第11話王都へ
昨日、毒を盛られたお祖父ちゃんはすぐに解毒出来たけど、それで即全快とはいかず、会場となった領主様の屋敷で療養中だ。
アドルフ叔父さんはヨハネスをしょっ引いて王都に帰ったけど、お祖母ちゃんは付き添っていた。
僕らは魔術学校に通いたい旨を伝えると、お祖父ちゃんはその場で頷いてくれた。
「なるほどな。いいだろうなんとかしよう」
「本当! お祖父様!」
「かわいい孫が頼ってくれたのだ。昨日助けられた恩もあるし、あの場で瞬時の判断で雷属性の高等魔法を使う程の才能を、活かさない手はあるまい」
この世界には攻撃魔法が八つ存在する。
地、風、水、火の四大属性を基本に雷、光、闇の上位属性。そして“極”の八属性だ。
あの場では今にも斬りかかろうとしていたヨハネスを止める為に八属性最速の雷を使った。
つまり僕は、威力はさしてなかったが、上位魔法を使用した点を評価されているんだ。
「ありがとうお祖父様」
「そうと決まればさっそく手続きじゃ」
さらさらと手紙をしたためるとそれをお祖母ちゃんに手渡す。
「早馬で学校にこれを渡してくれ」
「分かりましたわあなた」
お祖母ちゃんはすぐに動いてくれた。
お、おお。
今年は無理だと思っていた魔法学校の入学がこんなにとんとん拍子に進むとは、貴族なんてどうでもいいと思っていたが、すげぇ!
「となると、王都に引っ越さなければならないのだが・・・」
まあ、当然そうなるだろうね。
あの村には沢山の思い出があるし、離れがたくはあるけれど、やっぱり魔術を学びたいという気持ちに嘘はつけない。
「お祖父様。その辺り、小さな家でもいいのでなんとか手配出来ませんか。お金はアルバイトでもなんでもしてコツコツ返しますから」
正直勉強に明け暮れたいが、学校に通えるだけでも御の字だ。
コネで入ることが出来るだけでもありがたいのに、これ以上会ったばかりの祖父に迷惑をかけるわけにはいくまい。
「何を言っとる。王都にはアルベルト家の別荘がいくつもある。それを使えばよかろう」
別荘!?
「いや、侯爵家の別荘となると、大分大きいのでは? 一人で生活するには大きいと」
「使用人を何人か当てよう」
「ええ!? いや、学校に通わせていただくだけでも十分ですから」
「アルフよ」
お祖父ちゃんは少し寂しげに僕を見る。
「この十五年。わしは直接にはお前に何も出来なかった」
や、支援金をくれただけで十分なんだけども。
「命の恩人云々はこの際どうでもいい。どうか、かわいい孫に格好をつけさせてくれ」
「・・・お祖父様」
断りにくい提案上位に当たる『恰好をつけさせてくれ』が来ましたよ。
やるねお祖父ちゃん。
昔はモテたと見える。
で、これを言われてしまった以上、ここは乗るの一択である。
「よろしくお願いします!」
「ほっほ。嬉しいものよな」
そう言って、お祖父ちゃんはニコニコと笑った。
僕は母さんに視線を移す。
「そういうわけで母さん。王都に引っ越すよ。寂しい思いをさせるかもしれないけど、村の皆と仲良くね」
ゼクスなんて、滅茶苦茶母さんにアプローチしたくて色々世話を焼いてくれる筈だ。
だが、まだまだ母さんは渡さん。
「ん? 何言ってるの。わたしも行くわよ?」
「へ!?」
僕は目を丸くした。
「いや、だって、母さんは王都に帰るのは、アレでしょう?」
敢えて“アレ”と言ったけど、お祖父ちゃん達との確執がある。
本当は戻りたくない筈だ。
母さんは面白くなさそうに、お祖父ちゃんを見る。
「使用人がいるとはいえ、アルフが王都でやっていけるか心配だもの。お父様はそれを見越して、アルフを王都に呼ぶつもりなのでしょう?」
「・・・何のことかな?」
なるほどね。
僕にいい格好を見せたい。
母さんに戻って来てほしい。
その二つを狙ったわけか。
一石二鳥。
やるねお祖父ちゃん。
出来る男だ。
「はぁ。確かに村からじゃ学校には通えないし、お世話になるわけだし、戻るしかないんだけどね。別荘であって、実家に戻るわけでもないし」
「おお!!」
「でも、勘違いしないでよね。ミゲールとの事。まだ、許したわけじゃないからね!」
「いや、そのことは。まあ、その怒り、受け止めるしかあるまいな」
