第29話遭難

「いないな・・・」


 僕達は探索を続けたが、動物の“ど”の字もありはしない。


 辺りもどんどん暗くなってきた。


「そろそろ戻った方がいいかしら?」


「そう、だね。ここいらが潮時かな」


 あー、くっそ。


 僕達だけ何も獲れないなんて、かっこわりー。


 リゼが首を振る。


「私達は一番最後という不利な状況で出発したんだ。それを思えば仕方のない結果だよ」


「そう、ね」


 メリアがソワソワと辺りを見渡した。


「しょうがないよメリア。諦めよう」


「あ、うん。しょうがないわね」


 相変わらずきょろきょろと辺りを見渡す。


 はっはーん。

 さては怖いな?


 確かに薄暗い。


 恐らく日も傾いてきている。


 戻ると決めたら急いで戻ろう。


 もしかしたら、上空に鳥が飛んでいるかもしれない。


 帰りながらでも獲れる可能性はゼロじゃない。


「ちょっと走ろうか。開けた場所に出れば枝葉の隙間から空が見えて、鳥が飛んでいるところを撃ち落とせるかもしれない」


 そう言って二人の同意を求めると、メリアの顔が曇る。


「え、走るの?」


「疲れてる?」


「・・・ううん」


「僕が先頭を走るよ。足元に注意して。空が見えても僕が上を向いて走るから大丈夫」


「・・・そうね。行きましょうか」


 それじゃあ走るかと思ったその時、ドンと後ろからリゼに押された。


「え、何?」


「・・・鈍感」


 どういうことだ?


 僕が首を傾げると、リゼはため息をつく。


「ちょっと女の子同士で話があるんだ。アルフはここで待ってて」


 そう言って僕を置いてリゼはメリアの肩を抱き、更に奥へと行こうとする。


「お、おいちょっと待てよ。これ以上行くなら二人じゃ危険」


 キッ!


 おや、僕リゼに睨まれましたよ?


 危険はむしろ僕にあるのか?


「あっ!」


 なるほど解った。


 トイレか。


 察しのいい僕は解っちゃいましたよ。


 声を上げたらメリアは顔を赤くして俯き、リゼは顔を引きつらせた。


 そして、二人は奥へと行ってしまった。


 程なくしてリゼが戻って来る。


「どーん」


「痛」


 いきなり脛を蹴られた。


「鈍感」


「い、いや。途中で気が付いたよ?」


「そこで声を上げるのが尚悪いよ。黙って見送るのが紳士でしょう?」


「なん、だと?」


 僕が紳士じゃない?


 はっは、あり得ないね。


 僕がどんな顔をしていたのか判らないけど、リゼは眉間を指でぐりぐりとしてため息。


 ねえ、皆僕にため息つくこと多くない?


 最近若干の心に闇を抱えそうになるんだけども。


「君、モテないでしょ」


「ぐふぅ!!」


 くっ!


 胸を杭で・・・。


「な、何を根拠に」


「デリカシー、砂粒ほどもないもの」


「がはぁ!!」


「普段紳士とか言っているけれど、道化としか思えない」


「ごばぁ!!」


 や、止めてくれ。


 前世と合わせてどーてー君の心の痛みに塩を塗らないでくれ。


「すぐに戻って来るよ。ここで待とう」


「う、うん。そうだね。リゼは大丈夫なの?」


「・・・大丈夫だけど、もっとさり気無く言えないものかな。紳士君」


「・・・ごめんなさい」


 それから少し待ったがメリアは帰ってこない。


「ねえ、ちょっと遅くない?」


 遅くなる方かな?

 言ったらぶっ殺されんな。

 それくらいは解りますよ僕でも。


「ちょっと見てくるよ。君はここにいて」


「分かったよ」


 そうしてまた少し待った。


 だけど、二人は戻って来ない。


 まさか迷子になってるんじゃないだろうな?


 もうずいぶん経った。


 本当に走って戻らないといけない時間だ。


 いや、まさか。


「獲物が見つかった? いや、それを追っているならいいんだけど」


 逆に襲われていたら?


「不味い!」


 ええい、ここでまたやらかしたら目一杯謝ろう。


 二人が危険な目にあっているかもしれない時に、何もしないよりは余程いい!


 僕は森の奥へとダッシュした。




「はぁはぁ、くそ。いないな」


 いくら恥ずかしいからって、そう奥へは行かないだろう。


 森が危険なことくらい、メリアも重々解っている筈だ。


「あ、茂みか」


 奥の茂みの方に行ったのか?


 それだと探しようが・・・。


「メリア! リゼ! いたら返事をしてくれ!!」


 大声で呼びかけるも返事はない。


「いないのか! 何かあったのか! 二人共返事をしてくれ!!」


 耳を澄ます。


 しかし、返事はない。


 くそ、どうする?


 何かあったとしたら今から戻って先生を呼びに行っている時間はないぞ。


 こんなことなら魔力探知とやらの術式を教えてもらえばよかった。


 魔力の反響を利用して位置を特定する魔術か。


 流石にすぐには作れないけど。


 僕は地面に耳をつけた。


 何か音は聞こえないか?


 どんな微細な振動でもいい。


 僕は集中して耳を地面に押し当てると、茂みの奥から微かに何かの音がする。


 これは、四足歩行の動物か。


 今はこの音しか聞こえない。


「行くしかないか!」


 藁にもすがる思いで、僕は音のした方角へ走った。


「くそ、やっぱり一緒に行けば、いや、流石に駄目か?」


 でももう少しやりようがあったかもしれない。


 前世のライフワークで、森は危険だってことは散々経験したろ。


 女性の気持ちを汲み過ぎたか?


 いや、今はできることを考えるんだ。

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