第21話お説教
食事も終わり、僕が一人で部屋にいると、コンコンとノックがした。
「はい」
入って来たのは母さん。
あ、これはお説教ですね?
解ります。
「隠す気ある?」
前置きなし。
ストレートに聞いて、いや、非難してきた。
「学校での立ち回りといい、さっきのお漏らしといい!!」
「お、おもっ! 言い方気を付けていこうよ」
「黙りなさい!!」
「・・・はい」
は~っと、母さんはため息。
最近、母さんとメリア、僕に対してため息多くないですかね?
あ、僕が悪い? ですよね・・・。
「いやあの、学校でのことはね、仕方ないと思うよ。だって一つ間違えば入学取り消しだったし」
「見てないけど、詳細な説明を聞く限り、もっと上手い立ち回りがあったと思うな」
「いや、その。久々の魔術戦が楽しくて」
「興奮してそのまま殴り合い?」
「・・・興が乗ったといいますか・・・」
「相手の杖に不正があったとしても、公衆の面前じゃなく、もっと穏便にすることも出来たと思うのだけど?」
「あ、はい。そうですね。配慮に欠けました・・・。」
「それでさっきのお漏らし」
「そ、その言い方は、いえ、何でもないです。すいませんでした」
母さんは人差し指を眉間に当てて、首を横にフリフリ。
あ、このままじゃ、僕、見捨てられるかもしれない。
「昔に何があったのか、根掘り葉掘り聞かないけどね」
「はい」
「メリアをあまり驚かさないで」
「全くもって言い訳できません」
母さんは腕を組んで僕を睨みつけている。
ふふ、前世では最強と言われた僕も、母親には勝てないのさ。
「いっそバラしちゃう?」
「え?」
「アルフの正体。アルフレートの生まれ変わりってことをメリアに打ち明けるの」
えー、言っちゃう?
んんー、うーん・・・。
「まだ駄目」
「でもね。わたしは学校へは行けないのよ?」
「それは解ってるけどさ。ほら、メリアってアルフレートへの執着凄いだろ?」
「凄いわねー」
「僕がそのアルフレートだって言ったら、どうなるかな?」
「ちょお~っと予想できないわねー」
「まあ、それは僕が耐えればいいんだけどさ。大騒ぎに巻き込まるのは勘弁だな」
「誰も解けなかったなんちゃらって人の魔法定理を数時間で解いちゃうしねー」
僕は頭をかいた。
「それにだよ。輪廻転生は西側ではタブーだ。下手すると僕は投獄だよ」
「わたしもちょっと調べたんだけど、その辺りの考えって、五百年前と変わっていないのよ」
地面の方が周っている説とかは覆ったのにね。
でも、死んだ後の魂の行方は、神学永遠のテーマなのかもな。
「では、わたしは姪を信じたいって気持ちがあるわ。メリアは誰にもバラさないと思うわよ?」
「それは僕も信じてる」
「じゃあ、」
「メリアは信じるけど、一人二人と秘密がバレていって終いには・・・」
母さんは顔を覆った。
「アルフの投獄は、時間の問題かもね」
「嫌だ―!」
僕はうずくまる。
僕が自重すれば万事解決だ。
あー、だけどなー。魔術について知ろうと思ったら、やっぱりある程度は力を発揮しないといけないし。
でも、投獄は。
いやしかし。
「・・・やっぱりまだ、時期じゃないと思う」
ふぅ、と。
母さんは息を吐いた。
「分かった。アルフを尊重する」
「うん。バレないように気を付けるよ」
「その為には、じ・ちょ・う!」
「・・・はい」
「それじゃあ、もう寝なさい」
「えっ!?」
寝るには早い。
まだ魔術書を読みたいんだけど。
だけど、僕の考えは母さんにはお見通しのようで、目を三角にさせた。
「今言った自重という言葉の意味。解るよね?」
「えと、でもですね母上・・・」
「寝ろ」
「はい」
やっぱり母親には勝てないのです。
*********
次の日。
「おはよう。アルフ、メリア」
