第452話 では決着を付けに行こう

 俺が近づきすぎるとなんとなくバレる気がするので、仲間が設置した監視カメラの様なアイテムでセーフゾーンの入り口を監視中だ。

 机の上に置かれた円形の金属板に様子が映っているが、毎度の事ながら本当に何でも出土するな迷宮ここは。

 最初の内はちらほらと雑魚が出てきていたが、ここ数日は一切見られなくなった。

 代わりに数回眷族が出てきたが、これもあまり遠くまではいかなかった。かなり警戒していたのだろう。

 そして今は、そいつらもいない。

 しかしここを諦めたわけでは無い。離れていても分かる程に、奴らの気配が充満している。

 いよいよ集結を始めたのだろう。つまりは、本体がセーフゾーンに入ったわけだ。


 奴は時間遡行をすると疲労するとは聞いている。

 何せ時間をさかのぼって過去の自分に今の自分を上書きするのだ。そりゃそうだろうとは思うが、回復までにどのくらいかかるのだろうか?

 人間なら十分な休息と食事ではあるが、奴もそう考えてよいものかどうか。

 聞いておけばよかったが、どうせケースバイケースだろうな。

 よし、無駄な事を考えるのはやめよう。


 周囲を見渡せば、何だかんだでずっと俺を支えてくれた風見絵里奈かざみえりな

 最強チームと名高い千鳥ゆうちどりゆう率いる国生こくしょう柳橋やなぎばしら6名。


 それに連絡がついた持尾介司もちおかいじ丹羽静雄にわしずお宮本忍みやもとしのぶ秋月緋和あきづきひわの4人の教官たち。

 一応、持尾もちお丹羽にわは元々千鳥ちどりのチームからの引き抜き組だ。

 特に新人を率いる事も無いので、普通に彼女のチームとして行動してもらう。


 更には当然いる西山龍平にしやまりゅうへい


 このメンバーの内、風見かざみはバックアップ要因としてここに残る。

 そして他のバックアップとして、11期生から木谷敬きたにけい。13期生からは栄優輝さかえゆうき遠藤美紀えんどうみきに来てもらった。

 木谷きたにはここに来たころと比べて、大分大人びて来た。

 相変わらず可愛らしいアニメキャラのシャツは身に付けているが、その外側はグレーのスーツの上下。

 以前の趣味の悪いストライプ柄とは違うが、デザインは似通っている。実はギャンブル好きな点なども以前と同じだ。やはり本人なんだなと実感する。

 以前に教官組のリーダーを任されていただけに、理知的で思慮が深く視野も広い。色々と教わる事も多かった。

 相変わらず女性相手にはキョドリまくるけどな。そっちは改善されなかった。


 さかえ遠藤えんどうは、以前の時間帯では丁度この後しばらくして亡くなった。

 だけど今は死なない。新型の塔が間に合って良かったよ。

 そういった意味では全員投入の総力戦こそが正解かもしれないが、実際には足手まといだ。

 というか、誰かが死ぬたびに俺がスキルで日本に帰していたらまともに戦えない。

 あれって結構負担が大きいんだ。


 フランソワらの14期は召喚されたばかりだし、奴らと戦って多くの仲間を失ってからまだ1年も経っていない。

 まあ時間など俺たちには関係ないが、それでも新人という事で誰も連れてこなかった。

 だから今回はこのメンバーのみでやる。


 多少戦力としては不安だが、これで倒せないなら次はもう絶望だ。

 何せ次に奴が時間遡行するとしたら、結果は2通りが考えられる。

 本来なら無数の可能性があったのだろうが、奴が俺と繋がったせいでそうなったんだ。

 ざまあみろと言ってやりたいが、これで返り討ちにあったらギャグだな。


 さて話を戻すが、1つがラーセットを襲った時だ。

 俺と繋がってしまった以上、俺のいない時間には戻れない。時間遡行のチートもそこまでと言う訳だ。

 これは双子の情報だからな。間違いはないだろう。

 だから当然ながら、これが一番可能性が高い。

 そしてその時点で奴がいた場所は、もう椎名愛しいなあいが調べてある。

 更にはその前後の動きから、磯野いそのがあの時代の迷宮ダンジョンの地図も作ってくれた。

 奴を倒せばそれで終わりなんだ。新たな塔を作る必要もない。奴が逃げ切る前に、完全に捉えられるだろう。


 最大の問題は、武器も何もない状態で奴と眷族の集団に勝てるかだな。

 だけど勝たなければいけない。その為に、多くの犠牲を強いて来たんだ。

 ここで俺が負けたり引き下がったりしたら、全てが無駄になってしまう。

 例え相打ちになっても倒してやるさ。


 もう一つのケースは、一緒に地球に行くパターンだな。

 まあ以前も考えたが、こちらの可能性は低いと思う。

 それにどっちにせよ、よほどの事が無い限り互いに向こうで出会う事は無い。

 地球は広すぎるし、近代兵器は奴の想像の遥かに上を行くだろう。迂闊には動けまい。

 それでも最後には時代の地球人類は滅ぶが、その点はどのみち変えようが無い。

 そうこうしている内に、俺は再びラーセットに召喚される。当然奴も付いてくるだろう。今度は俺に引っ張られてね。


 そこから先は最初のプランと一緒だ。

 もう時間的に、遡行限界に引っ掛かる。ラーセットに戻っても、再び地球へは戻れまい。

 後はやる事は一緒。

 多少回り道をするだけだな。


「クロノス様、全員準備が整いましたよ」


「7期生、全員完了です」


「あたしら教官組も準備OKだよ。まあ二人しかいないけどね」


「こちらもいつでも準備出来ていますよ。早く戦わせてください」


 龍平りゅうへいは相変わらず血の気が多い。

 そして後衛組の木谷きたにはサングラスをクイッと上げると、


「バックアップはお任せください。最高級の薬に予備の武具、その他色々と準備済みです」


 スーツの下のシャツは気になるが、かなり昔の木谷きたにっぽくなったものだ。

 本当に良い感じに育ってくれたと思う。


「玉……フランソワさんの”どっちに転ぶか分からない爆薬”も準備済みです。いつでも使えますよ」


 それは使わん。

 ではまあ――、


「じゃあ行こうか。この時代での決着を付けにな」

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