第18話アルフ対クラウス

 とにかく速攻!


 先手は譲らない。


 魔力を溜めて、即座に放つ!


「って、え?」


 クラウスは既に魔術を放っていた。


 火炎の球が僕に迫る。


「早っ!」


 僕も遅まきながら火炎の球を出し、クラウスの火炎に向けて放つ。


 ボンという音と共に、二つの火炎は対消滅した。


「・・・ほう。やるな」


 クラウスは感心、というか驚いた感じで声を上げた。


 まあ、驚いたのはこっちも同じ。


 この杖、殺傷能力はそんなにないんじゃなかったのか?


 僕は自分の火力には自信があるし、この杖でもなんとかアイツと渡り合えるけど若干劣る。あれ、まともに食らったら、即退場だぞ?


 思わず校長先生に視線を送ったら、あちらも驚いている。


 つまりはあの威力は想定外ってことだ。


 それに早い。


 早打ちにはそれなりに自信があったんだけど、まさかそれを上回って来るとはね。


 なるほど、これが現代魔術か。


 威力も速度も前世の平均を上回っている。


 僕は舌なめずりした。


「そうだよ。こうでなくっちゃな」


 前世と同じレベルを求めてたんじゃない。


 未来の、進んだ技術を学ぶ為に、僕は転生したんだ。


「ふん! ただの田舎者だと思っていたら、一応は魔術を使えたか」


「こっちも驚いたよ。血統だけが自慢の口だけ野郎と思っていたからな」


「馬鹿が!」


 再び火炎球を飛ばす。


 さっきより起動が早いぞ!?


 僕は横っ飛びでそれを躱し、そのまま炎を放ってゴロンゴロンと前転した。


 躱しながら魔術を使うとは予想外だったのか、クラウスの顔が引きつり、第二弾を放ち、僕の魔術を相殺した。


 おおおおおおおお!


 闘技場が沸く。


 思ったよりも僕が善戦しているからだろう。


 なんか後ろからメリアが応援している声が聞こえる。


 流石に振り向く余裕はないけど。


「お、おい。あいつは不正入学したんじゃないのか?」


「あの威力。お、俺よりも・・・」


 ふむ。


 会場の雰囲気はいい感じだね。


「チ、田舎者が。だったらこれはどうだ!!」


 クラウスが新たな魔術を構築していく。


 待て、その魔術は。


「はぁ!!」


 今の魔術を起動した後に、クラウスは攻撃魔術を使う。


 さっきと同じ火炎球。


 だが、早い。


 さっきよりもずっと早い!!


 躱せないと判断し、防御結界を展開。


 炎を受け止める。


「くぅ!」


 その衝撃で僕は大きく後退した。


「驚いた。さっきよりも早いし、その魔術・・・」


「気が付くか。やるな。これは、我が家に伝わる秘奥。魔術の起動速度を底上げするものだ」


 知っている。


 当然知っている。


 それは僕が開発したものだ。


 だが、僕が開発したそれよりも、ずっと洗練されていて滑らかだ。


 つまりは、


「それがアルフレートの魔術?」


「その通り。どの家にも伝わっていない先祖直伝の技だ」


 どうやら、僕の名をただ騙っただけじゃないらしい。


 本当に僕の技を継ぐ者が、僕の魔術を超えた魔術を創った。


「・・・そういえば、この学校の創始者の名前を聞いてなかった。よかったら教えてくれるか?」


「そんなことも知らずにここに来たのか? 呆れた奴だが教えてやろう。ロイド・アルフレート・ゴータ。それが創始者。アルフレートの孫の名だ」


「・・・孫、か」


 当然知らない。


 孫なら僕よりも二世代先ってことだからな。


「孫っていうなら息子は誰だ? その創始者の親の名は?」


「ふ、この学校を去る前に聞いておけ。ロック・アルフレート・ゴータ。アレフレートの息子だ!!」


「ロック!?」


 ロック。

 ロックだと?


