第515話 二人の気持ち
その頃、隣の部屋ではやはり
「そうなんだ。
「何も教えてもらえずにすぐ戻されちゃったみたいなんだけどね。ただ酷いのよ。
そう膨れながら話す
「それはうーんと……秘書みたいな感じだったんじゃない?
「それがねー、もう何人もの女性と関係を持ったんだって」
「え……」
妹の目が据わっている。これは間違いなく嘘は言っていない。
それにしても、そんな告白をしてなぜ敬一君は無事なんだろう?
「こっちに来てね、事情を話してもらったの。
「スキルの悪影響? これって何か問題があるの?」
「それは明日からの講習で聞くことになるんだけど、スキルは使い続けるとどんどん精神面が不安定になって来るんだって。その解消方法は人それぞれなんだけど……あの……
「その?」
「解消するには女の人とえっちな事をしないといけないんだって」
長い沈黙が支配する中、考えに考えて――、
「スキルに関して詳しい事とか、お姉ちゃんまだ何も知らないの。だから今ここで簡単に答えるのもどうかとは思うけど、やっぱり
確かにその程度の事は
腹を切らせようとしたのだって、半分は脅しでしかない。
ただ話したいのはそんな事ではないのだ。
今度は
「ねえお姉ちゃん。お姉ちゃんって、
「な、な、な、何を言いだすのよもう!」
顔を真っ赤にしてぽかぽかと殴る。
だがそれでも気持ちは落ち着かない。
「お、お茶でも入れるわね。ええと……あ、あった。これがマニュアルね。お茶の淹れ方は……これね。ええと、青い粉が日本人向けで、緑の粉が現地の人が訪ねてきた用と……な、なんだか面白いわね。それでお湯は……」
「詳しい事は教えてくれなかったけど、
「え、初めてこの世界に召喚? 追放? どういうことなの?」
「私もこんがらがっちゃって、上手く説明できないの。でも
だけど、妹やそれを話した
「そこで生きるために何人かの女性と関係を持って、何とか地上に出て私たちと合流しようとしたの」
「うん、そんな状況なら仕方なかったのかもだけど……」
とは言いつつ、”何人かの女性と関係を持って”の部分は複雑だ。
一人だと、追いつめられたとはいえその女性を選んだという事だ。それはそれで大問題だが、“何人か”というとまた困る。
女性なら誰でも良い人間だとは思いたくはない。
ただ妹はもっと複雑な想いであることは容易に想像がつく。
「だけど、私は警備が厳重で会えなかったんだって。だけど、お姉ちゃんとは合流出来たんだって」
「そうかー。でも
「でも合流してすぐに、お姉ちゃんとえっちしたんだって」
完全に固まって、注いでいたお湯がカップからだばだばと溢れ出す。
だけど動けない。考えが
それでも言葉を振り絞る。
「そ、そ、それは無いわ。確かに
「どうして?」
真摯な目。誤魔化しは通じそうにない。
それに誰にも悟らせないようにしてきたはずの秘めたる想い。
だけど、それを妹が知っていたとしても決して有り得ないとは言えない事も知っている。
妹は決して世間知らずのお嬢様ではない。自分と同じ境遇の中、ひたすら周囲の顔色を窺って生きてきたのだ。
親すら信じられない閉ざされた逃げ場の無い世界。そこに現れた一つ下の少年が与えてくれた安らぎ。
そこに愛情が無かったといえばうそになる。だけど――、
「
「私はね、裏切りなんかじゃないと思うの。確かにお姉ちゃんの事を一番知っているのは私。だからそんな事は、本人から言われない限り決して信じたりなんかしない」
「え、じゃあ」
「でも
「……その当時の状況は分からないわ。でもきっとちゃんとした理由はあると思うの。そうね……最初に言ったことが本当だとしたら、
「お姉ちゃんが好きな
「それは……、でも本当に分からないの。私はそんなことしないと思う。絶対に
「ふう……お姉ちゃんはそういうけど、私はある意味、これは良い機会だと思うの」
「いい機会? どうして?」
「私はお姉ちゃんの気持ちを知っていて、お姉ちゃんがいない時に告白した。
「……もしどちらかを選べと言われたら、彼は必ず
「お姉ちゃんがずっと傷ついていたじゃない!」
「だって、私はお姉ちゃんだから」
そう言った
「私はそんな負い目を抱えたまま生きていたくないの! でも……でも
「私は……私は……」
封印していた心を、知らない自分が引っぺがしたのだ。
しかも詳細も何も分からないままで。
「……分かった。この話は今度にしましょう。まだ時間はあるのだし」
「そうね……でも
「え、今何て?」
「だから
「違うって。
「あー、うん、確かに気になるわよね。お姉ちゃんとしては、男同士の恋愛だって当人同士がそれでいいなら良いと思うの。だけど
姉にそんな知識を吹き込んだのは誰なんだろう……。
というより、ここまでの話をしておきながら今更ジョークは無いと思う。姉は本気だ。
なんだか、そちらの方が心配になってきた
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