第6話彼女の願い
涙でうんるんだ目でじっと月影響子は僕の瞳をみつめた。
いや、これはずるいよ。
こんな顔でたのまれたら、断ることができる男がこの世の中に存在するのだろうか。
その間にもくんかくんかと僕の手首を月影響子はかぎつづける。
なんだかもうすでに、その感覚になれつつある自分がちょっとだけ不思議だった。
月影響子の話が本当なら彼女はこの行動をとらなければその魔女というものに意識を支配され、やがて凄惨な最後を迎えるという。
それはあまりにもかわいそうだ。
それにかつてスクールカースト一位だった月影響子が涙目で頼んでいる。
学生時代は高嶺の花すぎて会話すらしたこたもない相手だ。
こんなことでもないかぎり、一生話すことなどなかっただろう。
僕の中によこしまな感情が浮かばなかったといえば嘘になる。
かといって人の弱味につけこんでどうこうしようというのも、そんな気にはなれないでいる。
残ったアイスコーヒーを一気に飲み干した。
「わかったよ。困っている人を見捨てることなんかできないよ」
と僕は言った。
「よかった。新田くんがそう言ってくれて。ありがとう、心から感謝するわ」
月影響子はそう言うと花のように華麗な笑顔を浮かべた。
これまたずるいよ。
ただでさえとびっきりの美人なのに笑顔が綺麗すぎる。
「じゃあ、さっそくだけどお家にお邪魔していいかしら」
月影響子はきいた。
「えっ、それは、ふぇ」
突然の申し出に僕は変な声をだしてしまった。
部屋にくるということは……。
男の身勝手な妄想が一瞬にして、脳内を駆け巡った。
その様子を見て、月影響子はうふふって微笑した。
笑うたびに机の上のボリュームたっぷりの胸が揺れるので、僕はやはり目が離せず、体の一部分が勝手に熱くなった。
「それは先走りすぎよ。昨日、慌てて出ていったでしょ。私、パンプスを忘れていったの。それをとりにいきたいのよ。うん、でもいいかもね。あなたの部屋広そうだし、私、一緒に住んでもいいかもね」
笑顔で言うその月影響子の顔はどこかやはり魔女めいて見えた。
それは男を欲望の渦に落とし込み、逃げ出せないようにする
帰路、外はもう真っ暗だった。
真夏だというのに月影響子はぴったりとくっついて離れなかった。
腕に自分の腕をからませ、べったりと胸もくっつけた。
とんでもない柔らかさだ。
こんなに心地のよい感触を僕は生まれてこのかた感じたことがなかった。
その間も月影響子はずっと僕の匂いをかいでいるが、この極上の柔らかさを味あわせてくれたのだから、好きにしてくれと思った。
アパートにつき、鍵を開ける。
壁のスイッチを入れ、電気を着けた。
そこで僕はぎょっとした。
廊下にツインテールのセーラー服を着た、目鼻立ちのくっきりとした美少女が腕を組み、立っていた。
「最近、お兄ちゃん家に帰ってこないと思ったらそんなホルスタインみたいな女と一緒にいたのね。パンプスがおいてたから怪しいと思ってたらやっぱり、そういうことだったのね。お兄ちゃんはね、私のものなんだからね。返してもらうわよ、牛乳のオバサン‼️」
怒り心頭で目を充血させながらそう言うのは菅原美奈子であった。
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