第658話 どうやら間に合ったようだ
まだ敵の猛攻は続いていた。というより、途切れる事が無い。
暗闇の中、壁の途中で幾つもの大小無数の爆発が起こっている。
そろそろ限界を感じ、フランソワの火薬を解禁したのだ。
最悪の場合、壁が損傷する危険もある。
だがそれ以上の最悪が、もうすぐそこにまで迫ってきているのだ。
「
「ああ、
壁から見下ろす森の中。
召喚者の目でなければ見えないが、眷族の数が相当に増えて来た。
アレに登って来られたら、さてどうなるか。
対処できる相手なら良いが、教官組でも手こずる様な相手が混ざっていたら最悪だ。
「さて、北に行った連中はどうなっているだろうかね。もう全滅しているのならどちらにせよ終わりだが、生きていても、あまり時間をかけすぎては困ってしまうよ。しっかりと頑張ってくれたまえ」
そう呟いてはみるが、本体の強さは
ましてや予定していた神罰による一撃必殺を狙えないとなれば、猶更どうしようもない。
「
今は彼の言葉を信じるしかない。
必ず戻るからという言葉を。
◆ ※ ◆
壁の上から見る朝は早い。
そして眼前には絶望が広がっていた。
今までは森の中に青白い集団が混ざっていたが、今や絶え間なく青白い物が動く絨毯と言って良い密度で壁を登って来る。
「無理だと思う?」
というより、呟いたといった方が良いか。
答えなど期待していないのだ。
おそらく、全員が同じ事を考えている。
だがそれでも――、
「数が増えてもやる事は同じでしょ」
「そうそう」
「それに自分たちはあのときも生き延びたんだ」
「あたしのカモフラージュの中でやり過ごしただけの癖に」
「それでも生き延びた。それに、こっちの世界の私たちも生き延びてきた」
「2つの記憶があるこちらとしては、他の連中に後れを取るわけにはいかないね。そうじゃなきゃクロノス――おっと、こっちじゃ
「そうか……そうだよね。よし、頑張ろう」
魔の14期生の生き残りである
おかしくなった訳でも絶望した訳でもない。当然、余裕なんてありもしない。
それでも笑っていた。
どんな結果になったとしても、この4人で戦えるならそれで満足できる。
そう思っていたからだ。
青白い絨毯は昼には壁の7割ほどにまでに上り、遠くから見たら中途半端にペンキを塗った様に見えていただろう。
というか、実際にそう見えていた。
本来なら7日目にはラーセットに到着する予定だったブラッディ・オブ・ザ・ダークネスと双子だが、4日目には移動中の群れの背後に出くわしてしまっていた。
ダークネス一人であれば距離を外せばいいだけだったが、双子と一緒だったのが災いした。
ただ雲霞の如く群がってくる敵に7日間戦いっぱなし。しかも敵には眷族も当然のように混ざる。
だがダークネスも双子も、未だに平然と戦っていた。
全員疲労というものは無いし、感染もしない。
ダークネスはスキルをそう気楽に使えない立場であるが、元々戦いにスキルは使えない。
無意味に一時的な一掃をする気はないし、どのみちクロノスの時と違ってこの体はもう外す事は出来ない。
完全に外れ切ってしまったものを、この殻に押し留めているだけなのだから。
他の者を連れて来なくて良かったと思いながらも、ただひたすらに剣を振るう。
しかしこうしている間も近隣にいる動物やモンスターが次第に感染し、さすがに3人だけでは減らす事も出来ない。
さすがに無限では無いにせよ、この近辺から全ての生き物がいなくなるまでこのデスロードは続くだろう。
「フフフ……我が闘争にはこれこそがふさわしい。幾らでも来るがいい。汝らが尽きるまで、いつまででも相手をしてやろう」
「さすがはダークネス様です」
「わたくし達もいつまでもお供いたします」
「うむ。さあ我に続け!」
こうして、ブラッディ・オブ・ザ・ダークネスは敵の群れの中へと飛び込んでいった。
◇ ◎ ◇
「今戻った」
「うわ!」
「ん? お邪魔だったか?」
「そ、そういう訳ではありません」
11日目の昼を少し過ぎた頃、
丸一昼夜、それも本物のジオーオ・ソバデを追いかけ回してやり合ったのだ。本来なら
ちなみにここにいるのは予定通り
そして丁度、
外が激戦の中、サボっていた訳ではない。
ただ事前の準備は全て完了している。本番は
ただ待つしかない重圧に
とはいえ、
もっとも、
ある意味、経験し過ぎるのも考え物ではある。
「取り敢えず、第一段階は終わったよ。予想をはるかに上回る戦果だ。大成功だよ。だが予定以上に犠牲が出た。それだけに残った
「では」
「ヨルエナにも苦労を掛けるが、一気に再生させる。やる事は前と同じだからな」
「こちらはいつでも大丈夫でございます。どのようなご命令にも従います」
そう言って片手を胸の下に入れてお辞儀をするが、なんかもう谷間がドンと来て頭にもドンと来るものがある。しかもどのような命令にも従うとか言われてしまうと……。
でも
はい、それどころではありませんね。
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