第28話不利なラスト班

 僕達はしばらくサクサクと森の奥へと進んでいった。


 木漏れ日から漏れるうららかな日の光。


 僕達は、狩りを忘れて森林浴を満喫していた。


「いい日にこの行事が決行されたね」


 リゼは木葉がささやく中で、空気を大きく吸い込んだ。


「なんだか、狩りを忘れちゃうわねー」


「そうだね。ペナルティーもないし」


「私としてはやるからには獲物を取って帰りたいな」


「リゼは負けず嫌いというか、上昇志向が強いね」


「負けず嫌いなら君も負けていないよアルフ」


 僕はニヤリと笑う。


「どうせなら大物を狩りたいと思っている」


 メリアは笑って、しおりを捲る。


「二人共やる気ね。えーと、やっぱり一番の大物は狼、猪辺りね」


 ふむ、どっちも中々の大物だね。


「手強いな」


 僕は冷静に判断した。


「アルフは両方狩った経験があるの?」


「あるとも!」


 僕は大ウソをこいた。


 猪は村の近くの森には生息していなかったし、狼も倒したのは実はモンスターだ。


 つまるところどちらも狩ったことがない。


 しかし、知識としては知っている。


「猪の突進力は要注意だ。毛皮も固い」


「そう聞くわね。対処法は?」


「僕らは魔術師だ。遠距離から叩くさ」


「狼も?」


「そうだね。ただ、あいつ等は横の動きも素早い。猪は直線の突進力はあるけど、一度走ったら横には移動しずらい構造になっている。だから、突進を止められなかったら、一旦横に回避してから、側面を叩くのもありだ」


「狼の方が手強いってことね?」


「そうとも言い切れない。サイズにもよるけど、猪の突進力は凄いんだ。おまけに鋭い牙もある。まともに食らったら戦闘不能と考えていい」


「か、考えたくないわね」


「無論、狼も要注意だ。猪は単独で動く生き物だけど、狼は群れで行動することが多い。あいつ等の連携は危険極まりない」


「・・・な、なるほど。狐とは違うわけね」


「ふっ、今になって怖くなったかいメリア?」


「はぁ? 全然余裕よ」


 その割には顔色が優れないね。


 まあ、ぶっちゃけ僕もどっちも狩った経験がないですが。


 だがしかし。

 僕には前世の記憶があるぞ。


 人生経験は二人よりはるかに上だ。


 ここは僕が引っ張らなくては。


「頼りになるね」


 リゼが感心して笑う。


 メリアがニヤリと笑った。


「流石は」


「流石は?」


 田舎者と言いたいんだろう。


 僕はキッとメリアを睨むと、スっと視線を外しやがった。


 見ていろ。


 この狩りで僕の存在価値を跳ね上げてやる。


 僕達は森林浴をそこそこに、獲物を求めて森の奥へ奥へと進んで行く。


 奥に進むにつれて、日の光は届かなくなり、まだ昼だというのに薄暗くなってきた。


「・・・なんか、ちょっと雰囲気が出て来たわね」


「怖いかいメリア?」


「は、はぁ!? 全然怖くないし」


 僕がからかうとメリアは焦って言い返した。


 フフフ、普段僕を田舎者と馬鹿にしている罰だ。


 僕はこういったのは慣れている。


 場数も踏んでいる。


 問題はない。


「シっ、メリア。声を落そう。これだけ奥へと入ったんだ。獲物が近くにいるかもしれない」


「そ、そうね。ごめんねリゼ」


 リゼが人差し指を口に当てて注意すると、メリアは慌てて口を押さえた。


 しかし、リゼは狩りの経験なんてない筈なのに冷静だね。


 僕は前世の記憶があるけれど、彼女の冷静さには舌を巻くよ。


 感心していると、前方からガサガサと足音が聞こえてきた。


 二人に緊張が走る。


「いや、これは人の足音だよ」


 そう言って僕は二人を安心させる。


 その言葉通り、やって来たのは五人の生徒だ。


「お、両手に花の羨まけしからんのアルフじゃねーのよ」


「なんだハリスか」


 それは僕のクラスメート、男友達のハリスだった。


「獲物を捕まえたのか?」


「まーな」


 そう言ってハリスは麻の袋をひょいっと持ち上げる。


「何を狩った?」


「驚け、鹿だ」


「おお、大物じゃんか」


 鹿ならば、ハリスが片手で持てる子袋などには到底入らないが、この子袋には収納魔法がかけられている。


 この中には小鹿どころか牡鹿が入っている可能性すらあるのだ。


「す、凄いじゃないのハリス君」


 メリアは感心と驚きでまた大きめの声を上げている。


「まあ、こっちは五人だからね。連携したってわけさ」


「ふーん」


 他の四人の生徒達を見るとドヤ顔で返された。


「一匹だけか?」


 そう聞くとハリスはバツが悪そうに「ああ」と頷いだ。


「駄目だな。粗方他の奴らが狩りつくしてるんじゃねーのかな。これだけ森の奥に入ってもこいつしか獲れなかったわ」


 リゼがハリスに問う。


「確か君達は私達の前に入った班だよね」


「そうだよ。リゼさん達の一つ前さ。だから、俺ら以上に君らは大変てわけだ」


 僕達は渋い顔をする。


 ハリス達はこの奥からやって来た。


 それでも獲物は一匹。


 僕達は更に厳しい状況にある。


「もう一匹粘りたいところだけど、残念ながらもうすぐタイムアップだ。これ以上留まっていたら先生方の説教が待っている」


 やれやれとハリスは首を横に振る。


「ま、そんなわけで頑張れよ三人共」


 そう言うと手をひらひらさせて、ハリス達五人は去っていった。


「これは、うかうかしていられないね」


 リゼは顔を引き締めた。


 僕らも頷く。


「これだけ森の奥に来たから、既に時間は結構立ってるよ。このままじゃ僕らは一匹も取れないことになる」


「不味いわね。ハリス君達は一匹獲れたんだし、そう考えると他の班も一匹は狩ってるんじゃないかしら?」


「ありうる話だメリア。つまり、僕らだけ何も獲れずに戻ることになる」


「あう。これはクラスから“恥”と言う名のペナルティーを食らうことになるわ」


「ちょっと足を速めようか。但し、走るなよ。獲物が警戒する」


 二人はコクリと頷いた。


 僕らは更に奥へと進む。

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