第4話神童
「スープ♪ スープ♪」
大したことやってないのに褒められて、スープが飲めて、最高だな~。
でも、大人は僕を神童って言ってるし、僕が簡単だと思ってることが実は凄いことなのかな?
もしや、本当に僕は天才? へっへっへ~。
ズキィーー!!!!
「っつ!?」
酷い頭痛がして、僕は思わずうずくまった。
「アルフ!?」
お母さんが驚いて駆け寄って来る。
いつもなら無理してでも心配させないようにするけれど、今は自分のことで精いっぱいだ。
痛い痛い痛い!
まただ。
僕が大人よりも凄いって思うたびに、凄い頭痛がする。
まるで“調子に乗るな”、“慢心するな”と、言われているみたいだ!
「分かった。いい気にならないから、許してよ!!」
そう言うと、痛みは嘘のように引いていった。
でもまだ、胸の動悸は収まらないし、汗もかいている。くそ、なんなんだこれ?
「アルフ、大丈夫なの!?」
「う、うん。大丈夫だよ・・・」
これ以上、心配かけたくない。
僕は努めてニッコリと笑った。
「・・・よかった。たまにあるわよね。やっぱり一度お医者様に」
「だ、大丈夫だよ。平気平気」
「でも・・・」
「ほんとに平気。きっと神様が大したことやってないのに調子に乗るなって言ってるんだよ」
もしかして、本当に神様? まさかね。
お道化て見せると、お母さんは僕を優しく抱きしめた。
「お母さん?」
「アルフ、あなたは賢い。本当に凄いわ。でもね、そんなことが出来なくてもいいの」
「そう、なの?」
でも、なんでも出来た方がお母さんを楽にしてあげられるんじゃ・・・?
「あ、今お母さんを楽させたいとか考えたでしょ?」
「え!?」
「お母さんだってそれくらいは判るのよ。だってアルフのお母さんだもの」
「・・・お母さん」
「無理しないでねアルフ。アルフが健康に育ってくれればこんな嬉しいことはないわ。それだけでいいの」
「うん。でも・・・」
「それにね、あまり出来過ぎると周りから変な目で見られるよ」
「あ~」
それはそうかも。
今はまだいいけど、これ以上になると気味悪がられるかもしれない。
僕は大きく頷いた。
「解ったよお母さん。やっぱりお母さんは凄いな~」
「どうして?」
「僕、そういった人間関係とかよく分からないもん」
「ふふ、アルフに勝てるところがあったのね。でもね」
「ん?」
「“人間関係”なんて言葉を使うこと自体、普通の五歳児じゃないわ」
「そ、そうかな?」
「ふふ、そうよ」
普通の五歳児って難しい!
*********
「え!? 井戸の滑車が直った?」
ゼクスは口をぱかんと開けて、まぬけ顔を作る。
「そうだよ。アルフが簡単にな」
こんな時くらい役に立てと、村人は目を細めてゼクスを睨んだ。
「は、はは。そうか。まあ、よかったじゃあないか・・・」
「お前、このままじゃアルフに存在意義持っていかれるぞ」
冗談半分に村人は笑って行ってしまった。
ゼクスは顔を引きつらせ、自分の家に戻ると地団太を踏む。
「くっそ~。アルフの奴。せっかく歯車を外して村の皆に、いや! カレンさんにいいところ見せるチャンスだったのに!」
「へー、やっぱりそうなんだ?」
「だ、誰!?」
物陰に隠れていた人物はひょっこりと顔を出した。
アルフである。
*********
「ア、アルフ。お前なんで俺の家にいるんだよ?」
バリバリの動揺しながら、ゼクスは僕に指さす。
「ひょっとしたらボロを出すと思って」
「ボ、ボロ?」
「とぼけちゃってー。あの歯車を外したのゼクスなんでしょ? つまりは自作自演をして、人気者になってお母さんのポイントを上げたかったんだ」
「う、何を証拠に」
「・・・今自分で言ってたじゃん」
「ぐ」
「それに、なんで〝滑車が直った〟ことに驚いてるのさ? そこは〝自分の留守中に、滑車が壊れてたけど、僕が直した〟って驚くとこでしょ?」
「お、お前さっきの聞いて・・・」
ふっふっふ。
お前がずっとお母さんに色目を使っているのは分かっているぞ。
僕の目がワンコのようにつぶらな瞳のうちは、ぜっっったいにやらないからな!
「ぐぅう。こうなったら、仕方ねぇ」
そう言うとゼクスは僕に向かって腰を落とす。
「ゼクス!?」
まさか、僕を亡き者にするつもりじゃないだろうな!?
どうする?
逃げる? いや、出入り口のドアはゼクス側だ。
悲鳴を上げる? ド田舎だから家の間隔が広いからな。
すぐに気が付いてくれるか微妙だ。
戦う? いや、ないだろ。僕五歳児だぞ。
僕の中でいくつもの案が生まれては消えていく。
僕がゼクスに勝てるのは“口”かな。
なんとか喋り続けて隙を突くしか。
「アルフーーー!!」
「しまっ!?」
ヤバい。
ゼクスが凄く高くジャンプして、宙でグルグルと回転。
そして、
「ジャンプスクリュー土下座ぁーーーーーー!!」
「・・・へ?」
ゼクスは僕の目の前で着地と同時に土下座した。
「すまんーー!! 出来心だったんだ。俺って村の中だとあんまり目立ってないからここで活躍すればカレンさんにいいところ見せられると思って、言いつけるのだけは勘弁してくれー!!」
ズルりと服が肩から垂れ下がった。
そうだよね、ゼクスだもんね。
僕を口封じする度胸なんてあるはずなかったんだ。
「うーん。どうしようかなー?」
「頼んますアルフさん。ここは一つ内密に!」
どんだけ低姿勢なんだよお前。
僕五歳。
「そ、そうだ。お前お菓子好きだろ? これで勘弁してくれ」
ふっ、お菓子だって? そんな物で僕が懐柔されるとでも、
「二つ、いや、三つやる!」
「手を打とうじゃあないか」
「お、おお。ありがとうアルフさん」
すっかり“さん”付けになってしまった。
僕らはぐっと握手を交わす。
「いい取引だったね」
「これからもよろしく頼んます!」
今後、ゼクスは僕を事あるごとに兄貴と呼ぶようになったのだが、他の人がいる前ではやめてもらった。
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