第558話 なぜ先輩だけが?
「あ、お帰りなさい」
「え?」
いや、状況を整理しよう。
俺は
うん、間違いない。なのに――、
「もう少し待ってね。これってなかなか難しくて、姿勢を変えるもが難しいの」
目の前にいたのは神殿庁でもらった真っ赤なバランスボールの上で、海老反りになっている先輩だった。
スポーツブラというにはあまりにも細く薄いブルーのブラと、一応その上から身に付けている半Tシャツ。
いやあれをシャツと呼んでいいのか? まるで意味を成していない。
普通に立っても、先っちょより上の丈までしかないぞ。
下は白のホットパンツ。いかにも運動をする服装で、それ自体には不自然さは無い。
神殿庁でも、先輩のスキルを使用した悪影響を解消するにはそれが最適だと言われていたし。
ただ問題は、なぜ俺の部屋でやっているかだ!
しかも逆さまになっているので、巨大な双丘が重力に逆らおうとしながらも下を向き、まるで役になっていないシャツがめくれてブラが完全に見えているという状態だ。
当然ながら――という言葉はおかしいが、ブラも細すぎて下乳までバッチリだ。
ちなみにお腹もだな。
普通の男だったら、こんなものを見せられたら色々と耐えられないぞ。
うん、俺で良かった。
「いったい何が有ったんです?」
「
ボールの上で海老反りになったまま、先輩は教えてくれるが辛くないのだろうか?
というか、運動なのだからそれなりに負荷をかけた方が良いのだろうが。
いやそうじゃなくて――、
「
呼び出されたというだけで不安だが、召喚庁という所がさらに不安だ。
というか、何処かですれ違ってしまったのか!?
「うん、それで
うわ、それは確かに断れない。表には出ないだろうが、
しかしそれならある程度は安全か。
誰に呼びされたかは分からない。
何せ、俺がフリーすぎる。
あの
となれば
「それで折角だからセポナちゃんに案内してもらう事になって、
「先輩はどうして残ったんですか?」
「その前に、ちょっと起こしてもらえるかな? 恥ずかしいけど、自分では動けなくって」
「まあそういうものですから」
そう言いながら手を伸ばすが、ものすごく目のやり場に困る。
なんだか期待した目で見られているし、
しかも当然ながら、ボールの上で反っているので両脚は開いている。
この姿勢はもうアレですよ。犯罪ですよ。
誰だこんな方法を考えたのは――と言ってもこればかりは人が決めたものじゃないしな。
とにかく姿勢を変えるために、脇から背中に手を回してゆっくりと持ち上げる。
運動後の高揚と完全に俺に身をゆだねている状況が、どうしても当時を思い出してしまう。
そう言えば、あの頃は完全に身も心も委ねてくれていたから、スキルの悪影響や精神的な不安定さは俺がスキルで可能な限りは外していたんだよな。
なんか懐かしくなるが、あの頃の関係には戻れない。というか、戻るわけにはいかない。
そんな事を考えている間に、先輩をボールの上に座らせるところまで来た。
「これで大丈夫ですか?」
「うん、ありがとう」
重力で上を向いていた二つのボールが、バインと元の位置に戻る。
しかし全く垂れないのは凄い。
「これで少し落ち着いたわね」
「スキルの悪影響の方はどうですか?」
顎に指をあてながら、うーんと考えるが――、
「今一つ自覚は無いのよね」
そりゃそうか。
「そういう
「今のところは大丈夫です。さすがに派手に使いまくるとケアが必要ですが、普段使っているだけならこの程度でも大丈夫なんですよ」
もちろん嘘だ。垂れ流されたスキルの悪影響は、確実に俺を蝕んでいる。
しかももう以前とは段階が違う。
今は精神が不安定になる事も無くなった。実に安定している。
ところがそれは、単に存在自体が希薄になっているせいだった。
今は何とかして自分をこの世界に繋ぎ留めなければいけない。
それだけ強くなったのだと誇りたいが、それでも本体の奴には遠く及ばなかった。
これではマイナスの方が大きい。
「全部嘘よね。今顔に出ていた」
……俺ってなんでこんなにダメ人間なのだろう。
「それに、もう全部知っているの。
そういえば、
忘れていたわけでは無いが、何とか深刻にはならないようにしてきたんだ。
でもそうか……。
「今の状況を準備したのは
となると、
ただ具体的な方針が決まっているわけではない。
単純に、改めて召喚者同士の戦闘や奪い合いを禁止させる程度か。
……いや、もしかしたら世界を滅ぼす
実際、次にいつどこに出るのかは分からない。
だけどやはり候補はラーセットを中心とした南北2国。
今の奴が、それ以上離れて逃げるとは到底思えない。
もしかしたら、奴の動きの方が早いかもしれないな。
「それと
「その状況で、よく先輩だけが残れましたね」
「私は
嫌な予感しかしないが……。
「その大事な用事っているのはね。えい!」
そう言って、バランスボールの反動も利用して俺に飛びついてきた。
避けるのは容易だが、本能が拒絶する。
しかもしっかりと足を引っかけられて、頭から倒れ込んだ。
油断したとはいえ、武術の心得がある事を完全に失念していたわ。
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