 僕の最後の愛弟子。


 僕が置いていってしまった可哀そうな弟子。


「・・・そうか。ロックか」


 僕は天を仰いだ。


 それなら、仕方ないか。


 僕は彼に何も相談することなく、輪廻転生の魔術を実行した。


 彼は東側の魔術を毛嫌いしていたし、もし僕が輪廻転生の魔術を使うって言ったら絶対に反対しただろう。


 それは僕がその場で死ぬことと同義だから。


 それを解っていたから僕は無断で実行した。


 何と身勝手で愚かなことか。


 そのロックが、僕の息子を名乗って、その知識を更に彼の息子に託したか。


「ははは!」


 思わず笑いが零れた。


「はははははははははは!!」


「ふ、気が振れたか?」


「いやいや、お前には解るまいよ」


 彼が僕を許せなかったのかどうかは解らない。


 だけど、彼は基礎しか教えていない僕の魔術をしっかりと引き継ぎ、僕でも到達しえなかった技へと昇華させた。


 喜びと悔しさが綯交ぜとなったこの気持ち。


 こんな若造には決して解るまい!


「よかろう! 今度はこちらが挑む番だ! その高み、超えさせてもらうぞ!!」


「何を訳の分からないことを!!」


 再び起動の早い火炎球を放ってくる。


 僕はそれを丁寧に防御し、徐々に徐々に後ろへと下がった。


「ははは! 何を思って笑ったのか知らんが、防戦一方か!」


「黙れ小僧が!」


「な、何を! 同い年で粋がるなよ!」


 怒りと共に魔術を使い続ける。


 確かに防戦一方だ。


「やっぱりアイツ、不正で入学したんじゃないか?」


「そうだな。大したことない」


「・・・どうだろう?」


「おい、お前あいつを擁護するのか?」


「そんなつもりないけど、出来る? あれを防ぎ続けること?」


「いや、それは・・・」


 お、会場で意見が割れてる。


 解ってくれるこの苦労?


「終わりだ!!」


 止めとばかりに今日最速の火炎球。


「ふっ!」


「はぁ!!」


 そして、僕も最速の火炎球だ!!


「な、なんだと!?」


 僕とクラウスの丁度中間で互いの魔術が命中。

 対消滅した。


 それは即ち。


「おおおおおおおお!!」


「な、なんだあいつ。クラウスの魔術起動についてきたぞ」


「あり得ない。だってあれはあのアルフレート考案の魔術だろう?」


「い、いや、正確には彼の息子、ロックが完成させた魔術だ。それを田舎者の不正者が使えるわけが・・・」


 そう、僕が考案してロックが完成させた魔術だ。


 つまりは、例えるなら、僕が作ったシチューにロックが隠し味を追加し、さらに美味しくした料理だ。


 ならば、途中工程までは解っている。


 何を加えればロックの魔術まで至るのか、それを掴むのにそれ程時間はかからない。


「ば、かな・・・」


 茫然と突っ立っているクラウスに向けて、僕は杖を突き出す。


「終いか? もっと秘奥を見せろ」


「な、何?」


「彼はこれ以外に何を残した? もっと見せろ。彼の全てを。僕にそれを見せてみろ!」


「な、何を言って・・・」


「決まっている。その全てを踏破して、僕は更なる高みへと至る!!」


「こ、この、狂人が!」


「それこそが魔術師だ!!」


「くそお!」


「はあぁ!!」


 二人の炎が同時に放たれ、中間地点で対消滅。


 全くの互角。


「どうした! 他を見せろ」


「こ、このぉ!!」


 ボン、ボン、ボボボン!!!!


 行き交う火炎。


 放たれては互いに打ち消し合い消えていく。


 それを何度か繰り返し。


「・・・なんだ、他にはないのか」


「ぜぇぜぇぜぇ」


 クラウスは魔力を大分消費した。


 それでもまだ奥の手を出さないとは、これ以上はないということか。


 本当にロックの魔術がこれで終わりなのか、十五の少年にはゴータ家も全てを教えていないのか。


 後者だといいな。


「こ、これならどうだ!」


 クラウスは魔術を展開。


 今度は氷魔術か。


 僕は水魔術を使う。


 飛んできた氷を水で受け止めた。


「・・・あ」


「魔術を変えてもレベルが同じなら変わらないぞ。ほら、別の魔術だ。さっさとしろ」


「ううう」


 本当にないらしいな。


「せっかくお前の速度に合わせてやったのに」


「なっ、お前手加減して?」


「同じ魔術なら地力がものをいうだろう。お前が僕より上だとでも?」


「ぼ、僕を馬鹿にして・・・」


「なら、そろそろ終わりにするか」


「舐めるなぁ!!」


 ボン!!


