第453話 ここがみんなと戦う最後の戦場か

 戦闘組は全員、俺より先にテントから出て行った。

 出遅れたというより、アイツらが早かったんだよ。

 それに、出て行く時にそれぞれ肩を叩いて行った。

 そうだな……全員知っているんだ。これが成功すれば、最後は俺一人に掛かっている事を。


「それじゃあ、行ってくるよ」


「行ってらっしゃい。成功を祈っているわ。だけど過去に戻る貴方もいるのよね。そっちも一緒に祈っているわ」


「ああ。では、な」


 言いながら、一つ引っ掛かていた事を考えていた。

 奴は倒され死を自覚すると過去に戻る。正しくは過去の自分に今の自分を上書きするんだ。これは今更な話だな。

 それに加えて、奴は俺が大嫌いだ。絶対に殺したくってしょうがないから、わざわざ俺という存在とリンクした。双子が言うには、俺が生きているのか存在しないのか、それが分からないと安心できないからだそうだ。

 それを可能としたのも、俺が召喚者という特殊な存在だからなんだよな。


 俺たちにとって、こちらで時間は実際には止まっている。世界の摂理からは外れた存在で、本当の俺たちの時間はまだ日本にある。

 だからこそ、奴は時間遡行に俺を巻き込むことが出来た。というより、そうだからこそそうしたのだと思う。

 ここで一つ疑問だ。

 時間から外れた存在だからこそ、俺は奴と共に時間を遡行する。

 そこで時間は分岐して、奴を倒した後の世界と奴が戻った今とに別れる……までは良いとしよう。

 だけどそこに、本当に俺はいるの?

 実は誰にも話してはいないが、実際にはいない可能性もある。

 多分俺は奴と一緒に時間を戻されて、元の時間に俺は存在しない。一緒に連れて来られているって訳だな。


 確証はない。だけど、確率は低くはない。

 さっきテントを出る時に挨拶した風見かざみの表情――なんとも複雑な顔をしていた。

 勘の鋭い彼女の事だ。俺の考えは見抜いているだろう。

 その予想が正しければ、ここまで戻ってきた世界には、もう俺はいない。

 今回も、ここで倒せば俺はこの時代から消える。

 しかしその場合、その後の世界では死んだら死にっぱなし。

 残って事情を知るみんなは新たな召喚をしないとは思うが、彼らに日本に帰る術はない。

 かなりの負担を押し付けてしまうな。

 ただまあ、そんな気がするだけだ。案外最初に考えた通り、俺は分岐した世界に残っているかもしれない。

 それは……奴にしか分からないだろうな。





 ※     ◎     ※





 考え事をしていながらも、移動は止まらない。

 かつては道なき道をひいこら言いながら移動したものだ。

 だけど今は違う。全員が、あの時の俺よりも高い身体能力を持っている。

 木々の上を渡り、谷を越え、崖も素早く足場を見つけては跳ねながら登る。

 ユーノスの廃墟につくまでには、1時間と掛からなかった。

 見た限りでは何もいない。不自然なほどにね。


 以前行き来した時は、遠巻きに野生動物がいて、鳥も飛んでいた。でも今は全てが消えている。

 代わりに充満する奴らの気配。あまりにも濃く、そして広い。

 案外――じゃないな。向こうも分かっていたんだろう。

 結局何処へ逃げても、昔ほどゆっくりとはしていられない事を。だからかつて作った最高の巣へと逃げ込んだ。

 確かに一度は見失ったし、ここは奴のシェルターだ。

 本当なら誰も来ないまま休みたかったろうが、残念ながら俺もまたここを予想していた。

 案外、俺たちは似た者同士なのかもな。





 □     ▽     □





「奴らの気配が充満している」


「あたしでも分かるです。かなりの数ですよ」


 破壊された廃墟に残った数百メートルの壁。ここからセーフゾーンへの入り口が一望できる。

 もう全員が配置につき、俺と千鳥ちどりで最終確認を肉眼でしているところだ。

 もっとも、実際は見える奴などいない訳だが。


「そうだな。普通に戦っていたらきりがない。こちらが力尽きるかもしれないし、不利になれば逃げてしまうだろう」


「ならどうするです?」


「取り敢えずこうしよう」


 スキルをフルに使って、俺を中心に周囲30キロメートルの円を描く。

 当然やる事は一つだ。奴らの命を外す。

 一瞬にして消える無数の気配。だけどやっぱり点々と残る。

 というより、今ので本体がここに居る事がハッキリと感じ取れた。場所までは分からないが……。


「少し仕留めきれなかったが、ここからが本番だな」


「余計な邪魔が入らなければ、むしろ大物狩りは得意です」


 そういや、大穴戦でも大量の通常モンスターがいたな。千鳥ちどりチームの強みは連携だ。アレはかなり邪魔だった訳か。

 だが本体戦でも一瞬にして多くの仲間を失った。油断は禁物だ。


「では行こうか。ただくれぐれも本体とは戦うな。これは厳命だ」


「俺は良いんですよね?」


 龍平りゅうへいはやる気十分といった感じだな。


「ああ。本体を倒すのは俺たちの役目だ」


「では」


「とつにゅ――」


 合図をしようとした途端、セーフゾーンから2体の眷族が飛び出してきた。

 ここのセーフゾーンは土に埋まったピラミッド形。出入り口の階段は2つあったが、両方から出てきたわけだ。

 片方は、20本以上の足があるタコと言った形状だ。

 図鑑で見た事があるな。本来なら全身は赤く、無数の目が頭と言わず足と言わず全身にみっちりとある。強さも相当なものだと記載されていたな。


 もう片方は3つの団子を連ねたような奴だ。

 こちらは見た事も無い。

 共通している点は、既に青白いゲル状の体は完全に剥がれ、真っ白い体をしているって所か。

 何回か脱皮を繰り返して眷族となるそうだが、こいつらはその中でもトップクラスの敵だろうな。

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