第19話不正

 その瞬間、闘技場に大勢の声が響き渡った。


「うおおお、マジか?」


「あいつ、クラウスに勝っちゃったの?」


「いや、あんな殴り合いで勝っても俺は認めないぞ・・・」


「だけど、その前に決着はついていただろう? あれはむしろエキストラマッチ的な?」


「つーか、クラウスにチャンスを与えたって感じ? いやいや、だけど俺はあんな不正をする奴なんかに」


「・・・する、必要あるか? あんな魔術お前使えんのかよ?」


「・・・い、いや。そうだな」


 どうやらこのお祭りは成功といっていいね。


 僕はクラウスの杖を掴んだ。


 ああ、やっぱりか。


「ぼ、僕の杖に触るな!」


「やだよばーか」


 痛がりながらも、クラウスが面食らって叫ぶ。


「校長先生、受け取ってください!」


 杖を校長先生に向かった投げつけた。


「ああああああああああああああ!」


 クラウスは顔を上げ、真っ青になって叫んだ。


 校長先生は驚いたが、杖はしっかりとつかみ取った。


「驚きますよアルベルト君。この杖が・・・何!?」


 不審に思って杖を見ていた先生が驚愕する。


「こ、これは競技用の杖ではない! 本当の決闘で使われる杖だ!!」


「「「な、何ーーーーーーーー!!!!」」」


 再び闘技場が声で割れた。


「嘘だろ!?」


「じゃ、じゃあ、不正をしたのはクラウスってこと?」


「え、じゃあ入学実技試験も?」


「・・・マジかよ?」


 ざわざわざわと、闘技場に爆発的な混乱が巻き起こる。


「く、ううぅ」


 クラウスはガタガタと震え ズルズルと足を引きずらせながら、闘技場の外へと出ていった。


 闘技場中がそれを唖然としながら見送った。



「アルフ!!」


 闘技場から出て、控室に戻ろうとすると、メリアが飛び込んで僕をギュッと抱きしめた。


「ちょ、ちょっとメリア!?」


「凄い、凄い凄い!! 君って凄いわ!!」


「お、おお。ありがとう」


 僕から離れても、メリアは息を弾ませ、顔は赤く上気していた。


 ニッと僕は笑う。


「な? やってみないと分からないだろ」


 メリアはきょとんとし「そうね」と笑った。


「でも、いきなり殴り合いを始めた時はどうなるかと思ったわ」


「いやあ、僕も初めはやるつもりはなかったんだよ」


「ならなんで?」


 うーんと、僕は首を捻った。


「テンション上がったから?」


「ぷっ。何それ?」


「それに、火の玉をぶつけるより、直接ぶん殴ってやりたかったからね」


 ぐっと僕はガッツポーズを作った。


「・・・やっぱり喧嘩っ早い」


「や、あれくらいはしてもいい程のことを僕はされたと思うよ?」


「確かにね」


 腕を組んでうんうんと頷いた。


「でも、あいつが不正をしているとは思わなかったわ」


「そうだね。臆病な奴なのかな?」


「臆病?」


「絶対に勝たないといけないから不正をしたんじゃないか?」


「確かに、そうね」


「それに大怪我させて僕を笑いたかったんだろう」


「そっちがメインかも」


「そうだね。もしかしたらアイツはそれしか頭になかったのかもしれない。でも、心はどうかな?」


「心?」


「あんな大勢の前で戦うんだ。考えていないだけで心の端っこのほうにあったんじゃないかなって」


 メリアは顎に手を当てた後、コクリと頷いた。


「そうかもね・・・」


 その後にじーーっと僕を見る。


「な、何?」


「なんか、君は本当にずっとド田舎で育ったの?」


 ド田舎・・・。


「そうだけど」


「人間が出来てる? いえ、見えてるっていうか、そんな思慮が田舎で身に付くのかなって」


「生まれも育ちも田舎だよ」


 それと田舎を馬鹿にしてくれるな。


 それだと田舎の人間は、皆思慮に欠けた馬鹿みたいに聞こえるじゃあないか。


 足音が聞こえ、校長先生と教頭先生がやって来た。


「アルベルト君」


「先生。杖はどうでしたか?」


「うむ。やはり殺傷能力の強い本物の杖だったよ」


「なんてこと・・・」


 改めてそう言われて、メリアは口に手を当てた。


「そ、それじゃあ、彼はどうなるんです?」


 教頭先生は唸る。


「彼が入学試験で不正を行っていたという証拠はありません。この戦いはあくまでも、君の為のもので、彼を試すものではありません。ただ、殺傷能力の高い武器を不正に取り換えたのは事実。厳重注意を言い渡すつもりです」


「・・・そんな、注意だけですか!?」


「もしも、アルベルト君が大怪我を負っていたらまた違ったかもしれませんが、彼はこの通り無傷ですから」


「んんーー!」


 メリアは納得がいかなそうで唸っていた。


「むしろ、アルベルト君。あそこで殴り合う必要はなかったのでは?」


「メリアにも言いましたが、あれくらいしても許されることをされたと思っていますよ」


「むむむ」


 髭をいじりながら、教頭先生は困った顔をした。


「アルベルト君」


 校長先生がここで初めて口を開いた。


「もう一度、敢えて問おう」


「はい」


「君は、何者かね?」


 さっきと同じ質問。


 僕の答えは決まっている。


「僕の答えは、さっきとは少し違います」


「ほぉ?」


「魔術学校に入学しましたアルフ・アルベルト十五歳です。三年間、ご指導お鞭撻、よろしくお願いします!」


 僕はそう言って頭を下げた。

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