第10話言うべきか、言わざるべきか
「ん、んん。さて、話を聞こうじゃあないのよ」
母さんは咳払いすると、開き直ったのかいつものペースに戻っている。
あれから、僕はあの遺跡を魔法陣ごとぶっ壊した。
その後で、母さんと家に戻って来たわけだ。
母さんはこれまでの事情を聞こうと身構えている。
さて、どう話したものか。
まずは、僕自身が自分の状態を把握する必要がある。
まず人格面。
これの主人格は僕となる。
いや、良かったと思うよこれで。
いくらなんでも150過ぎのじー様が、子供を演じるのは無理があるよ。
ひょっこりと前世の人格が表に出ることがあるかもしれないけど、主人格はあくまでも僕。
さて、肝心の記憶だけど、これは完全に思い出した。
知識も、経験も、全てが僕の中で統合された。
その中でもやっぱり魔術の知識が莫大であり、厚い魔術書何十冊よりもはるかに多くの知識が今、僕の中にある。
魔力量も膨大で、なんと今世の僕の百倍。
僕の魔力量を数値化して、百だとするとつまり万になる。
このじーさんマジでバケモンだぞ。
僕でもあるけど。
僕は前世、アルフレートの生まれ変わり。
この体にはそれだけのポテンシャルがあったんだ。
僕はその力の引き出し方を分かってなかった。
さて、取り合えず確認するのはこれくらいでいいかな。
では、母さんになんと説明するか。
「お母さんはもう何を言われても大丈夫だから。どんとこい!」
どんと来いっすか。
母さんを見ると、真剣な目で僕を見ている。
これなら辻褄合わせで何を言っても大丈夫だ。
転生なんて言っても信じては貰えないし、混乱を招く。
それはお互いにとっていい結果にはならない筈だ。
だから、
僕は、
「母さん、僕には前世の記憶があるんだ」
ありのままを母さんに打ち明けた。
「ア、ア、ア、アルフレートォ!!」
「ちょ、母さんもっとボリューム落として」
僕は耳に指を突っ込んだ。
「だ、だって、アルフレートよ、アルフレート。五百年前の偉人よそれ!」
「へー、そうなんだ」
そう。
前世の僕が没してから、なんと五百年が経っていた。
百年から二百年くらい先だと思っていたんだけど、まさか五百年とは。
「ま、まさか、うちの息子がアルフレートの生まれ変わりなんて」
母さんは俯いた。
やっぱりそうなるよな。
だけど、無理だろ。
あんなに真剣で、真摯に向き合ってくれる人に嘘を言うなんて。
これで今度こそ関係は破綻かもしれない。
自分でも馬鹿だとは思うけど、まあこれは性分だな。
母さんは震えながら手を上へと突き出した。
「勝ったわ」
「へ?」
「勝ったあーー!」
「か、母さん?」
「まさかアルフがそんな凄い人の生まれ変わりなんて! これは人生勝ち組よ!」
「い、いや、それはどうかなぁ?」
「謙遜はダメ。前にも教えたでしょ?」
はい。
そうですね。
「まー、それなら隠していたのも納得だわ」
うんうんと、母さんは頷く。
「いや、記憶が完全に戻ったのはついさっきで、今までは漠然とした感じで」
「そうなのね? でも、今は完全復活ってわけなのね?」
完全復活て。
なんかそれ、封印された大魔王の復活みたいな響きで嫌だなあ。
「・・・信じるんだね」
「え?」
「いや、こんな突拍子のない話をすぐに信じるんだなって思ってさ」
すると母さんはキョトンとして、
「当たり前でしょ? 信じるって言ったじゃない」
あ、やべ。
記憶が戻って涙もろくなったかも知れん。
僕は目頭が熱くなるのを感じながらニカッと笑う。
「いや、母さんが僕の母親でよかったって思ってさ」
「何よ急に? まあいいわ。感謝するがいい」
「大物だなぁ」
「えっと、それでね。アルフはもうアルフレートさんなの? かな」
「ああ、違うよ母さん。僕は今まで母さんに育ててもらったアルフだよ。まあ、人格が統合されたからちょっとお爺ちゃんみないになるかもだけど、僕は僕だよ。心配しないで」
「そっか、は~よかった。そこは安心ね」
ホッと胸を撫で下ろしたと思ったら、また眉をひそめる母さん。
「ん? じゃあ、わたしはアルフの母親でいいの? 前世のアルフレートさんのお母さんが本当のお母さん?」
「いや、違うよ母さん。西側にはない考えだけど、東側には魂は廻るものとされているんだ」
「廻る?」
「死んだら魂は肉体から離れる。でも、再び違う肉体へと移り、転生するって考えだよ。僕は単に前世の記憶があるだけにすぎない。だから、母さんから生まれた僕は間違いなく母さんの子だ」
「ほう? ほうほう。なるほど」
あ、解ってませんよこの人。
「あ~、そうだね。だから母さんにだって前世の記憶がないだけで転生してるんだよ?」
「え、そうなの?」
「うん。僕が母さんの子じゃないとするなら、母さんはお祖母ちゃんの子じゃなくて前世の母親の子ってことになる。それだと変じゃない? 要は覚えているかいないかの違いだよ」
「ふーむ。なるほど解ったわ。赤ちゃんの時の記憶は大人になると覚えていないけど、わたしがお母様の子供みたいな感じね」
うん?
今度は何言ってるか僕の方が解らないんだけど、まあいいや。
「あ、そう。赤ちゃんの記憶と言えば」
「ん?」
「アルフレートさんが、あの時山賊からわたしを護ってくれたのよね? 本当なら魔術の研究をしたいのに、記憶を代償にして」
「ああ、あの時か、そうだね」
記憶が戻ったからあの時のこともしっかり頭にあるぞ。
「ありがとうございました。おかげで助かりました」
そう言って母さんは僕に頭を下げた。
「い、いや、いいんだよ。むしろ記憶が無くなって、そのままだと赤ん坊のまま死んじゃうところを母さんがいてくれたからこうして」
「あなたには言ってないわアルフ。わたしはアルフレートさんに言ったの」
や、それも僕なのですが、まあいいや。
「このことは絶対秘密で頼むよ。馬鹿にされるだけならいいけど、西側だと下手すると異端審問にかけられそうだから」
その辺、五百年経っても考え方変わってないんだよな。
そもそも、未だに東側と交流がないのか?
「解ってるわよ、それくらい。で、えーと話をずいぶん前に戻すんだけど」
「うん?」
「やっぱり魔術学校へ行きたいの? もう学校で覚える事なんてないでしょ?」
「そんなことはないよ母さん!」
僕は前のめりになって、母さんの説得を開始する。
「僕が転生したのは未来の魔術を知り、学ぶことなんだ。なんたって前世が五百年前の人間だからね。今の魔術がどんな発展を遂げているのか是非知りたい!!」
そう言って母さんの手を掴んでブンブンと振った。
「お、おう。今まで以上の食いつきねこれは」
「そんなわけで、なんとかならないかな?」
「ふっふっふ。お母さんに任せなさーい」
「おおお、頼りになる!」
「お父様に相談しましょう。侯爵家の力でねじ込んでやるわ」
「・・・なんだコネか」
「それも含めてお母さんの力よ!」
凄いね、この開き直り。
「善は急げ。領主様の館に行きましょう」
「うん!」
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