第4話待ち合わせ
ぬるめのシャワーを浴びると痛みはそれほどかんじなくなった。
僕は身支度を整え、出社することにした。
欠勤しても良かったのだが、謎の美女に不法侵入されハイキックをくらい、気絶したので休ませていただきたいとは流石にいえなかった。
午前中は、やはりじわじわと首筋が痛んだが、昼休憩に入り、社員食堂にむかうころにはすっかりとよくなっていた。
とそこで廊下で出張帰りの社長とすれ違った。
社長は幼い頃に両親を事故で亡くした僕を引き取り、育ててくれた大恩人であった。
おまけに就職や部屋の世話までしてくれたので足を向けて寝ることはできない。
「お帰りなさい、社長」
と僕は挨拶した。
「おー元気か
にこにこと笑いながら社長の
「今度、またいきます」
と僕は答えた。
「帰ってきたらすき焼きだな」
はははっとわらいながら頼人おじさんは立ち去った。
笑顔のたえない明るい性格のひとだった。
僕がひそかに目標にしている人でもある。
社員食堂で一人、しょうが焼き定食を食べているとスマフォがぶるぶると鳴った。
普段なら知らない番号はでないのだが、もしやと思い僕は画面をタップした。
「もしもし、新田くんの携帯かしら……」
高い、ききとりやすい滑舌の声。
良い声だ。
おっと危ない危ない。
あまりの美声に警戒心を無くすところだった。
「はい、そうですけど」
僕は返事した。
「よかった。田代くんから教えてもらったのよ。昨日はごめんね。たいへんなところを見られてしまったわね。お願いがあるんだけどいいかしら」
はっきり言って、その美声に聞き惚れ、僕は勝手に警戒レベルを下げていた。
「いいよ」
と答えた。
「そう、よかったわ。詳しいことを説明したいのだけど、今晩あいているかしら」
「仕事帰りなら……」
「なら、駅前のムーンフロントで十九時に待ってるわ」
「うん、わかったよ」
「じゃあね、新田くん待ってるから必ず来てね」
そう言い残し、電話は切れた。
仕事を終えた僕は駅前のカフェにむかった。
理由はどうあれ、女子と待ち合わせをするのは美奈子以外では初めてであった。まあ、あれは妹みたいなものなのでカウントには入らないだろう。
店のどの辺りにいるのだろうかと少し心配したが、それは杞憂というものだった。
一際目立つ超絶美しい女性が月影響子であったからだ。
彼女は店の前で物憂げに通りすぎる人たちを見ていた。
やがて、僕の存在に気づくと白く、艶やかな腕をふり、小走りに駆け寄った。
走る度に大きく揺れるボリュームたっぷりの胸に釘ずけになった。
白い半袖のブラウスに黒いスカート。シンプルないでたちであったが、それが月影響子の美しさをさらに引き立てていた。
「来てくれてよかったわ」
そういうと月影響子はさらに僕に近づいた。
その端正な顔を僕の首もと近づけ、形のいい鼻をくっつけた。
「昨日はごめんね。私、とっさのことでつい……。痛かったでしょう。私古武術を嗜んでるから。くんくんくん……」
謝りながら、月影響子は僕の匂いをかぎだした。
突然、絶世の美女に密接され、匂いをかがれ僕は耳のさきまで赤くなるのを覚えた。
心臓がばくばくと激しく自己主張していた。
「やっぱり直接は違うわね。すごおく落ち着く。とってもいい匂い。私ね、新田くんの匂いをかがないと死んでしまう病気になってしまったの」
と月影響子は訳のわからないことを言った。
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