「ふん!」
うーん。
やっぱり完全に和解とはいかないね。
零歳の時の記憶を思い出したので、僕は父さんとの記憶を大事にしているから、お祖父ちゃんには思うところはあるけれど、貴族として仕方のないことだというのも解っている。
その辺は、前世の記憶を取り戻して、物分かりがよくなった部分はあるな。
そんなことを思っていると、母さんがちょいちょいと僕を呼ぶ。
「何?」
「それにね、アルフレートのことを知っている人間が一人いるほうが、今後立ち回りがよくなると思うのよ」
そう小声で言った。
確かにね。
ごもっともだよ。
僕もその点は大変に心強い。
「分かったよ母さん。これからもよろしくね」
「勿論よ。だってわたしはアルフのお母さんなんだから!」
いや、本当に良い人に産んでもらったと思うよ。
*********
手続きは完了し、僕は来月から魔術学校に通えるようになった。
そして、通学の為、僕と母さんは王都エジベラに引っ越す当日。
「ううう、カレンさーん」
「あらあら、泣かないでねゼクス君」
「ううう、お、俺も王都に行きたい。しかし、俺が行くとこの村には大工が他にいないし」
「そんなに落ち込むなよ。ゼクス」
「あ、兄貴もいなくなって俺はどうしたら?」
こいつ、僕のことずっと兄貴って呼ぶなぁ。
そっちの方がずっと年上なのに。
でも、なんだかんだでこいつには世話になったな。
「また戻ってくるかもしれないよ。その時はよろしく!」
「そうね。何時まで王都にいるかは分からないし、この村も大好きだからね!」
「カ、カレンさーん。兄貴―!」
若干うざいな。
それと、僕に抱き着くのはいいけど、母さんにはやめろ。
「ついにこの時がきたか、カレンよ」
「村長さん」
「君がやんごとなき人物だとは分かっている。だが、ここが君の第二の故郷だということは覚えておいてほしい」
「勿論。わたしもそのつもりです!」
「ふふ、ではいってらっしゃい、だな」
「「「いってらっしゃーい!!」」」
「「行ってきます!!」」
村の皆に見送られ、僕たちは王都エジベラへと赴く。
遂に、遂に、魔術を学べる。
僕の転生した真の意味を、ようやく実現させることが出来るんだ!
*********
王都エジベラ。
人口十万の大都市。
僕の時代だと一万強だったから約十倍だな。
西側諸国を見渡してもこれだけ発展している国は珍しいとのことで、商人はこぞってこの都には足を運ぶらしい。
国土は非常に広く、未だ未開拓な地が多くあり、冒険者の聖地とも言われている国だ。
冒険者か。
前世の時代にはいなかった職種だね。
モンスターを倒したり、未開の地を探索したり、誰かを護衛したり、貴重な鉱石、植物を採取したりと与えられるクエストは実に様々だという。
かくいう、僕もこの冒険者ギルドに登録し、冒険者になりたいと思っている。
僕の時代にはモンスターなんていなかったのだ。
それが何故、この五百年で出現したのか、実に興味がある。
貴重な鉱石も植物も、魔術の貴重な触媒になるし、本来ならライフワークになる筈だったのに、お金も貰えるなら一石二鳥。
是非とも登録したいところだね。
役所もあるし、他にも美術館や図書館等の国民にも教養を高めるための国運営の公共機関まである。
銀行なんてのもあるらしいぞ。
素晴らしい。
「ここが王都。ふーん、はー」
「ふふ、お上りさんね」
「お上りさんだからね」
「やっぱり五百年前とは違う?」
「全然違うね。滅茶苦茶発展してるよ。この辺りは昔はただの森だったし」
「そうなんだ?」
歴史の重みを感じる。
そうだよ。
こういうのが知りたかったんだよ!
ほほう、この建築技術は僕の時代にはなかったね。
あっちの施設はなんだ?
おお、都内の簡単な地図と掲示板が!
なんと親切!
「アールーフー。そろそろお屋敷に行くわよ」
「待って母さん。あの施設を見たい」
「後でね」
「くぅ!」
僕は引きずられるように、お屋敷へと連れて行かれた。
待っていろよ。
必ずまた来るからな!
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