声で話す。

「ではこれより吉原に向かう。全員、気を抜くなよ、いいな!」

近藤の言葉に組員全員が大声で返事をする。

「おーーーーーーーっ‼︎」

組員全員が大声で返事をする。そして近藤らを先頭に新選組と見廻組の組員が二列ずつになって駆け足で吉原へ向かう。

場所は変わり江戸から離れた場所にある吉原遊郭、そこは女の美しき監獄であり男の欲望が蠢く場所である。

まるで宝石の様に灯が灯され、大通りに面する多くの遊郭や人々が賑わっているとそこに新選組と見廻組の一団が到着し一団は吉原最大の遊郭、天下蝶へと向かう。

天下蝶の前に着くと打ち合わせ通りに総司、斎藤、政宗、勇、歳三、彩芽、華苗が先に板戸を開けて中へ入る。

中はとても豪勢な作りで大きな広間に真ん中に大きな階段があり両側には金色で描かれた蝶と白色をした襖がありあちこちか中で遊女と客が様々な遊びで賑やかなっている最中で近藤が大声で呼び掛ける。

「主人はいるか、御用改である!」

だが近藤の呼び掛けに誰も来ない。続いて歳三が大声で呼び掛ける。

「おーーいっ誰か居ないのか!」

すると階段の裏から黒髪で鮮やかな髪飾りをした美しい女性が現れ皆の前に座り頭を下げる。

「ようこそ天下蝶へ。今日は何の御用で・・・」

女性が頭を上げた瞬間、驚いた表情をする。

「あらーっ土方さんではありませんか」

歳三は笑顔になる。

「よう、お咲。悪いが今日は客で来たんじゃないんだ」

「では何用で?」

近藤が割って入り要件を話す。

「実はここで攘夷倒幕派の志士がここで密会があると言う垂れ込みがあって少し調べさせてもらうぞ」

お咲は納得した表情をするが、少々困った表情をする。

「調べるのは構いませんが、ただ他のお客様が居ますのでちょっと番頭と相談してきますので」

お咲の答えを聞いた彩芽が険しい表情でお咲に迫る。

「ふざけるな!そんな事をしていたら逃げられてしまう。お前ら片っ端から調べるぞ!」

すると彩芽の右隣りに居る政宗が左腕を突き出して彼女を止める。

「彩芽、冷静になれ。闇雲に探して客達が騒いだらそれこそ奴らに気付かれて逃げらる」

政宗の制止に彩芽は険悪な表情で両手で政宗の胸ぐらを掴む。

「あんたの指図は受けないわ。場所が変わろうとも私達は私達のやり方をするわ」

そう吐き捨てると彩芽は政宗を突き飛ばす様に胸ぐらを離し土足で中へ入る。

「全員!私に続け!」

彩芽の指示に後方に居る見廻組の組員が頷き土足ままで上がりこむその光景にお咲は驚きを隠せないでいた。政宗達も後を追う様に土足で彩芽達の後を追う

彩芽達は二階と一階に分かれて捜索を開始し政宗達も分かれて別な場所を捜索する。

彩芽は部下とは別に一人で二階を捜索、片っ端から部屋を開けて捜索する。

見廻組の組員も一部屋ずつ両手で勢いよく開けて部屋の中を捜索する。部屋の中に居た客と遊女は突然の事に驚いていた。

二階を捜索していた彩芽は奥の端の部屋を開ける。すると中には多くの男達が居り彩芽は問いただす。

「貴様らここで何をしている?」

中央の左に座っていた男が穏やかな表情で説明する。

「いや、皆で誰を呼ぶか話し合っていただけですよ」

彩芽は襖を閉めて一歩下がり殺気に満ちた目付きと険しい表情となり左右の腰に提げている愛刀の黒龍刀を抜き右手に打刀、左手に小太刀の二刀流になる。

後を追って来た政宗が刀を抜いて立っていた彩芽に近寄り問い掛ける。

「彩芽、なぜ刀を抜いている?」

彩芽は右の方を向き政宗に答える。

「攘夷倒幕派が居た。奴らが仕掛ける前にやるよ」

政宗は彩芽の答えに納得して愛刀の白龍刀を抜く。

一方、下を捜索していた新撰組の組員が丁度、真下の部屋を開けようとした時に中に居た攘夷倒幕派の不逞浪士が襖を蹴破り、声を上げながらいきなり組員に斬り掛かる。

政宗と彩芽が部屋に入ろうとした時に下で騒がしくなっている事に気付き階段の方を向く。

「何だ?」

見廻組の組員、一人が言葉を発した瞬間に目の前の襖が蹴破られ中に居た浪人達が声を上げて政宗達に斬り掛かる。

政宗と彩芽はすかさずに自分の愛刀で防ぎ、他の組員達も他の不逞浪士達に対応する。

組員と不逞浪士が声を荒げながら激しい戦闘が始まり刀同士がぶつかり合い金属が弾ける音に僅かながら火花も飛び散る。他の部屋にまで戦闘が広がり多くの客や遊女が悲鳴を上がり慌てて逃げる。

