第644話 まだ互いにゆっくりだな
「それではクロノスの名において、マージサウルに赴き世界を脅かす一つを永久に取り除く。各員、出陣!」
ロンダピアザ全てに中継されていた
まあ実際戦場になるのはここになる可能性が高いんだけどね。とてもそうは言えない。
そうしないための努力はもちろんするが、おそらく避けられない。
「では行こうか。それじゃ、暫しのお別れだ」
「頑張ってねー」
「必ず戻って来いよー!」
「またお話ししましょうねー!」
「信じてるぞ!」
居残り組の激励の中、小さく一言――、
「死なないで下さいね」
セポナの声が聞こえた。
見れば召喚庁ビルを遠巻きに見ている中に小さな姿が見えた。
ああ、死なないさ。消えもしない。
セポナも、何があっても死ぬんじゃないぞ。
さすがに現地人の蘇生は無理だからな。
▽ △ ▽
こうして大月歴の254年11月26日。
静か雪の降る中、俺たちは北へと出発した。
そしてその翌日、早くも南方のイェルクリオで大規模な集団が動いたと報告が入った。
絶対にこのタイミングだと分かっていただけに驚きもしない。
当然ながら彼らはとっくに籠城態勢だし、やはり攻めてくる様子は無いという。
確実に揺さぶりだな。
出撃メンバーから一部を分けるか、それともラーセットに残ったメンバーを派遣するか。
奴の狙いは大体そんなものだろう。
だけどこちらは現地兵の軍隊を派遣しただけだ。
それも小国だけに、派遣できた軍勢は6千人程度。
それでも、これからラーセットを守る事を考えたら多すぎる数を割いた。武器や防具も、国庫を開いてかなり上質な物を持たせた。
なにせ、本体が牽制の為に眷属入りの群れを派遣してくる恐れがある。
基本的には逃げるように伝えてあるが、戦える数なら殲滅して貰いたい。
後は向こうが、その中に召喚者がいると勘違いしてくれたら万々歳だ。
当然こちらにも本当に主力かを確かめるための群れが送られてくるかと思ったが、残念ながら来なかったよ。
まあ本物か偽物かを判断するのは、戦闘になればわかる事だからな。
目的地までは10日。今は3日目で、時間は夜。流石に休憩中だ。
あと1週間で、いよいよ本体戦へと突入する。
当然だがうまくいく保障なんてない。
それよりもだ――、
「
「さっきそこで捕まえた大トカゲの輪切り焼きだがな」
「失礼ねぇ、ちゃんとパンに挟んであるわよぉ。さあ、どうぞ召し上がれ」
とはいっても……。
「まあ安心しなさい。毒は入っていないわ」
「食べるという行為そのものが毒でありますがなあ」
「
「何とかしろだなんて……酷い……」
蠱惑的な瞳から大粒の涙がポロポロとこぼれ落ちる。
彼女を知らなければ、思わず抱きしめているところだ――が、
「あ、それあたしが貰うわ」
「ちょっと! つぐみ!」
「相変わらず調理は上手だねー。みんなで食べよー」
ここは
それにしても、
それが今また一緒にいる。何とも不思議な光景だろう。
その点は、多くの者がそうだろうけどな。
それでも、この二人はなんか仲がいいように見える。
二人ともクロノスの死後に召喚されて、新人なのに
まあそれでも
そして向こうでは、
正確にはそこに至るまでの経緯だな。
大体の事は聞いているはずだが、やはり自分たちの死後に世の中がどう動いたのかは興味が尽きないだろう。
これまでもずっと休憩の時には訪ねて回っていたが、さすがに話す事はネタは尽きないという所か。
忘れる事の出来ない俺たちの数十年の生き様だ。いくら話しても話し足りない。
流石に私生活に関しては端折っているが、戦闘の話はやはり長いな。
あれだけでそれぞれ1年は話していられそうだ。
しかしわざとだろうが、
まあ俺もいつもは質問攻めだが、今日はさすがに無い。
厳密に言えば俺たちは10日くらい寝なくてもなんともない。
それでも体調は万全にしたいから、交代制で睡眠もする。
今日はそれが俺の番という訳だ。これもまた大事な任務だからね。
ただ今日は――、
「おじゃまするぞ」
「すると言われてもな」
こちらの話も聞かず、
まあ服は着ているけどね。これを服というのならだけど。
どちらかといえば下着だな。
こちらは薪を囲んで、毛布にくるまってそれぞれが寝ている状態だ。
ただ寝ていると言っても、全員が半睡眠状態。寝るというよりも、体の疲労を休めているような感じだな。
しかも
当然、全員の耳がこちらに向く。
いや、2人はちゃんと見張りをしろ……と思ったが、そこはさすがにベテラン。
気にもしないかのように見張りを継続している。
「まあ気にするな。少し寝物語でも聞かせてもらおうと思ってな」
「寝物語と言っても、何を話せばいいのやら」
「そうだな。ではクロノスの頃に奴を倒したのだろう? その事を教えてくれ。今の奴を倒すヒントがあるかもしれん」
「ヒントか……」
そうは言ってもこいつの服は横一直線の革バンドで胸を締め、そこから両肩のショルダーベルト。それに下からは左右から背中を通って腰のベルトに繋がるベルト。
どことなく
それでも圧迫された、それなりにある胸が強調されて気が散って仕方がない。
スレンダーで鍛え上げられた体。そして普段からあまり性を感じさせない口調なだけに、この雰囲気は色々きつい。
しかも焚火に照らされた生肌が意識に関わらず劣情をかき立てる。
ちなみに下はレザーの下着。正確には違うのだが、ブルマよりも面積が小さくて本当に下着の様だ。
まあ見せパンと言った方が分かりやすいか。
「それは良いが、くっつきすぎだろう。
「一つの毛布の中で話をするのだ。密着して当たり前だろう。なんなら手を出してもいいのだぞ。こちらの準備はいつでも出来ている」
「さすがにこの状況で手を出す勇気はねーよ」
「それは異な事を。以前のクロノスであれば、隣で小さな子供が見ていようがお構いなしだったぞ」
ダークネスさん……一体どこまで俺の評判を落とせば気が済むんだ。
まあアレも俺なんだが――……。
というか、お前も少しは気にしろ。
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