第30話再び狼モンスター
駆ける。
駆ける駆ける!
くそ、どこだ。
二人は何処へ行った。
獣の足音がしたのはこっち。
だけど、その先に二人がいる保証はない。
これが単に獲物を追っているのならそれでいい。
だけど、違ったら?
何かのトラブルに巻き込まれたとしたら?
「二人は僕が護るって言ったのに、このエセ騎士が!!」
自分に怒りをぶつけ、腸が煮えくり返る。
頼む。
杞憂であってくれ。
ガサ。
突然四足歩行の動物が飛び出してきた。
狼か、狐か?
「はは、狼、じゃないなこれは」
見間違えるはずがない。
そして、二度と見たくないその姿。
「狼型、モンスターか」
ざわりと、毛が逆立つ。
まさか、再びこいつに会うことになろうとは。
「てことは、メリアとリゼも!」
ヤバい!
こんなのに関わっている場合じゃない!
「ガルル!」
なんて考えている場合でもないか。
「ガゥ!!」
「チッ!」
狼が飛びかかってきた。
慌てるな。
こいつは一度退治している。
僕は杖を取り出し、魔力を灯す。
「はぁっ!!」
噴き出した火炎が狼を飲み込んだ。
「ギャウンッ!」
込み込まれた狼はそのまま炭となる。
だけど勝利の達成感なんてない。
むしろ焦燥は臨界点に達していた。
なんてこった。
動物の狼や狐なら、二人揃えば狩れるだろう。
だが、こいつは駄目だ。
見た目は大きな狼だけど、中身は全くの別物。
動きも、牙や爪の鋭さも、体毛の固さも別次元だ。
これまでの実習で見た二人の実力は、完全に記憶が戻る前の僕よりもちょい上程度。
まあ、メリアの方が魔術師としての実力はリゼよりも少し上だけど、実戦経験という面ではどうかな?
一匹、二匹なら二人揃えばなんとかなるかもしれないが、それ以上だったらヤバい。
これも学校の実習の一環?
いや、ないだろ。
いくら魔術師に危険は付き物とはいえ、入学して間もない一年に、モンスターを当てるなんて考えられない。
ハリス達もそんなことは一言も言っていなかった。
つまりこれは学校側も関知していない完全なイレギュラー。
どうか、この一匹だけであってくれよ。
「二人共、返事をしてくれぇ!!」
再び大声を出し、その後で耳を澄ます。
・・・。
駄目か?
「・・・っ」
バッと顔を上げた。
「今、何か聞こえた」
微かに、何かを。
「あっちだ!!」
僕は声がした方向へと走る。
くそ、茂みは走りにくいな。
焦りが苛立ちを呼ぶ。
落ち着け、落ち着け僕。
この震えは、息が上がっているのか、二人の安否を案じる恐怖か。
木々を押しのけ、音はハッキリと声として聞こえてきた。
この先にいる。
少し開けたその場所に、二人はいた。
二人と、沢山の狼型モンスター!
「アルフ!」
「二人共無事だな!」
二人は互いに背中を預け、狼に魔術を放っているが、如何せんあっちは素早い。
その上数が多い。
これでは的を絞れない。
そして見た。
「リゼ、怪我をしたのか!」
リゼの足からは血が流れ、殆ど片足立ちしている。
「ああ、ちょっとミスったよ」
お道化て言っているが相当痛い筈だ。
すぐに駆け寄ろうとしたら、足元の何かに当たってつんのめる。
二人しか見ていなかった。
何かと思えば、あの狼型モンスター。
既に死んでいる。
二人が倒したのか。
「ガルルゥ!」
僕の登場で、狼もこちらを見る。
その数、十三匹。
マジかよ。
「大丈夫だ二人共すぐに助ける!」
そう言って二人に駆け寄ろうとしたら、三匹が僕の行く手を阻んだ。
「うざってぇぞ!」
杖を取り出し、狼に向けて放つが、狼はそれを横に跳んで回避した。
「何!?」
魔術を警戒している?
そうか、さっき二人に一匹やられたから学習したのか。
「流石は狼型ってところか」
狼は頭が回る。
だからこそ、群れでの連携が可能なんだ。
今度は二匹が同時に僕に襲い掛かる。
「チィッ」
横に跳んで回避。
同時に線状に炎を発生させ、二匹を同時に焼く。
これで僕の前にいるのは一匹。
「ガルル」
襲い掛かって来る。
そう思ったら、ピョンピョンと僕の周りを跳ねる。
フェイントだと!?
円を描くように飛び回り、飛び掛かると思いきや、すぐに後退する。
もしかしてこいつ。
僕をここに引き付けて、他の狼が二人を先に始末するつもりじゃないよな?