「「おはようリゼ」」
僕とメリアは教室でリゼと挨拶を交わした。
僕はアルフレートであると同時にアルフでもある。
村では同年代の人間がいなかったので、こうして同い年の人と友達になれるのは純粋に嬉しい。
いや、前世でも共同研究者はいたけど、友達とは・・・止そう。黒歴史に触れそうだ。
そんな僕達、正確には僕へと集まる視線はやはり昨日と変わらずに多い。
僕が憮然としていると、メリアが肩に手を当てる。
「時期に終息するわよ」
「そうだね」
僕が頷くと、リザも同意を示す。
「そうだね。それに、君よりも注目を集める人物がやって来た」
教室内がざわざわと騒めき、アイツが姿を現した。
「クラウスか」
教室に入って来たクラウスは、クラスメイトの視線から逃げるように、自分の席を見つけ、すぐに着席した。
その時、僕と視線がかち合う。
「ぐっ!」
憎しみが籠った視線を僕にぶつけ、何か言いたげであったが、結局はこっちに来ることはなかった。
アイツ、傷はもう良いみたいだな。
あばら骨を二本折ったということだったけど、回復魔法で治したのか。
殴りつけた顔も綺麗だ。
男であっても、顔に傷が残ったままなのは、僕も後味が悪いし、良かったかな。
「君の場合は、好奇な視線だけど、あっちは侮蔑だね」
リゼとしても、クラウスには思うところがあるようで、非難の視線を浴びせた。
「クラウスが試験で不正を行った証拠はないよ」
「そっちは流石に真面目に受けたのだと思う。腐ってもアルフレートの血族。昨日見た術式は見事としか言いようがなかった」
あの起動速度は僕も驚いた。
なんだか、遠回しにロックを褒められているようで、ちょっと嬉しい。
「なんで嬉しそうなのアルフ?」
メリアが不思議そうに僕を見ているので、僕は慌てて誤魔化す。
「いや、そんな凄い相手に勝てて良かったなーってさ」
リゼは頷くと同時に、やはりクラウスが気に入らないらしい。
「そうだね。君は凄いと思う。それに入試試験で不正をしていなかったとしても、殺傷能力の高い杖で君と戦ったのは、やっぱり酷いよ」
「そーそー。私もそう思う。下手をしたら・・・下手をしたらアルフは死んでいたかもしれないもの」
自分で言った後に怖くなったのか、メリアはブルっと震えた。
リゼは再び頷く。
「あれはアルフだったから良かった。私はこれでも魔術戦闘には自信があるから、昨日の戦いでもある程度は戦えたと思う。でも、逆にあっちも手加減が出来ないと思うから、勝敗が決まった時、私は、」
リゼもきゅっと自分で自分を抱きしめた。
そうだよな。
あれはあくまでも学生同士のしかも、入学したばかりの新入生の模擬戦だ。
間違っても命をかけた戦いじゃあない。
その辺が、前世の記憶を持って、命のやり取りをしていた僕との考えの差なんだろうな。
むしろ僕はロックの魔術に興奮すら覚えた。
これなんだよなー。
僕の悪いところは。
また母さんに怒られそう。
「二人共。その辺にしておこう」
「アルフが一番怒るべきなのよ?」
メリアが不満そうに僕に言う。
「まあまあ、僕はこうして無傷だし。アイツは正に今、その罰を受けている」
そう言って顎をしゃくってクラウスを見ると、クラス中の視線がアイツに集まっている。
クラウスは恥辱と恐怖で震えているのが判る。
「生徒間だけじゃなく、家名も大きく傷ついた筈だ。学生には十分な罰だよ」
「他でもないアルフがそう言うなら・・・」
「やっぱり君は達観しているね」
「悪かったね。爺臭くて」
「そう言う意味ではないけれど」
リゼはそう言うけど、実際は百七十歳のご高齢ですのでね。
爺なんですよ。
すいませんね。
拗ねる僕、カッコ悪いわ~。
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