第3話シンデレラはパンプスを忘れる
月影響子はそのアーモンド型の大きな瞳で僕の存在を認識すると、すくりと立ち上がった。
両の拳を腰にあてる。
どうやら
流れるような動作で無駄というものが一切ない。
月影響子の左足がはねあがった。
僕はというとその間なにもできずにいた。
理由は二つある。
一つは彼女の華麗な動作にみとれていたということもある。
もう一つは月影響子の動作があまりにも素早く、僕の人並み以下の反射神経ではまったく追いつくことなど不可能であったのだ。
「月影流無刀術弧月‼️」
月影響子は短く叫んだ。
そのあとはまるでスローモーションの映像が流れているようだった。
僕の視界にゆっくりと景色が流れていく。
はね上がった左足は僕の首の部分を的確に狙ってくる。
僕はその攻撃に成す術もなく、立ちすくんだ。
僕の目の前に広がるのは白い艶やかな太ももであった。
さらにその奥には純白のパンティがその見目麗しい姿をさらけ出していた。
それを見た次の瞬間、猛烈な痛みを首筋に受け、僕は意識を失った。
「げほっげほっ……」
咳き込みながら僕はどうにかこうにか意識を取り戻した。
首に激しい痛みを覚えた。
そう、僕は理由不明の侵入者にして美貌の同窓生月影響子に激しい蹴り技を受け、気絶したのだ。
腕時計を見ると午前五時を少し回っていた。
冷蔵庫に行き、保冷剤をとると熱をおびた首にあてた。
少しだけだが、痛みが和らいだ気がした。
僕はふらつきながら部屋の中を見渡した。
部屋の中はそれほど変化していない。
壁に手をあてながら、別の部屋も見る。
ベッドルームを見ると枕がなくなっているのに気づいた。
そういえば彼女は僕の枕に顔を埋めていたな。
どうしてそのような変態行動をとっていたのかは、まったくの謎だった。
他の部屋も見たが、変わったところはない。
廊下に出て、玄関に向かう。
そこで違和感を覚えた。
普段ならそこに置かれてるのは僕のスニーカーと仕事用の革靴だけのはずだった。
見慣れないものが一つ増えていた。
女物の黒いパンプスであった。
残されたパンプスを見て、僕はシンデレラの物語を思い出した。
だが、シンデレラというには月影響子は狂暴と言うほどに強く、意味不明の存在だった。
僕はそのパンプスをどうすればいいのだ。
王子様よろしくお姫様たる月影を探せばいいのか。
僕は痛む首と頭をふった。
何故、彼女は僕の部屋に侵入し、あのような奇行をとったのか。
答えのでない疑問が痛む頭の中を駆けめぐったが、晩ごはんを食べていないことを思い出したので、スーパーで買った惣菜を食べることにした。
どんなときでも腹ごしらえは重要だ。
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