これがモンスターか。
本当の狼よりも更に頭が回る。
もっと広範囲の大規模術式を使うか?
それだと二人も巻き込んで。
「くそ、なら無視だ!!」
僕はぐるりと弧を描き、狼を僕がさっき来た位置へと誘導すると、構わずメリア達の所へと走る。
「ガゥ!!」
させぬとばかりに、今度は本当に飛び掛かってきた。
「はっ! そこが限界だワンコロ」
宙に跳んでしまえば動けない。
目と鼻の先。
超至近距離で僕は火炎をお見舞いした。
ゴウっ。
音を立てて狼は燃え上がる。
よし、これで・・・。
「きゃあああああ!!」
振り返ると、リゼが一匹に魔術を命中させている内に、その横からリゼへと飛び掛かるもう一匹がいた。
メリアが悲鳴を上げて、杖を振るが、間に合わない!
リゼは押し倒され、肩をガシっと押さえられ、身動きが取れない。
「ぐぅ!」
「こ、このお!!」
至近距離にいるので反射的にメリアは杖で狼を殴る。
しかし、それでは狼はビクともしない。
この辺が経験の差だ。
あの位置からでも魔術の方が遥かにダメージを与えられるのだが、冷静ではいられないのだろう。
すると、今度はリゼに向き直ったメリアの後ろから狼が飛び掛かる。
「-----っ」
メイアは恐怖で顔が歪む。
他の狼もここぞとばかりに襲い掛かろうとしている。
「くそ!!」
起動速度加速術式起動。
並列思考術式起動。
「食らえ!!!!」
雷属性、稲妻の槍。
十門同時発動!
展開される十の魔法陣。
完全に捕捉したそれが、狼の腹を正確に捕らえ、一撃で射抜いた。
ガガガガガガガガガガ!!!!
一瞬で狼達は倒れ伏し、焼け焦げた。
「ふ~」
へなへなとメリアは座り込み、リゼは顔を歪めて起き上がろうとしている。
だがっ!
「安心するな。まだいるぞ!!」
「「え!?」」
僕の視線の先を見ると、もう一匹いた。
ひと際大きい。
こいつ、ボスか。
物陰からこっちの様子を窺っていたのか。
なんて、狡猾な!
二人は完全に腰が抜けてしまったのかまるで身体が動かない。
僕は駆けながら雷を放つが、なんとこいつ、それを躱す。
馬鹿な。
最速の雷属性だぞ!?
さっきのを後ろから見ていて学習したか。
打ち出す前の角度を見て、咄嗟に避けているのか!?
こんなお利口な生き物、前世にはいなかったぞ。
ボスは今にも二人に襲い掛かりそうだ。
僕は咄嗟に前に出た。
何故か、どこか、このボスはしてやったりといった風な顔を作った気がした。
まさか、こいつ僕と直接やり合うよりも、二人をターゲットにした方が、僕を捉えやすいと考えたのか?
動かされたのか、僕が!?
飛び掛かって来るボス狼。
後ろから二人の悲鳴が聞こえる。
そして、
そして、その狼は僕の目の前で虚空へと消えた。
「「え!?」」
「はっ。ざまあみろ」
冷や汗をかいた僕はそれを拭うと、二人に歩み寄り、ニコリと笑う。
「ごめん。遅くなった」
「アルフ。ありがとう。助かった、うっ!」
「リゼ! 足が、あああ、さっき肩を押さえつけられたからそこにも怪我を」
メリアが泣きそうに回復魔術をかける。
「大丈夫だよメリア。回復魔術を使えば、これくらい、痛っ!」
「は、は。無理しないほうが、いい、がっ!!」
ズキンと頭痛がして僕はその場に倒れ込んだ。
「ぐうううううう!!」
「「アルフ!!」」
メリアと、怪我を忘れたように、リゼが僕の方に飛んでくる。
「ぐぅうう。だ、大丈夫だ。術を同時に使い過ぎた。流石に、脳が・・・」
脳に負荷をかけ過ぎた。
落ち着け。
呼吸を整えろ!
「はっはっはっはっは」
小さい呼吸を続け、なんとか気を保とうとする。
すると、メリアが座り込み、四つん這いになっている僕の頭を自分の胸に押し当てた。
「メ、リア?」
「大丈夫。大丈夫よアルフ。私の体温を感じて。心音を聞いて。落ち着いて」
はは。
心音て、滅茶苦茶早いぞメリア。
君が落ち着け。
ああ、だけど。
「あったかいなぁ」
頭痛が徐々に引いていく。
そしてそのまま僕は眠りについた。
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