第534話 お前らなあ

 残り2人の片方は斯波裕乃しばゆの

 特にリーダーを決めていたチームではないが、いざという時に決断するのは彼女の役目だった。

 世間的にはそれをリーダーと呼ぶのだが、何と言うか中間点位だな。


 身長は163センチ。ウエストはモデルのように細いが、何処とは言わないが上下は結構大きい。

 長い髪は普段は後ろで束ねているが、今日は普通に広げている。

 どことなく全体から漂う雰囲気はお嬢様っぽいが、迷宮ダンジョンで見る彼女は完全に戦士だ。

 案外、姫騎士という表現が似合うかもしれない。

 決して口には出せないが、くっころとか言いそう。


 普段はきっちりした鎧を身に付けているが、今日はオフという事もあってかラフな格好……という範疇だろうか?

 肩までしか隠していないワンピースで、胸元に至っては上の部分は完全なフルオープン。下もおへそまで空いている。

 一応下半分はクロスした紐で留めてあるが、正面から見たら谷間どころか下まで一直線に丸見えだ。

 確かにこの世界では普通ではあるが、蔵屋敷くらやしきといい斯波しばといい、良くこいつらと平然と暮らしていられるな。

 案外もう関係を持っているのかもしれないけど。

 ウエストはDバックルの斜めベルト。下は膝上15センチくらいのスカートタイプなので、正直ソファに座っていると見えそう。

 あえて何がと言わない紳士な俺。


 スキルはポピュラーな―”肉体強化“で、それも甚内じんないさんに近いスピードタイプだ。

 だけど彼女の場合は武器を使っていたな。そう簡単には折れない太めのアーミーナイフだった。

 さすがに怪物モンスターを素手で殴るのは嫌だったらしい。

 慎重な性格で平時から予備も持ち歩いていたが、今は一本も身に付けていない。こんな世界なのに。

 さすがに周りを信用しているって事なのか、一応客人への礼儀という事なのかは分からないが。


 最後が伏沼至ふしぬまいたる

 さっき彼女がリーダーの中間と言ったが、彼もまたその立場だ。

 緊急時、先に判断した方に全員が従う。そうやって生き延びてきた。

 スキルは”垂直移動”

 眷属に襲われた時に生き延びたのも彼がいてこそだ。

 蔵屋敷里香くらやしきりかが天井にカマキリの巣のような退避場所を作れたのも、皆がそこに入れたのも、全ては彼のスキルがあったからだよ。


 そんな重要人物なのだが、170センチの身長にごく普通の体格。いわゆる中肉中背だな。

 そして特別ハンサムでもなければ、溝内信二みぞうちしんじのようなごつい顔でもない。

 本当に何処にでもいる感じで、友人でもなければ会って10秒で忘れるだろう。

 人相書きの時に一番困るタイプだが、なんだかんだで一番多いタイプともいえる。

 だからこそのモブ……いやいや、それは失礼だ。

 まあ服装が上半身を前後共にクロスベルト。乳首にはホタテ貝のような飾り。下は肌色タイツという服装でなければの話だが。

 べつに変態というわけでは無い。この世界では古くから伝わる伝統衣装の一つだ。

 日本人が着ていると変態だけどな。


 全員が興味深そうにこちらを見てる。

 ただそれにしても――、


「初めまして、成瀬敬一なるせけいいちと言います。今回は少々訪ねたい事がありまして……」


 そこまで言ったところで、いきなり蔵屋敷里香くらやしきりかはプッと噴き出した。

 しかもそれだけでは収まらなかったらしい。腹を押さえながら笑いをこらえているが堪え切れていない。

 それは彼女だけではなく、全員が笑いをこらえるのに必死という感じだ。

 俺はそんなにおかしなことを言ったか?

 だがその理由はすぐに分かった。


「いやー、クロノス様がそんなに畏まって――」


裕乃ゆのはまだいいだろ。俺なんて新しく召喚されたなんて言われたんだぞ。た、たまらん」


 これは良い笑いだ。

 心の底で、これを期待しつつ、実は99パーセント諦めていた。

 まあ少し後輩として話をして終わりだろう。そう思っていたんだよ、最初は。

 だけど、どこかこんな気はしていた。この家に入った時からね。

 ただ見た限りでは普通の召喚者に見えた。だけど今は違う。完全に力を押さえてやがったな。


「いつからなんだ?」


 取り敢えず笑いが収まるのは諦めて、ソファーにドカンと座る。


「そうそう、その自信がなさそうなくせにふてぶてしい態度がクロノス様だよ」


「それにしても若い。ねえねえ、触って良い? うわ、すべすべ。男子でも高校生ってこんなにつやつやなのね」


 斯波しばに思いっきり顔全体を撫でられる。

 もうおもちゃを見つけた子供のような目だ。


「人次第だろう。信二しんじなんて生まれた時からごつごつだぞ」


「見てきたような事を言うな! 否定はせんがな」


 再び湧き起こる笑い。

 平和だな—は良いけど、そろそろ解放……はしなくて良いや。

 これだけでもスキルの悪影響が軽減される。

 しかも目の前には触れられそうな距離になかなかのものが――いやいや、それはまあいいや。





 ◎     ※     ◎





「それで、どうなんだ?」


 やっと落ち着いたので、改めて本題に入る。

 彼らはまだこの世界に来て3年も経っていない。

 だけど明らかに、俺が見てきた新人とは違う。

 というより、最後に日本に帰した時の感じそのままだ。


 だけどそうだとすると、彼らはどうして召喚の間で目覚めなかった?

 俺や龍平りゅうへい程に強化されていなかったとしても、14期生はベテランだ。のんびり2日も寝ているとは思えない。

 それに力も他とは違う。

 向こうでの召喚者生活は34年間。これを新人と見るなら、みやも他3人も教官組も、全員目が腐っていた事になる。

 だけどそんなことはあり得ないだろう。だから俺も気にしなかった。

 風見かざみの話を聞くまではな。


「それが、自分たちにもさっぱりなんですよ」


「クロノス様に申請して、日本に帰してもらったじゃないですか」


「ああ。名残惜しかったが、希望だったからな」


「ところが気が付いたら、また迷宮ダンジョンにいるじゃないですか。意味が分かりませんでしたよ」


「最初は半分パニくったよねー」


「だけど落ち着いて考えると、前の記憶があったんですよ。この世界に召喚されてからその時までのね」


「それは3年近く前のか?」


「そう、そうなんですよ。正直言って、かなり気持ち悪かったですよ。自分が知らない自分の記憶があるんです」


裕乃ゆのなんて暫く呆然としていたよねー」


「そ、そりゃそうでしょっ! も、もうその話は良いから!」


 真っ赤になって否定しているのでちょっと不安が頭を過ったが、蔵屋敷くらやしきの様子を見る限り連中絡みでは無さそうだ。

 どちらかと言えば浮いた話か一時の過ちか。

 俺がクロノスの時は、そんなに性の乱れはなかったし。

 トップがあれだったのになと、ついつい自分で自分にツッコミを入れてしまう。


 まあ今はそんな事よりも――、


「詳しく教えてくれ。一体どんな変化があったんだ」

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