一階の部屋では遊女と楽しんでいた中年の男性が戦闘の音に苛立つ。

「何だ?喧嘩でも始まったか。まったくここはここは喧嘩する所じゃねぇーつうの」

遊女は優しい口調でお客を宥める。

「まあまあ旦那様、あっちの事は気にせずこっちはこっちで楽しみましょ」

遊女の言葉に男性は笑顔になる。

「それもそうだな。それじゃお楽しみと行こうかの」

男性はいやらしい笑顔で遊女に近づき、遊女も妖艶な笑顔になる。

「いやだですわ旦那様、スケベなんだから」

男性は遊女の着物を脱がそうとした時にその部屋の障子を突き破って組員と不逞浪士の戦闘が乱入する。その光景に遊女と男性は驚き一目散に部屋を飛び出す。戦闘は天下蝶全体に広がり組員と不逞浪士が斬ったり斬られたりしていた。

一方で外で待機していた近藤らと只三郎らは身構え天下蝶から逃げようとする浪士を待っていた。

島田も身構えていたが、右横に居た永倉が身構えていない事に気付き小声で話し掛ける。

「おい、永倉さん何しているんですか?構えておかないといつ不逞浪士が出てくるか分かりませんよ」

永倉は島田の方へ向き落ち着いた口調で話す。

「少ないんだよ」

「何が?」

「見廻組の得た情報だと不逞浪士の数は三百人のはずだ」

「ええ、それが?」

「この天下蝶の中から聞こえて来る声から推測するに不逞浪士の数は十四人程度だ」

「そう言えばなかなか突入した班から応援の笛が鳴りませんね」

「見廻組の情報に誤りがあったとは思えない。恐らくだが、他に伏兵がいるはずだ」

島田はハッとなり後ろの大通りを見る。

「まさか⁉︎他の店に不逞浪士が・・・」

島田は再び永倉を見る。永倉は小さく縦に首を振る。島田は慌てて組員を掻き分け前に居る近藤らに事の重大さを伝えに行く。

前に居た近藤らと只三郎らは険しい表情で不逞浪士が出て来るのを構えて待機しているが、中で起こっている音に近藤は気になり左横に居る只三郎に話し掛ける。

「只三郎殿、本当に三百人の不逞浪士が居るんですよね?」

「そうだが」

「おかしいですね、いくら突入した班が剣に優れていても大勢の人数を相手となると苦戦するはず」

「だから」

「応援の笛が鳴らないと言う事は天下蝶内にいる不逞浪士の人数は少ない。他にも伏兵が」

只三郎は近藤の話にくすりと笑う。

「そんなわけがあるまい近藤君、それとも我々が得た情報を疑うのかね」

近藤の左横でと二人の話を聞いていた歳三も異論を唱える。

「俺もかっちゃんと同じだ。他にも伏兵がいるはずだ。今すぐにでも大通りの店を捜索すべきだ」

只三郎の右横に居た今井が反論する。

「歳三君、悪いが君達が言っている事は憶測に過ぎない。偶々、他の不逞浪士が到着していなかっただけだ。そんな事で人員を割くわけにはいかない」

「何だと!」

今井の発言に歳三は怒りを覚え近づこうとする。それを近藤が止める。

「やめろ、トシ。今は抑えろ」

「でも、かっちゃん」

すると後ろから島田が組員を掻き分けて近藤らの前に現れる。

「局長!副長!大変です‼︎」

島田は慌てて声を荒げていた。歳三は島田を落ち着かせる。

「落ち着け島田。どうした何があった」

「これは罠です!他の店に伏兵がいます」

天下蝶内の二階では彩芽が廊下で不逞浪士の一太刀を小太刀でなぎ払い素早い動きで間合いを詰めて打刀で腹部を斬りつける。

「ぐわぁーーーー‼︎」

不逞浪士はその場に倒れ込む。

「愚か者め」

彩芽が冷酷な口調で不逞浪士に吐き捨てると彩芽に斬りつけられた不逞浪士は虫の息で血に染まった右手を懐に入り竹の笛を取り出し力強く吹く。

まるで楽器のような笛の音色が天下蝶の外まで響き渡る。彩芽は何かまずいと感じ取りすかさず打刀で心臓に突きとどめを刺す。

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