 再び火炎が飛び交い、僕は衝撃波で大きく後退した。


「おっとと、後ろには壁が」


 これ以上は下がれない。


 先程まで余裕がなかったクラウスの目に余裕が戻る。


「ははは! 大言壮語も結構だが、もう後がないぞ」


「なら来い」


 ちょいちょいと指で挑発すると、クラウスは見事なくらいに乗ってくれた。


「己ぇ!」


 一歩駆け足で前へ。


「ばーか」


 足にツタが巻き付いて、クラウスが前のめりに倒れた。


「あぐぅ!」


「あ、あれって」


 後ろでメリアが声を上げた。


 そう、さっきの女生徒が使った魔術だ。


 僕はそれを任意発動のトラップとしてクラウスが転んだ場に仕掛けておいた。


 魔術を盗んだって程でもない。


 彼女は咄嗟に使った為に魔術に綻びがあったので、解析しやすかった。


 だから出来ただけで、彼女の魔術が単純だったというわけではない。


「う、ぅ。くそ」


 クラウスは転んだ拍子にカランと杖を手放した。


「お前には確かに才能がある。だけど、足りない。経験が足りない」


「何おぉ」


「対人戦闘は何度目だ? 最初に僕が回避しながら反撃したら驚いたな? 交互に撃ち合うだけが戦いじゃないぞ」


「知った風な口を叩くな。この野蛮な田舎者が!」


「へえ」


 僕はニヤリと笑ってクラウスに近づくと、アイツの杖を蹴っ飛ばして眼前に立つ。


「これでチェックだな」


「うぅぅ」


 杖を突き出して先端に魔力を灯す。


 この距離で火炎を放てば、火傷では済まない。


「だけど、お前は面白いことを言ったな。チャンスをやろう」


「な、チャンス?」


 僕も杖をほっぽり、ツタをほどいてやる。


 そして、拳を突き出した。


「野蛮な田舎者の流儀に倣い、これでいいなら、続けよう」


「・・・殴り、合えというのか? この僕に」


「嫌なら言ってくれ。僕は勝利宣言をする」


「く、くそうおおおおおおお!!」


 クラウスは立ち上がると同時に僕の顔目掛けてアッパーを狙う。


「いいね、先制は大事だ」


 首を振り、それを躱すと、代わりに打ち下ろしのチョッピングライトを顔面に叩きこんだ!


「ごぼぉ!」


 まともに貰い、尻もちを着くと、そのまま顔を手で押さえ、よろよろと後ずさる。


「痛ってぇ。この体で人を殴ったのは初めてだっけ。殴る鍛え方をしてないのに。なあ、僕の村は穏やかで、野蛮でもなかったぞ」


 手をプラプラと振ってみる。


 手が赤くなっちゃったな。


「・・・喧嘩の経験がないのか?」


「ないなぁ」


 少なくともこの体では。


「こんな、こんな奴にぃ!!」


 クラウスは腕をクロスさせ、そのままタックルを決行した。


 おお、悪くない判断だ。


 僕のパンチじゃこれは止められないな。


「ああ、そうそう」


 ドスゥ!!


「が、、、」


「拳で戦いを示唆したけど、足も出す」


 クラウスの腰に回し蹴りを叩きこんだ。


「ぐ、うううう」


 クラウスは前のめりに倒れ、脇腹を押さえてのたうち回る。


 あ、これはいいのが入ったな。

 多分折れた。


「やれるか? 無理か?」


 クラウスはビクンと震え、それ以上立ち上がろうとはしなかった。


 僕はゆっくりと拳を突き上げ、勝利を闘技場に伝える。


 その瞬間、闘技場に大勢の声が響き渡った。

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